「百十二」 区別などない
[ 百 十二 ]
螺の尖端に触れられた途端。
そこから、めまぐるしい言葉の羅列が。
映像の波が。
わたしの中へと注がれていくのを感じた。
ああ、針金が、わたしの脳髄を今この瞬間に貫いていく。わたしの記憶が裏側から強引にひっくり返される。
コレがわたしの記憶。
わたしの成り立ち。
わたしがここにいる理由。
わたしは観る。理解する。思いだす。
千花ちゃんの耳から伸びる、醜くく。ひどく懐かしく感じるソレラを観る。
ソレラは、ひだりの螺の管であり。わたしと繋がるべきものだ。
怖いことなど、なにひとつなかった。
ジェイ ジャアアア ジェイジェイジェエ。
トリが鳴く。
外の世界のトリなのか。わたしの中のトリなのか。
区別がつかない。区別などない。わたし達は、常にひとつのものなのだから。怖がる必要さえなかったのだ。
※ ※ ※ ※ ※
ママがわたしを放っておいた。
ママがわたしをひとりにした。
ママがわたしを忘れてしまった。
寂しさに泣いていたわたしには、片割れが必要だった。
教えてくれたのは、オダマキだった。オダマキは特別な先生だった。
世界のなりたちも。幸せと不幸せの切り離しかたも教えてくれた。
ねえ、そうだったんだよね。オダマキ。
オダマキには、最初から、ぜんぶわかっていたんだね。