教会と兵隊が対立している件
家の外に出ると、すでにクカ村の人々――ハンセン病の症状で手足や顔がただれた様に変形している――は皆、屋外に出ていた。
外には大きなたき火が、激しい炎を上げている。
「よし、26名……これで全員だな」
村の入り口には、剣を携え、顔をマスクで覆った大勢の兵士たちが並んでいる。その先頭に立つのは、馬に乗った偉そうな、指揮官のような兵士だった。指揮官は村人が全員そろっているのを確認すると、健介の方に目を向けた。
「おい、そこのお前、そう、お前だ。お前は『醜物の呪い』にかかっていないようだが?」
「指揮官様、この旅人のお兄さんは、偶然、クカ村に迷いこんだのです」
おばあさんが指揮官に、健介のことをそう説明してくれる。
「さようか?」
「そうです……」
「では、こっちに来い」
村人たちを守ることができない健介は、力なくそう答える。
健介は兵士たちに連れられ、セーラやおばあさん、村の人たちから引き離された。
健介が後ろを振り返る。
おばあさんも、セーラも、他の村の人たちも、どこかあきらめたような、そして悲しい顔をしている。中には、地面にひれ伏して涙を流している人もいる。
健介には何もできないのか……
「旅人さん、これを」
兵士が健介の口にマスクをつける。
「よし、ではこれより、クコ村の処分を行う。村人たちを縛れ」
指揮官の言葉に従い、兵士たちが動き出す。
「お待ちください!」
その時、口にマスクをつけた馬に乗った修道女と、何台もの馬車を率いたマスクの修道士の一団が現れた。
「教会の者たちか……」
指揮官が面倒くさそうに呟いた。修道女が指揮官に向かい合う。
「クコ村の『醜物の試練』を課せられた者たちは、マルク収容所が受け入れます。お引き取りください」
「……悪いが、それはできない」
指揮官は修道女の提案を拒否する。
修道女は見たままのとおり、教会の関係者だろう。
この世界で『醜物の呪い』――ハンセン病にかかった者は、焼き殺されるか、収容所に送られる、とおばあさんとセーラは言っていた。
焼き殺すのは兵隊側、収容して隔離するのは教会側、ということらしい。
指揮官と修道女の論争は続く。
「何故です⁉ 『醜物の試練』を課せられた者は、生きてこの試練を全うしなければならないと、聖書にも書かれています。そんな者たちを私たちは支えているのです!」
「何が『試練』だ! 何が『支えている』だ! 結局お前たちは『醜物の呪い』を受けた者を恐れ、蔑み、偽善を振りまいて隔離しているだけではないか!」
「……だから、殺してもよいというのですか?」
「そうだ。『醜物の呪い』は放置すれば周りも蝕んでいく。被害を最小限に抑えるためには、すべて燃やし尽くしてしまうより他にないのだ」
「あなた、それでも人間ですか⁉」
「狭い収容所に閉じ込めるようなものたちに言われたくはない!」
なんだこれ……
なんなんだ、これ……
なんでこんなことで……
ハンセン病を治す技術が確立していないからなのか?
違う……
この二人とも……兵隊も修道士たちも、ハンセン病を、ハンセン病にかかった者たちを恐れている。指揮官の言っている通りだ。
……でも、だからといって、命を奪って良いことには、ならない。
ハンセン病患者の生きる権利を、奪って良いはずがない。
なぜか?
ハンセン病が治る病気だから?
ハンセン病の感染力は低いからか?
いや……全部違う……
彼らは、何も悪いことをしていないからだ。