異世界に迷い込んだ件
おばあさんはクッキーみたいなお菓子と、お茶を出してくれた。
「どうぞ」
「すみません、ありがとうございます」
健介はお菓子をほおばりながら、おばあさんの様子をみる。
醜く歪んだ顔、醜く変形した手足。それらは小刻みに震えている。
「……しびれますか?」
「そうだねえ……よくわからないわ。感覚がないの」
「そうですか……」
健介のハンセン病に関する知識は乏しい。あとで講演会の時にもらった資料を見直さなければならない。
いや、それよりもこのことを聞かなければ。
「あの……治療はしないんですか?」
「治療? 何を言っているんだい? 『醜物の呪い』は治らないよ?」
「え……?」
バカな。
ハンセン病が不治の病だったのは遠い昔の話。今では薬だってちゃんとある。適切な治療を受ければ後遺症も残らない。それくらいの知識は健介でも記憶の片隅にちゃんとある。
「ああ、そうだ。あとで隣のセーラちゃんにお礼を言ってあげな。彼女の回復魔法の能力でケガを直してもらったんだから」
「ケガ?」
「あんた崖の上から落ちたんだよ。気付かなかったのかい?」
じゃあ……森の中に迷い込んだのは夢じゃなかったのか。
あの時手に着いた額の血も、本物。そしてそれは回復魔法で治された。
……回復魔法? まほう?
「魔法って……あの魔法ですか?」
「頭を強く打ってまだどうかあるのかい? みんな生まれ持った能力で何かしら魔法か特技かを使えるじゃないか」
おばあさんの右手に光るリングが出現し、その中から炎が噴き出す。
魔法だ。
ここにはゲームかアニメみたいに魔法がある。
ということは……
「すみません、ここはなんていう国で、ここはなんという村ですか?」
おばあさんは不思議そうな顔をして答えた。
「ここはフレンタール王国のクカ村だよ」
聞いたことのない国の名前だ。
もう一つ質問する。
「ちなみに、日本という国を知っていますか?」
「あはは! 学のない私が、そんな遠い国のことなんかわかるわけないだろう?」
「そうですか……」
健介は確信した。
今までの状況を総合すると……ここは、異世界だ。