第七話 Band of Brothers and Sisters
ピート、ニック、ジャック、ティナ、アイリスとの日々は、真司にとってあっという間に終わった。
今、真司はJFK空港で、彼らとの別れを惜しんでいるところだ。
真司が八歳の誕生日を迎えた日、教室のロッカーからダチョウが飛び出してきた。
真司は派手な誕生日プレゼントに突き飛ばされて、打ち所が悪かったせいか、気を失って救急搬送されている。
ダチョウが出てきた瞬間、四人と他のクラスメイトは大笑いをしながら手を叩いていたが、
(やべえ、外交官の息子だった……)
国際問題になりかねない。
「シッ!!!!!」
手に持っていたクラッカーを全員が放り出して真司に駆け寄ると、真司の意識不明を認し、代表としてニックが緊急事態用の非常ボタンをペンで叩き潰した。
幸運にも非常ベルは作動したが、ニックはダチョウの件とボタンを叩き潰した件で謹慎を命じられ、その期間、福祉サービスに励むこととなった。
年越しに繰り出したニューヨークも、真司には印象深く残っている。
人であふれるニューヨークを、ニックとジャックの肩車で歩き回った。
もちろん、ティナもアイリスも同行した。
この時はアイリスが行方不明になって、地元の警察と探し回り、彼女を発見した時には年が明けていた。
死ぬほど寒かった気がするが、今はその寒さを真司は覚えていない。
ピートは強く、逞しくなった。寝技でも剣道でも、真司は一本も奪えなくなっている。
「サムライになれるかな?」
金髪を靡かせて、竹刀を掲げ、別れを惜しんでピートは泣いた。
ハイスクールの一年間、ピートは日本に留学するらしい。
ハイスクールでの成績は、真司が常にトップだった。
卒業後に真司が受けたSATでの成績を知ると、クラスメイトは現地での進学を強く勧め、帰国に反対し、彼の住むアパートにまでも押しかけてきた。
この時、外交官のアパートに集団で押し掛けた、という理由で、市民権を剥奪されかけた者が数人いる。
卒業パーティで、ニックはプロムキング、ティナはプロムクイーンの大役を果たした。
ツレがいない真司は本来参加できなかったのだが、女性校長が真司のパートナーに名乗りを上げ、彼女は会場で真司をアイリスに預けると、すぐに帰って行った。
ニックは下院議員の推薦を得て、アナポリスへと進学することになった。トップガンを目指すらしい。
ジャックはワシントンのカレッジに進み、経済学を学ぶことになった。翌年、アイリスと結婚式を挙げることになっている。
ティナはジョージア大で心理学を専攻する。昔見た映画の影響で、FBIの捜査官を目指すらしい。
アイリスはジャックとの結婚式を待ちながら、真司と共に日本へ渡り、真司の家に居候をして、二週間ほど日本での生活を楽しむことになっている。
その四人とピートから受け取った揃いのリングには、裏面に長めの文章が彫り込まれている。
その内容は伏せておこう。
その四人は、ある種の責任感からサロンで真司に声をかけた。
子供がハイスクールで生き抜けるとはとても思えない、そんな単純な動機だ。
ところが、真司は思いのほかに強かで、彼ら四人を楽しませ、結局、四人は友人として正式に真司を受け入れた。
友情とはこんなものだ。
「シンジ。タイムアップ」
アイリスの声が聞こえてくる。




