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虹色の魔法


 それからしばらく芝生の上で談笑していたけれど、そろそろ出発しないと夕暮れまでに帰れなくなることに気づく。

 話がひと段落したところで、よっこらしょと立ち上がる。


「デル様、先ほどお話した通り、私は今日市場に用事があるんです。すみませんが、そろそろ出発しますね」


「そうか。護衛代わりについて行こうか? 虚弱だが、私は強いぞ」


「魔王様が護衛って意味がわかりませんよ!? トロピカリの治安は悪くないですし、一人で全く問題ありません。でもお気遣いありがとうございます」


「そうか」


 デル様は少し残念そうな顔をしていたけれど、素直に引き下がった。


「ではこの家でセーナの帰りを待つことにする。すまないが机を借りていいだろうか? 書類仕事をしたい」


「それは構いませんけど……私が戻るのは夕方ですよ? いったんお城へ帰られた方が、リラックスしてお仕事できるんじゃないです? 仕事道具を持ってくるのも大変でしょうし……」


「いや、ここがいいんだ。仕事道具は魔法陣で送らせるから、何ら手間ではない」


 魔力は掃いて捨てるほどあるからな、とデル様はニヤリと笑った。


「護衛できない代わりに、これはさせてくれ。往路だけですまないが」

 そう言うと、彼は快晴の空に向かっててのひらをかざし、何やら呪文のようなものを呟きはじめた。


(なんだろう? なにかの魔法を使おうとしているのかしら……?)


 かざした左手の指先からまばゆい光が飛び出し、ひし形の魔法陣っぽい模様を描き始める。そして、その模様に引きずられるように、周囲の空間が少し歪んでいく。


 指パチンの魔法とはまた違う種類のものだと、直感的に感じる。

 いくつもの小さい粒が円状の軌道を描き、交差している。それをたくさん組み合わせて少し大きな粒になり――を繰り返している。

 まるで空気中の物質、原子や分子、そんなものを分解し、再構成しているような……。ロマンチックの欠片もない感想だと我ながら残念だけど、理系脳の私にはこれ以上ない神秘的な光景が広がっている。


(デル様って、本当にすごいのね。物質を分解して別のものを創造するなんて、神の所業よ……)


 とんでもない友人を持ってしまった。

 そう思いながら彼の顔を見ると、視線が合ってニッコリしてくれた。呆けた間抜けな顔を見られて少し恥ずかしい。


 パチンッ!


 指をはじく例の音がすると同時に、魔法陣から七色の光が勢いよく飛び出していく。

 勢いに押された光のカケラが、きらきらと私たちの頭上に降り注ぐ。


「わぁ…………っ!!」


 呼吸を忘れて、その神々しい光景に目を奪われる。

 七色の光はまるで龍のように螺旋を描いてぐんぐんと天に上り、森を越えてゆるやかに弧を描き――最終的に、遠くの地面に根を下ろした。――まるで大きなアーチのようだ。


「デル様っ、これは虹ですね!?」


 興奮して彼に話しかける。


「そうだ。でもただの虹ではないぞ。そこに座りなさい」


 デル様が機嫌よくある一点を示した。示されたのは、芝生から生えている虹の根本だ。

 

(座る? 虹に座れるの?)


 疑問でいっぱいだったけれど、これはデル様が作ったものだ。創造主が座れるというのなら、そうなんだろう。

 おそるおそる、虹にもたれかかるように腰を下ろしてみると、お尻に固く触れて確かに腰かけられた。


「ではセーナ、気を付けて。ずっと出しっぱなしだとさすがに住民が混乱するので、そなたが下り次第これは片付ける。帰りは歩いて戻るように」

 身をかがめてくくく、と小さく笑うデル様。えっ、なんだか面白がられてます??


「えっ? じょ、状況が呑み込めないんですが………きゃっ!?」


 お尻の下―――虹が動き出した。

 めまいがしたかのように、グラッと身が揺れる。


「わ、わ、わ……っっ!!!?」


 とっさに籠にすがりついて身を固くする。

 虹がベルトコンベアーのようにぐんぐん動き、私を運んでいく。みるみるうちに地面が遠ざかり、同じだけ高度が増していく。


(怖い怖い怖いっっ!!)


 あっという間に森の木々がお尻の下に見えるようになった。

 なんらファンタジーでは無い。私は高いところが苦手なのだ。小さくなっていくデル様が満足げな顔をしているけれど、とんでもないことをしてくれたとしか思えない。

 ギュッと強く目を閉じて、情報を遮断する。


 到着までおそらく10分くらいだったと思うけど、とても長く感じた。

 虹コンベアーの動きが止まったところで、ようやく目を開ける。


 降り立ったのは、見慣れた黄色いレンガ道。

 周囲を見回し、ここが市場まで5分くらいの位置であることを認識する。


(――――顔も体もガチガチだし、精神的にすごく疲れたわ)


 ひとつ長いため息をつき、私はよぼよぼと市場に向かって歩き出したのであった。


デル様なりの愛情表現なのです

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― 新着の感想 ―
[一言] 虹コンベアーwww 名称に笑いました。 私も高所恐怖症なのでそんなものが現在社会にあったら…………乗るよー!!(笑) 往路が楽になるなんて乗るに決まってるじゃないですか! ただし目は瞑ります…
[良い点] >まるで空気中の物質、原子や分子、そんなものを分解し、再構成しているよう この表現好きです。きらきらファンタジーしてなくてすごく刺さりました。
2020/10/18 22:01 退会済み
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