第六話 同級生
「ぎゃああああああああああああっはっはっは!」
「いやあああああああああははははははははは!」
「右! ブレーキ!! ティナ! オマイガー!」
「ぶはははははわわははははははあはっははは!」
路上教習中のクルマの中で、カポネも含めた四人が大騒ぎをしているころ、真司の母親・山元真夏は目黒の居酒屋で、その親友である弁護士・志村由美に対し、満点の笑顔を浮かべながらしつこく絡んでいた。
細くなった目が、携帯の顔文字にそっくりだ。
「しゅうくん。帰ってこないし。あいつも。あーつまんない。あーあ。由美ちゃんはいいな。旦那いない。彼氏いない。楽でいいね。いいなあ。医者になんか、なんなきゃよかった。あーあ。由美ちゃんは気楽。いいなあ。ほんと。うらやまし」
「……真夏。飲み過ぎよ。明日もあるんだから。あ、ちょっと、真夏……」
(それ以上言ったらぶっ〇すわよ、真夏……)
二人は小学校こそ違ったのだが、その頃に同じ進学塾で机を並べ、同じ中学・高校へと進学した同級生で、真夏が真司を十九歳で出産した時、志村は真夏の実家にせっせと通いながら、真司のおむつ交換をずいぶんと手伝ったものだ。
志村から見て、真夏は二十六歳になった今も、高校生のころと変わっていない。
肩書が女子高校生から研修医になっただけのように感じている。
一方の志村は、学部三回生の折に司法試験に合格し、司法修習の際には、裁判所や検察からスカウトを受け、四回生の時には国家公務員総合職試験にも合格し、悩んだ末に、法曹への道を歩み始めた才女で、今年、所属する弁護士事務所のパートナー経営者に昇進を果たしていた。
真夏から見て、志村は姉のような存在だ。この関係も、高校時代から変わっていない。
この二人のセットに、声をかけてきた男は数えきれない。
童顔の真夏は子持ちの人妻にはとても見えず、志村はスタイリッシュな美女だった。
「お、お姉さんたちお二人?」
「あん? そうですが。何か?」
「ちょっと、真夏!」
声をかけてきた男性二人を真夏が睨みつけた。笑って細くなっていた真夏の目が、いつの間にか大きく開いている。
「お姉さん、怖いなあ。あはは」
「なんですかあ? ご用件はあ?」
酔っぱらった真夏は、ジョッキを左手に、反対側の指先を空中でクルクルと回している。
「相席、いいすかね?」
「どうぞお」
「ちょっと、真夏!」
男性二人組は天気の話や野球の話でその場を盛り上げようと努力を惜しまない。
その話題が体の健康に触れたとき、
「あ!」
真夏が自分の目を指さしながら喋り始めた。
「お二人さん。お二人とも、目が大きいですねえ。ふふふ。知ってます? 眼球。目玉。これです。これってね。ちょっと無理すると、ですね。指で、ボコ! って取れるんです。くり抜けるんです。知ってましたぁ? ふふふ。でね。なんと! 目からくり抜いても。そ、の、ま、ま……。うふふっ、見えているんですよお……、そのくり抜かれた目で……。ふふふ。怖いです。恐ろしいです。想像できますぅ? 異様な光景ですよねぇ? ふふふ。でね。そのくり抜いた目玉、元の位置にちゃんと戻るんです! なんと! 手術で! ちょいちょいっと! いいですねぇ。よかったですねぇ。ふふふ。やってみますぅ? 貴重な体験ですよお……。ふふふ……」
男性二人は席を立った。
志村が笑っている。
「ちょっと、真夏。今の話、ホントなの?」
「うん」




