第六十二話 ネットゲーム
玄関のやや右側からは、外の塀と同じようにサンゲート型のシャッターが三枚降りていて、奥にはガラスの窓が全面に張ってある。カーテンで中は見えない。
(……普通のお家じゃないのかしら? 塀にはカメラもついていたし……)
美紀は口に出さなかった。
玄関を入ると階段、エレベータが見え、シューズボックスの隣には大きな扉があり、玄関ホールの先にはリビングダイニングらしき広間のような部屋がある。
「まずさあ、さっきから気になってたんだけど、家の中にこんなのあるもの?」
佐紀がエレベータを見る。
「あるもんはしょうがねーだろ」
「じゃあこれは?」
佐紀が扉を見る。
「それ、ウォークインクローゼット。開けてみな」
何も入っていない空間があった。幅は学校の廊下よりも少し狭いくらいで奥行きが少しあり、両側がクローゼット状になっていて、突き当りにはまた扉がある。
「じゃああれは?」
佐紀がホールの向こうを見る。
「そこはリビング。将来的に母さんが開業する予定」
一階部分は医院として設計されているようだ。美紀と佐紀はそれで納得して階段を上がる。
「ここが生活空間。来てみ」
二階にはリビングダイニング、バスルーム、ドレッシングルーム、パウダールーム、客間が三部屋あった。
この段階で美紀と佐紀は今日の室内探検をあきらめ、リビングダイニングに入っていく。
入り口側がリビング、奥にダイニングキッチンが見えた。
美紀は室内を観察しているが、佐紀はダイニングテーブルに乗せられたままのタワーパソコンに駆け寄って、
「これパソコンだよね? ずいぶんとまた……」
この家は何でもデカいらしいと気付き、それ以上デカいという単語は発しなかった。
「休憩すっか?」
「……三階を見せていただきたいわ」
美紀が言うので真司は二人を三階に案内する。
三階には修司と真夏の寝室、書斎、真司の部屋、小さなバスルーム、用途の分からない小部屋らしきものと、二人が入居する部屋が二つあった。
美紀と佐紀はパタパタと走り出してそれぞれの部屋を開け、室内に飛び込んでいく。この辺りは普通の小学五年生といったところだ。
二人とも小部屋が気になったが、ついさっき本日の室内探検をあきらめたことを思い出し、
(ちょっと疲れたかな……?)
ということで休憩となる。
時刻は二時を半分ほど回ったところ、ホームで食べたサンドイッチでは物足りなくなってきた。
冷蔵庫を開けて、真司がオムライスをレンジにかける。真夏が作って置いたものだ。おやつのようなもので量は少ないが、美紀と佐紀は文句など言うはずもなかった。
「ダイニングテーブルのパソコン、邪魔じゃない?」
リビングに座って胡坐をかいていた佐紀がパソコンに向かっていく。佐紀はパソコンに繋がっているケーブルを次々と勝手に抜き始め、モニタをリビングに移動してタワー本体に手をかけた。
「あ、ムリだこれ」
佐紀の言葉に美紀がぷっと吹き出した。
(お、笑ったこいつ)
真司は佐紀を手伝って、パソコンをリビングに移動する。
自然と電源に手が伸びたが、パソコンにはネットゲームしかインストールされていない。
「なにこれ?」
「ネトゲだってよ。これは母さんが昨日組み立てた」
「真夏さんが? これを?」
「……」
(真夏さん、こんなこともできるのね……)
ゲームを起動すると、例のグラフィックボードがすぐに存在感を増してきた。
「うるせーんだよなこれ」
「中のうるさいやつ、とっ替えちゃえばいいのかな?」
佐紀がタワーの中を覗き込もうとするが、アクリルのパネルに阻まれて上手くいかない。
「後で中見せてやるよ」
ああでもない、こうでもないと、しばらくゲームについて話したが、
「あ、時間がねーな。この家の周辺を見てから恵比寿まで行くぞ。用意しとけ」
美紀と佐紀は、それぞれの荷物からポシェットではなく小振りのバッグを取り出すと、またそれぞれ中身の確認を開始する。
(あん中には何が入ってんだ……?)
二人は母親の真夏と同じように、長い髪を器用に扱いながらバッグの中の確認を続けている。
四時のメロディが時計から流れたところで、真司は自宅周辺の探索も兼ねて、二人を外に連れ出した。




