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第五十九話 東海道線・グリーン車

 東京駅からJR山手線に乗車した。

「この路線、こういう風に一周してるんで、乗る方向間違えんなよ」

 真司(しんじ)がドア上部に貼ってある東京近郊の路線図を指さしながら美紀(みき)佐紀(さき)に説明する。

「え、これっていつまでもグルグルと乗っていられるの?」

 佐紀の問いに、

「知らん、どっかで止まんじゃね?」

 それは真司も知らなかった。というよりも気にしたことがなかった。

 乗車している山手線の窓からは何本ものレールが見えて、その上を色とりどりな電車が走っている。

(……どの電車もとても長いわね)

 美紀は驚いたが口には出さない。

 オレンジとグリーンの電車が、自分の乗っている山手線を追い抜いていく。

(あれが東海道線ね……なにかしら、少し悔しい気分だわ……一、二、三、四……あらっ!? サロって何? 何かしら? 五、六、七……サハ、モハなんていうのもあるのね……)

 美紀がその電車を数えてみると、十六両も繋がっていた。

 貨物列車は長すぎて、もう途中であきらめてしまった。

 真司の声が耳に入る。

「ここに目黒ってあんだろ。ここで降りる」

 目黒の先には恵比寿、渋谷、原宿、代々木、新宿と有名どころの駅が並んでいて、佐紀のテンションは上昇した。

「ねえ、明日はここら辺に連れてってくれるの?」

「ねーな」

 真司は一言でバッサリだ。

「えー……じゃあどこよ?」

「お楽しみだ」

 金沢の屋敷で辰夫(たつお)と美紀に言われたこのセリフ。発してみると意外に気分が良かった。

 大崎を過ぎたところで、

「美紀、そろそろだぞ」

 真司は外の景色を食い入るように見つめていた美紀に声をかける。

「はい」

 美紀は外の景色から視線を動かして、路線図を確認した。

(駅と駅の距離がとても短いのね……)

 目黒駅で東急目黒線に乗り換えるようだ。

(この電車にはなんて書いてあるのかしら……?)

 先ほどの『サロ』と『サハ』が気になる。

 乗っていた車両には『モハ』と書いてあった。


「この駅、めっちゃ使うようになっから。構造をよく把握しとけ」

 目黒駅に着くと、真司は駅地図の前に立ってトイレや避難経路を説明し、実際の場所まで二人を案内した。

 真司なりの心遣いである。母親の真夏(まなつ)で慣れていた。

「せっかくだから……」

 美紀と佐紀はバッグからポシェットを取り出すとトイレに入っていく。

 二人からそれぞれ残ったバッグを手渡され、

(おれはいつも荷物持ちだよな……)

 自虐的な気分のまま、五分以上が経過した。

 美紀と佐紀が一緒に出てくると、

「JRはここで終わり。チケ出せ」

「……?」

「キップだよキップ」

「……」

 金沢からのキップにも名残惜しさを感じた美紀は、

「このチケット、記念に保管しておきたいのですけれど……」

 駅員と談判を始め、佐紀と有人改札を通過した。

 東急目黒線に乗り換えたときにも、

「……真司さんは定期券なのかしら? ちょっと見せて下さらない?」

「……真司さん、あの電車、扉が六個所もあるわよ?」

「……真司さん、この電車、山手線よりも短いわよ?」

「……真司さん、JRの電車にはサロやサハと書いてあったわ。なのにこの電車には書かれていない。何故かしら?」

 珍しくしつこかった。

 目黒駅から不動前を過ぎて、次が武蔵小山駅だ。

 この当時、駅前の広場は工事が済んだばかりできれいに整備されていたが、駅ビルはまだ工事中である。

 都道四百二十号線を十五分ほど歩くと山元家に到着した。

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