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ハンセン病と出会った件

 ここはどこだろう?

 今年、念願かなって地元の大学に入学したばかりの大学生・三ツ谷健介(みつやけんすけ)は、気が付くと見知らぬ森の中にいた。

 

 「さっきまで街の中を歩いていたはずだよな?」


 呟きながら、健介はとりあえず前に進んでみる。

 草をかき分け、木々の間を通り抜け、とにかく前に進んでみるしかない。

 すると急に、目の前が開けた。


 「こ、これは……!」


 健介がひたすら前に進み、辿り着いたのは高い崖の上だった。

 彼の真下に広がるのは、小さな村。

 日本の家じゃない。前にテレビで見たことのある、中世ヨーロッパな家だ。その周囲には畑が広がっている。


 「田んぼじゃない……」


 健介の偏見かもしれないが、普通の日本の田舎じゃない。

 こんなところが健介の地元の近くに……いや、日本にあるだろうか。


 「うわっ!」


 そんなことを考えていた健介だったが、足を滑らせてしまった。バランスを崩し、高い崖の上から転がり落ちてしまう。


 「わっ! いたっ! ああああああっ!」


 急斜面を跳ねるようにして勢いよく落ちる健介。体をあちこちにぶつけてボロボロになりながら落下していく。

 最後に大きな石に頭をぶつけ、落下は止まった。


 「う……ううう……」


 痛みをこらえながら、健介は額の汗をぬぐう。ドロっとしたその液体は汗ではなく、赤い血だった。

 

 (やべえ……死んだな……俺……)


 健介は意識を失った。




 (…………ん?)


 気が付くと、健介は明かりのない家の中でベッドに横たわっていた。

 クーラーも扇風機もない部屋だが、窓が全開になっていて風通しが良く、涼しい。

 幸いなことに、健介のそばにはからっていたリュックもある。

 ゆっくりと体を起こし、額の血をぬぐう。

 血は流れていなかった。包帯も巻かれていない。


 「夢だったのか?」


 見知らぬ森の中を歩いていたところから全部夢で、猛暑の中を歩いていたため熱中症にかかり、どこかの家に保護されたのか。


 「悪いことしたなあ……」


 見知らぬ家主に詫びつつ、健介は部屋を出た。

 自分を助けてくれた優しい家主さんは……


 「おお、目が覚めたかい?」


 家主さんの声を耳にして、健介は振り向く。

 

 「…………⁉」

 「悪いねえ、こんなひどい格好で……」


 家主と思われるおばあさんの姿を見て、健介は絶句した。


 醜く変形した手足

 醜くゆがんだ顔


 これは……まさか……


 「この村『醜物の呪い』にかかってしまってねえ……ここの村人はみんなこうなってしまったのさ」


 おばあさんの言葉をうまく理解できない。でも、このおばあさんの症状は……わかる。というかさっき講演会の中で写真を見た。たぶん直前に講演会を見ていなかったら築かなかっただろう。

 なんという運命のめぐりあわせだろうか。


 これは……この病気は……


 三ツ谷健介は医者ではない。医学生でもない。

 だがこの病気が引き起こした差別については、小さいころから嫌というほど聞かされてきた。だが実際目の当たりにすると、もっと聞いておけばよかったと後悔した。


 これは……ハンセン病……



 

 ハンセン病患者、元患者、そしてその家族に対する差別は、今も大きな問題として残っている。ハンセン病の治療薬ができ、感染力が低いことが分かっている現代日本であっても。

 それでも、多くの日本人はその差別をどこか遠くのこととして感じているのではないだろうか?

 これは、そんな差別のはびこる世界にいきなり投げ込まれた普通の大学生・三ツ谷健介の物語である。

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