第六十四話 甘いコーヒー
一方、上司から快く公休を許された修司は、始発に乗って博多空港へと向かい、午前十一時には、引継ぎを行っている妻・真夏の病院に到着した。
(せっかく頂いた公休。一秒たりとも無駄にはできん)
文字通り飛んできたわけである。
修司は休憩室でシュガーたっぷりのコーヒーを前にしたまま、先ほどちょこっと顔を出した真夏から手渡されたばかりのアイフォンに熱中している。
タッチパネルがうまく操作できない。アイフォンを触っては、時々自分の指を見つめる、そんな動きを繰り返していた。
公務で使う携帯は、規定に従って県警本部に置かれている。
現在所持している携帯は、主に真夏や真司、友人知人との連絡用で、勤務関連のデータは一切入っていない。携帯からアイフォンへの機種変更は、上司への連絡も含めて容易だろう、携帯は今夜にでも真夏に返すつもりだ。
修司は県警本部の電話番号を入力した。
呼び出し音は携帯と変わりはない。
受付との通話が始まって、
(……そのうち慣れるか)
と思ったくらいだ。
「富永だ。なんだ山元」
電話先の上司は、警視長の階級にある県警本部長で、警視正の階級にある県警刑事部長・修司の直属上司である。
用件を手短に話すと、
「山元。明日正午、ここ(本部長室)に来い。それまで帰って来るな。これは命令だ。復唱しろ」
富永は復唱を聞くと、電話を切ってしまった。
(……長官に好かれてるって、やはり、あのお方のこういう所だよな)
上司の恩情に胸が熱くなり、
(ヤバいヤバい……)
涙をこらえ、慌てて甘いコーヒーに手を付けた。
「お待たせえ!」
引継ぎを終えた真夏が駆け寄ってくる。
思わず立ち上がって真夏の身体を受け止めた。
「ご飯たべた?」
「まだだ。問題ない」
真夏とのランチを楽しみに、甘いコーヒーだけを飲んでいたのだ。
二人は駅前のハンバーガーショップで手短かに食事を済ませると、ラブホテルへと直行して数時間、いつも通りの要領で子作りに励むことになった。
(……真夏は本当にいい女だ)
修司は日ごろからそう思っている。
(お前のためなら笑って死ねる)
真夏を抱き締めていた腕に、修司はさらに力を込めた。
「あん! ……しゅうくんったら……ふふふ、ふふふ」
「はは、ははは。……そうだな、美紀ちゃんと佐紀ちゃんは、今ので出来たってことにするか」
「いいわね。こっちにもできるといいなあ」
真夏はお腹の辺りをさすって見せた。




