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第九話 ピルエット

 いくらアイリスが金髪と言っても、ここは空港なので、一目ではアイリスを見つけられないだろう。

 真司(しんじ)はその場から出来るだけ移動をしないようにして、時計回りにアイリス探索の視線を動かした。

 アイリスの手荷物は真司の足元に置いたままとなっている。それほど遠くには行っていないはずだ。

 真司の視線が四時方向を向いたとき、探索中の金髪(アイリーン)を発見した。

(あいつ、何やってんだ?)

 アイリスの周囲にはカメラマンらしき人、レポーターらしき人、照明係らしき人、その他大勢が集まっている。

 テレビ局のインタビューを受けているようにも見える。

 アイリスとレポーターの受け答えは話がはずんでいるようで、真司がその様子をしばらく眺めていると、アイリスを取り巻く取材陣の輪が少々広くなった。

(やる気かよ……)

 真司の予想通り、アイリスがピルエットの連続回転を披露してみせた。回転軸がぶれず、見事としか言いようがない()()()()だった。

 

「アイリーン!」

「ハーイ!」

 真司の呼びかけに応えて、アイリスが戻ってきた。カメラが真司とアイリスに向けられている。

「何あれ?」

「テレビ局のバラエティだそうよ」

「何を聞かれた?」

「私が何しに二ホンに来たのかって」

「それだけ?」

「それだけ」

「ふーん。カメラ、こっち向いてるよ」

「……」

「……おい」

「私のドキュメンタリーを撮影したいって」

「断ってこい」

「……ダメ?」

「ダメ」

 アイリスは再び取材陣に戻って行き、今後の撮影を断った上で、ピルエットシーンまでの動画公開に許可を出した。


 目立ちたくないという()()の理由で、真司がSAT(大学進学適性試験)に手を抜いた事実をアイリスは知っている。

 クラスでトップの座を一年間守り抜いたあの真司が、自分よりも低い点数を取ったとはとても信じられず、ジャックと共に真司を問い詰めたのだ。アイリス以外の三人も、真司の点数よりずっと上だった。

(シンジはシャイね)

 リムジンバスの中で真司は眠りこけ、アイリスは車窓の風景に夢中となった。

(道幅がとても狭いわ……でも、ここのハイウェイは立体的でとてもキレイ……)

 渋滞に何度か巻き込まれ、渋谷到着には予定よりも時間がかかったが、アイリスは気に留める様子もなく、都心の様子を観察し続けた。

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