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細胞採取に向けて

デルマティティディス目線。

 

「デル様、今帰りました。お加減どうですか?」


 控えめなノックのあと、カチャとドアが開き、ひょっこりセーナが顔を出した。


「お帰り。今日はずいぶん早いのだな? 具合は……まあ、いつも通りだろうか……」


 セーナはいつも18時くらいに帰ってくるが、今はまだ17時前だ。不思議に思いながら彼女の問いに答える。

 鉛のように重い身体を、腕に力を込めて支える。身体を起こすだけで一苦労になる日が来るとは、思ってもみなかった。


 角を負傷してから、体調はいよいよ芳しくない。

 フラバスはこの状態に身体が慣れるまでの辛抱だと言ったが……良くなるどころか悪くなる体調をうけて、先日見立ての誤りを申し出てきた。床に頭を付ける彼は、我が国一番の医師だ。その彼にも読めない事態が起こっていることに、少なからず恐怖を感じたのは事実だ。

 いや、以前の私であれば、これも運命だと受け入れただろう。しかし、今は死ぬのが惜しい。少しでも長くセーナと共にありたいと、その願いだけで、日々苦痛と戦っている。


 私の気力が苦痛に勝る限りは大丈夫だ。恰好の着かない魔王だとしても、彼女がそれでもいいと言ってくれる限り、みっともなくとも生きて行こうと決めている。


 全てはこの妃のため。

 その唯一無二は、私の目を見てにこにこと笑顔を浮かべた。


「お側に行ってもいいですか?」


「もちろんだ。こちらへおいで」


 セーナはとことこ寝台の脇に駆け寄り、彼女がいつも使っている椅子に腰かけた。

 急にどうしたのかと思って彼女を見つめていると、彼女は嬉しそうに口を開いた。


「朗報です。再生医療の設備が整いました。さっそく明日、デル様の繊維芽細胞を採る手術をしたいのですが、よろしいですか?」


「……!! それは確かに願ってもいない朗報だ。明日だな、もちろんだ。宰相に連絡して、予定の調整をさせよう」


「ありがとうございます! 術後の経過確認を含めて、念のため5日は空けてもらってください」


 すぐに宰相に念話を飛ばし、明日から5日間の仕事を調整するよう伝える。

 既に仕事の大部分は彼を含めた中枢議会が肩代わりしてくれているから、悲しいことではあるが特別大きな支障はないだろう。


 すぐさま宰相から「承知いたしました」と返事が来た旨を、セーナに伝える。

 彼女はホッとしたように頷いて、言葉を続けた。


「ありがとうございます。じゃあ、前に一度お伝えはしてますが、明日やることの再確認させていただきますね」


「頼む」


 以前説明は受けていたが、私の不安を取り除こうとこうして再確認してくれるあたり、セーナの優しさを感じる。


「明日の手術で、デル様の身体の一部を採取します。そこから線維芽細胞というものを培養し、iPS細胞にします。iPS細胞は何にでもなれる能力があるので、デル様の角になることができるはずです。これが、おおまかな研究の内容です」


「そなたはよくそんなことが出来るな……。私の魔法や魔術より、遥かに凄いことをしているように思える」


 セーナは毎晩研究について、あれこれ楽しそうに話してくれる。その様子を眺めているのはとても心安らぐのだが、正直なところ話している内容についてはさっぱり分からない。理解しようにも、もとの知識量が圧倒的に違うのだ。彼女の形のいい頭のなかは一体どのようになっているのだろうと、常々疑問に思っている。


 彼女は異世界で研究者をしていたというだけあって、とんでもない発想と技術を持っている。私の魔力は持って生まれたものだが、彼女のそれは、努力で身に付けたものに他ならない。それをひけらかしたりしないあたりにも、彼女の真面目さがうかがえる。


「いやあ、再生医療は大学時代の卒論で少しかじっただけなので、全然ですよ。試行錯誤しながらっていう感じになるので、兵器開発の時ほどスムーズには行かないと思います。すみません」


「いや、いいんだ。むしろ、すまないな。そなたには世話をかけてばかりだ……」


「やめてくださいデル様。その話はナシにしようって決めましたよね? そもそも夫婦は支え合うものですよ。病めるときも健やかなる時もって言うじゃないですか! あっ、こっちでは言わないのかな? ――まあ、とにかくもう気にしないでください。それでですね、明日の手術なんですが9時から王都中央病院で行います。執刀はドクターフラバスです。局所麻酔なので、朝ごはんは普通に食べて大丈夫です。食べられればですが……。怖かったら全身麻酔にもできますが、どうしますか?」


「平気だ。局所麻酔の方が簡単で、身体への負担が少ないのだろう?」


「はい、そうです。こちらとしても、デル様の体調を踏まえると局所麻酔でできるとありがたいです。――問題ないとのことなので、予定通り局所麻酔ということ連絡しておきますね。手術室に入る前には全ての衣類を脱ぎ、手術専用の衣服に着替えて頂きます。それで、担架のようなものに乗って入室します。麻酔は手術台の上で行います」


「うむ、問題ない」


 手術は初めての経験だが、体調を治すためには、治療を受けない選択肢などない。

 未経験のことに対する緊張は少しあるが、まあ大丈夫だろう。


「麻酔が効いたことを確認したら、いよいよです。デル様の包皮を採取します」


これにて冬休み毎日更新は終了です。次回は1/7に更新予定です。

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皆様にとって2021年が素敵な年になりますように。

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本作が大幅改稿のうえ書籍化します! 2022/9/22 メディアワークス文庫から発売予定


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― 新着の感想 ―
[一言] いつかは魔法や魔術でも、似たような事ができる日が来そうな気がする。 もちろん、セーナちゃんが進歩させた科学の補助があってこそだけどね。 科学と魔術。もしくは魔法。 個人的には、どちらも世界…
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