プロローグ
11月のよく晴れた小春日和の日に、彼女は亡くなった。
『セナマイシン』
それは、彼女が開発した薬の名前だ。
当時27歳という若さでありながら、彼女――――佐藤星奈は大変優秀な研究者だったという。
サンプルの細菌や実験動物に名前を付けて愛でるなど、不思議な行動――いわゆる変人という一面を持ちながらも、飾らない性格は皆に好かれていたと、当時の同僚は言った。
才能も人望もあった彼女だが、研究対象の菌に感染してしまい、数年の闘病の後に早逝した。
彼女が命を懸けて研究開発した治験薬XXX-969は彼女の名を取って「セナマイシン」と命名された。
本来この薬はスタフィロコッカス フィラメンタスという細菌に対する特効薬として開発されたものだが、彼女の死後続々と新しい薬効が明らかになった。
世界で多くの人命を救った功績と、かつてない作用機序を持つセナマイシンの有用性が評価され、死後50年の際にノーベル医学・生理学賞を受賞した。死去している者が受賞するのは異例中の異例だが、選考委員で反対意見を出した者はいなかったという。
――――彼女の故郷である北海道には石碑が建てられている。彼女が愛した自然、植物、動物たちに囲まれて、静かにこの地を見守っている。
物語の始まりです!
お楽しみ頂けると幸いです。