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着るしかないですよ、もう

「……ここは、王城のデルマティティディス様のお部屋ですね?」


 黒やブラウン系で整えられた、重厚な雰囲気のお部屋。討伐騒ぎで王都へ旅してきたときに入れてもらっていたので、なんとなく見覚えがあった。 

 暖炉には火が入れられ、きれいな炎がゆらめいている。


(……と思ったけど、なんだか新しい? レイアウトや家具は全く同じだけど、古い感じがなくなっているわ。リフォームでもしたのかしら?)


 冥界から帰還した私たち。現代から持ち込んだ実験道具たちも、しっかり一緒に転移してきていた。そして、腰にはなぜかデル様の腕がしっかり回されている。


「ああ、そうだ。セーナ、とりあえず湯あみをしてきたらどうだ。色々と疲れているだろうから」


 言いながらデル様は私のおでこやら耳やらに唇を落としていく。やたら雰囲気が甘いのが気になる。


「は、はい……。お気遣いありがとうございます」


 そんな風にされると、いろいろ経験値が低い私は誤解しそうになるからやめてほしい。

 つまり、デル様はまだ私を好きでいてくれているのではないかと。


(否、そんなはずはない。私は彼を傷つけたのだから)


 ブラストマイセスのためとはいえ、彼個人の気持ちはないがしろにした状態で地球へ戻ったのだ。期待してはいけない。XXX-969を渡したら私はもうお役御免なのだから……。

 

 落ち込みつつも、侍女さんの促しにしたがって浴室へ向かった。





 岩場から扉に向かう間に少し汗をかいていたので、さっぱりさせてもらえるのは正直ありがたい。

 案内された浴室は十分すぎる広さがあり、蒸気をあげる湯がたっぷりと張られていた。


 浴室の鏡の前に座り、ごしごしと洗っていく。

 長い闘病生活でかなり痩せてしまっていたけれど、死んでリセットされたのか顔色や肌ツヤは良い。元々丸顔だったから少しシャープになった今ぐらいがちょうどいいなと思う。

 意外にも胸回りの肉はほとんど落ちていなかった。髪は相変わらずもっさりしており、垢抜けない雰囲気は健在だ。


 髪と全身をくまなく洗い終えて、湯船につかる。

 お湯の温かさが、五臓六腑に染みわたるようだ。


「はぁ~、極楽極楽。……あれっ、極楽って天国のことだっけ? 私は死んだから、やっぱりここは天国なのかしら……?」


 思考がとろけてきて、よくわからないことを考え出してしまう。

 今日1日でいろんなことがありすぎて、疲れが出ているのかもしれない。


 そのうち薬湯の調合について考えは巡り、気付いたら湯船で寝そうになっていた。

 半分のぼせあがっていた私は、急いで湯からあがった。


(ふ~、さっぱりしたわ!)


 脱衣所に戻ると、いい匂いがするクリームや、ふかふかのタオルが用意されていた。

 さすが王城の備品、センスがいいなと感心する。生前こういう女子力グッズには縁がなかったけれど、用意してもらえるならつい手が伸びてしまうのが私だ。


「あ、着替えまで置いてくれてる。助かる~!」


 丁寧に畳まれた白い衣服を手に取る。


 ……はらりと広げてみて、思わず仰天した。


「なんだこれ!!?」


 簡単に言えば、それは透け透けのミニワンピースだった。


 フリルやレースがふんだんにあしらわれており、セクシーと可愛さを兼ね備えた逸品に見える。

 イケてる女子が部屋着に使うようなもの、あるいは勝負の晩に使うようなものにしか見えなかった。間違っても私のような地味アラサーが身に付けるものではない。


(何かの間違いじゃないかしら!?)


 脱衣所の出入り口を少し開けて、すぐそこに控えている侍女さんに声をかける。

 透け透けワンピを見せながら、これは着られない、何でもいいから別のものが欲しいと訴えるも、なぜか笑顔で拒否されてしまった。


「それしか用意がございませんので」


 その一点張りだった。

 さらに悪いことに、私が着ていた死装束は洗濯にまわしてしまったという。

 まあ、死装束をもう一度着るのは気が進まないけれど、この透け透けワンピよりはマシだと思った。でも、それすらもう無い。


 つまりこれを着るか、全裸か、その二択しか残されていない。


(着るしかないじゃないっ……!)


 いくらなんでも全裸は論外だ。

 頼りない布面積に戸惑いながらも、もじもじと着用し、脱衣所を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死に装束のまま異世界転移(転生?)するなんて初めて見るパターン(;゜Д゜) ここで言うのもなんだけど、何度異世界モノをアニメで見ても異世界転移とか転生のメカニズムがいまいちわからん(-_-;…
[一言] おぅふ!食べる気満々や、デル様……♡
[良い点] こ、これは……魔王様大胆すぎでは!?www 小説なのに横目でチラチラ見てしまいそうなくらいドキドキな展開ですね!
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