表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/86

第七十三話 酒の肴

『ピロリロリーン、ピロリロリーン』

 来訪者を告げるチャイム音、

(誰かな?)

 テレビドアホンの中で年配の男性が両手を上げている。右手にIDカード、左手に通勤用のカバンを手にしていた。

「こんばんは。三畑(みはた)さん」

 三畑と呼ばれたこの人物は、真司(しんじ)の母・真夏(まなつ)の実家が贔屓(ひいき)にしている地元不動産会社の会長で、この山元(やまもと)邸の設計と建築に関わった後も、度々『点検』と称しては真夏の父・(ひろし)と共に酒を()みにやってくる。

「こんばんは。今日はリフォームの件でね。お邪魔するよ、真司(しんじ)君」

「すみません、お忙しいところ。どうぞ」

「何を言うかい。仕事だよ、仕事」

 三畑は勝手知ったる山元(やまもと)邸に上がり込み、そのまま二階へと登っていく。

(早速来たかー……)

 三畑が口にした用件は表面上その通りなのだが、実際のところは真夏の父から頼まれて、新しく家族に加わるという二人、美紀(みき)佐紀(さき)の様子見を兼ねて来たというわけだ。

「ちゃんと挨拶してくれよ」

「はーい」

 真司に言いつけられていた二人は粗相(そそう)なく三畑を迎えると、そのままキッチンに向かい、鍋を火にかけて玉ねぎを取り出した。

(お、酒の支度か……? ありがたや……)

 表情の明るくなった三畑はテーブルにつかず、

「真司くん、まずは用事を済ませよう」

 真司を()()()()三階へ上がり、

「ネコ二匹だよね。走り回るよ。うーん、どこが……」

「この三階ホール、遊び場にならないですか?」

 三階には階段を上ると広めのホールがあり、景色を一望できるスペースが設けられている。真司はここにキャットタワーを設置するつもりだった。

「……階段に扉付けちゃう?」

「いいですね。じゃあ側面も塞いでいただいて」

「ははは。ほんとに管理区域だね」

 三畑は扉と隔壁の位置を図面に描き込むと、

「あと、ネコの出入り口って?」

「あいつらの実家にあったんです。けっこうデカいんですよ。ちょっと待ってください。すみません」

 真司は自室からレポート用紙を持ち出して扉の前に座ると、

「これくらいです」

 正方形を作り、扉の下部中央部分に貼り付けた。

「けっこう大きいね」

「ネコがデカいんで」

「どれくらい?」

「座布団の半分くらい……ですかね?」

「そんなに大きいの?」

 信じられないといった三畑に、ネコの特徴を一通り真司が説明すると、

「出入り口は設計してみるよ。真司君に伝えればいいのかな」

「はい。お願いします」

「ほんじゃ、一杯貰おうかな」

「もちろんですよ」


 リビングのテーブルにはお茶と小さな器が用意されていた。

 器には軽く醤油のかかった鰹節がたっぷりと盛られている。

 お茶は温めだった。

三畑(みはた)様、お酒の用意も整っております。召し上がってくださいませ」

 酒を運んできた美紀(みき)は料理を謙遜せず、一言を残して戻って行く。

(しゃく)でも始めたら叱るところだった……)

 器に手を付けてみると思いのほか好みの味がした。

 鰹節の下にあったのは、マヨネーズと和えられた玉ねぎだ。

 佐紀(さき)はキッチンで豚バラ肉を熱湯に浸しては氷水の中に投げ込んでいる。

 美紀は大根をすりおろし、冷蔵庫の中を漁りだした。

 しゃぶしゃぶ風の豚バラ肉に、大根おろしと青ネギがかかっている。ポン酢で口に運ぶと、日本酒ともよく合った。

美味(うま)い……)

 しばらくの間、三畑は酒と料理を楽しむと、

「真司君、失敗したんじゃないか」

「何をです?」

「あの娘たちだよ。()じゃなく、()にした方がよかったんじゃないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ