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自分には何もできそうにない件

 「おばあさーん、倒れていた男の人、起きたー?」


 健介が考え込んでいると、家の中に中学生くらいの女の子が入ってきた。

 

 「ああ、あの子がセーラちゃんだよ」


 女の子――セーラの顔と手足も、醜く歪んだように変形していた。

 こんな小さな子供にも、この病気は牙をむくのか……


 「あら、起きていたんですね。大丈夫ですか?」

 「はい。三ツ谷健介といいます。危ない所を助けて頂いたみたいで、ありがとうございます」

 

 この国のやり方は知らないが、とりあえず日本式で頭を下げる。

 その様子に、おばあさんとセーラが驚く。


 「……こんな『醜物の呪い』にかかった私たちにも、頭を下げてくれるんですか」

 「……いや、このお兄さんは偽善者だよ。教会の連中と一緒さ」


 どうやら、信用してはくれないらしい。

 まあ、しょうがないか……健介は冷静に分析する。


 この異世界では、ハンセン病について正しく理解されていない。おそらくハンセン病を治す方法も発見されていない。ハンセン病患者に対する差別も、日本基準なら教科書に載るくらい酷いものなのだろう。とんでもない異世界に迷い込んだものだ。


 「さて……旅人のお兄さん、何かこの村にご用かい?」

 「いえ、僕はたまたま迷い込んだだけでして……」

 「そうかい、ならばさっさと出ていきなさいな」

 

 おばあさんの言葉にとげはない。まるで、親切心から言っているような感じさえ受ける。


 「ど、どういうことですか? この世界についていろいろ教えていただきたいことが……」

 「今日、この村は消えるんです」

 「き、消える?」

 健介にはセーラの言葉が理解できない。


 「お兄さん、頭本当に大丈夫かい? 『醜物の呪い』にかかった者は焼き殺されるか、収容所で死ぬまで暮らすかのどちらかじゃないか」

 「クカ村は、すべての住民・家・畑が処分されるんです」


 焼き殺される? 収容所? 処分?

 ヤバい。

 想像していた以上に差別が厳しい。

 ていうか差別どころじゃない! これじゃあ家畜の殺処分と一緒じゃないか!


 「おばあさん! セーラちゃん! ……逃げましょう。こんなことで人が殺されるなんて間違っている!」


 健介はこの世界にはびこる恐怖に駆り立てられるように熱弁する。だが、おばあさんもセーラもきょとんとしている。


 「何を言っているんだい? お兄さん?」

 「『醜物の呪い』にかかった者は焼き殺されるのは当然のことよ?」

 「運が悪かったんだよ、私たちは」

 「でも……もうちょっと生きていたかったかな……」


 ダメだ……根本的に価値観が違うのか……

 いや、でもセーラは悲しそうだ。

 何とかしてあげたい。

 

 (どうすればいい、三ツ谷健介……今から薬を作る……無理だ、ミナカタ先生じゃあるまいし……!)


 某江戸時代にタイムスリップした外科医なら何とかなったろうが、自分みたいなただの大学生には無理だ。


 (くそ! せめてドクターゴトーみたいなのがいれば!)


 健介は離島で無茶な手術を何度も成功させたドラマの主人公じゃない。仮に主人公だとしても、せいぜい異世界に紛れ込んだ勇者的な何かだろう。

 

 「おーい、ばあさん、セーラちゃん、兵隊さんがお見えになったぞー!」


 健介が悩んでいると、セーラやおばあさんのように『醜物の呪い』いや、ハンセン病で全身が醜く変形した男性がやって来た。


 「やれやれ、やっとお迎えが来たね……」

 「お兄さんも来てください。兵隊さんたちには私たちから説明します」


 セーラとおばあさんに連れられて、健介は家を出た。

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