第一話 俺、召喚、強制ヌード!
急に目の前が暗転したと思ったら、俺は異世界に召喚されていた。
「ひ、姫様、この者は!」
「ああ、なんてこと」
ここは何かの祭壇らしい。
目の前には、高貴なドレスを身にまとった、綺麗な銀髪のお姫様がいる。
なぜだか両手で顔を覆って、悲壮な声を出していた。
「落ち着いてください、サリア姫」
そのお姫様を支えるように、女魔導師が寄り添った。
彼女は真紅のローブに身を包み、手には、丸い水晶球のようなものが埋め込まれた杖を握っていた。
「姫様、どうか我々に命令を。召喚したものの責務です」
今度は、銀色の鎧をまとった女騎士たちが10人くらい、俺の周りを取り囲んだ。
全員が、鈍く光を放つ長剣を構え、俺のことを不倶戴天の仇敵のように睨んでいる。
「えっと、すんません。俺って今、良くない状況にいる感じ?」
女騎士のひとりが答えた。
「お互いに悪い状況だと教えておこう。この召喚は、本来あってはならない結果を生んだのだ」
「どういうことよ?」
女騎士は、剣の切っ先を俺に向け、「勝手にしゃべるな」と無言で命じた。
そうして、横に数歩ずれると、後ろで愁嘆しているお姫様に、場を譲る。
お姫様は意を決したように、毅然と凛々しい顔になって、辛い現実を俺に伝えた。
「私たちが呼ぼうとしたのは女の子の勇者です! 男性は勇者になれず、犯罪者になってしまうんです!」
「は、犯罪者ぁ!?」
「王女サリアが命じます! 我が騎士たちよ、犯罪者予備軍のこの男を、今すぐ処刑してください!」
そんな勝手な!
そう叫ぶより早く、騎士たちの剣が閃いた。
俺の体を八つ裂きにしようと、四方八方から斬りかかる。
(ああ、終わったわ俺)
諦めかけたその瞬間、俺の心臓が強く跳ねた。
右手が熱く、光を纏っていくのがわかる。
頭のなかに、声が響いた。
『我が名は女神エローラ=トローラ。今こそスキル【強制ヌード】を発動し、女性の体を解き放つのです』
「【強制ヌード】!?」
右手がまばゆく輝いた。
閃光が俺の周囲に迸る。
叫んだことで、スキルとやらが発動したのだ。
「きゃあ!」
「ひゃう!?」
「いやぁ!」
光に呑まれた騎士たちの悲鳴。
剣と鎧が粉々に砕けた。
閃光が晴れた後、彼女らは、一糸も纏わぬあられもない姿となっていた。
「そんな、わた、裸っ……」
みなさん発育が良くて豊満だ。
女騎士たちはたわわな胸を、両手で隠してうずくまった。
大きすぎて、しっかり見えてますけどね。
「こ、こんなことが」
後ろではお姫様、サリア王女が、蒼白な顔で震えている。
そのサリア王女を守るように、女魔導師が、俺の前に立ちふさがった。
「けだものめ!」
手にした杖の宝玉が輝く。
が、俺の声のほうが早かった。
「【強制ヌード】!」
光が走り、紅いローブが引き裂かれる。
こっちの胸は、騎士たちに比べて小ぶりだった。
だがしかし、それはそれで深い味わいがあっていいものだ。
「裸……裸……」
女魔導師は、がっくりと両手両膝を地面についた。
胸やおしりを隠そうともせず、果てしないほど落胆している。
「あ……」
残されたお姫様に、俺は一歩近づいた。
「いやっ! 来ないで!」
俺はひとまず、交渉を持ちかけた。
「こいつらのようになりたくなけりゃ、俺を元の世界に帰してもらおう」
「で、できない、できないんです!」
割とお決まりの言葉が返ってきた。
よし、やろう。
「お待ちください! いや、待って! 人質にでもなんでもなるから、裸に剥くのは勘弁してぇ!」
言葉遣いがどんどん乱れるお姫様。
なんというか、必死さに少し違和感を感じる。
他の奴らの態度も妙だ。
たかが裸に剥かれたくらいで、女騎士たちは姫の警護を放棄してうずくまり、女魔導師は深い絶望に囚われている。
全員ともが、目から光を失っていた。
「どうやら裸にされることは、お前たちにはよっぽど都合が悪いらしいな」
右手をワキワキと動かしながら、俺はサリア王女に迫っていく。
王女は涙を流して懇願した。
「やめてぇ! この世界で裸は罪なの! 重罪なの! 誰かの前で裸を見せたら、強制労働所送りなのぉ!」
よくわからないが、よぉくわかった。
俺は姫様に右手を突き出しながら、交渉を続けた。
「さっき人質になるって言ったな。俺はどこまで逃げれば安全に生きられる?」
「こ、この王国では無理よ。最低でも、勇者信仰のない別大陸まで逃げないと……」
海を超えるということか。
上等だ。
「いいだろう。あんたには人質兼案内役になってもらう。言うことを聞かないようなら――」
「聞く、聞きます! 裸に剥かれるくらいなら、強姦されたほうがマシよぉ!」
いや、それはおかしくね?
都合がいいから、とりあえずスルーしとくけど。
「周りの全裸女ども! お前らが裸になったこと、俺は黙っていてやることにする!」
騎士たちの目に、わずかながらの光が戻った。
女魔導師も、神に縋るような顔で俺を見ている。
「条件はたったひとつ。俺がこの姫様を連れてこの場所から離れるきるまで、俺達を追わないこと」
彼女らは一瞬だけ迷ったが、目配せしあうと、全員が首を縦に振った。
「よし、じゃあ行くぞサリア王女!」
「わかったから、その右手を向けないで!」
こうして、俺の異世界逃亡記にして着衣剥奪戦記が、堂々と幕を開けたのだった。