第五十七話 SLI
「ただいまー」
「おかえりー、できたよ! 見て見て!」
ジグゾーパズルを完成させたらしく、真夏がテンション高めに真司を出迎えた。
パズルは額縁に入れられて固定され、個々の同じ写真となって南極のオーロラを美しく再現している。
千ピースのパズルはさすがに迫力があった。
「おお、ん……?」
が、向こうに見えるダイニングテーブルには大きな液晶ディスプレイが載っていて、その隣にはフルタワーのパソコンらしきものが見え、本体からはいくつものケーブルがそこかしこに伸びていた。一本を目で追うと室内のルータに繋がっている。
ハードディスクが稼働中のようだ。赤いLEDが小さく光り、CDベイには大きな青い液晶が点灯している。
「お、おう、すげえ……」
「今日はおソバの日じゃないでしょ? 早くご飯にしよ」
真司は三階の自室へ向かう。
(母さん、なんか思いついたのかな……)
リビングに戻ると、
「これね、アイフォンの家電屋さんで一緒に注文したの。午前中に届いたから組み立ててみたんだけど、割とパソコンて簡単ね」
真司は稼働中のPCタワーを観察する。側面のパネルはネジ止めされていて、大きなファンが付いている。
CDベイの大きな青い液晶は、リアルタイムで消費されている電力と、CPUクーラーやタワー背面のファン回転速度を表示しているようだ。
(この側面ファンはシステムに影響ないな……)
真司は側面のパネルを外し、内部を覗いてみた。側面のファンはマザーボードから供給される電源を頼りに回り続けている。
「ちょっと壊さないでよ真司」
真夏はそう言うが真司はこれを壊しているわけではない。分解しているのだ。
「母さんがこれ組み立てたの?」
「そうよ」
真夏が胸を張った。
(マジかー……)
「どうすんの? これ」
「同じ趣味を持ちなさい、真司」
「え?」
真夏がビシッと人差し指を立てる。
「あんた、美紀ちゃんや佐紀ちゃんと竹刀で殴り合うつもり? 違うでしょ。一緒に最初から何か始めなさい、って考えてたら、新しいネットゲームが始まってるんだって。店員さんに聞いたの。やってみたら? 少しは平和に過ごせるでしょ。それにコミュニケーション能力の向上にもつながるわ」
(マジかー……)
真司にとってはまったく興味のない分野だ。
OSのインストールとアップデートはすでに終わっていて、新たに何かのソフトをダウンロードしているようだ。
真夏が派手な表紙の冊子を手渡してきた。
『あなたの新しいMMORPG』
と、大きく印刷されている。
「CDの分は入れておいたから、今はそれのアップデート中」
タワーの内部には大きなグラフィックボードが二枚連結されていてSLIとして稼働している。
CPUの上には巨大な毒キノコが乗っている。
その脇にはメモリが四枚光っていた。
現在の消費電力=270W。
(スマホ七台にコレか……)
真司は呆れたが、食後にゲームを起動してみると、そのグラフィックの繊細さに衝撃を受けた。
キャラクターの作成画面では一旦適当な名前を使用して、とにもかくにも真司はゲーム内の世界を歩き回ってみる。
もちろん女性キャラだ。
高解像度の液晶画面には水面がキラキラと陽の光に反射して、キャラクターの影や草木の輪郭までもがくっきりと表示されていた。
しかもキャラクターはボーっと突っ立っているだけではなく、その場で手や足を使って水遊びをしたり、時折表情を変えたりと、ユーザを飽きさせないようにこまめに色々な仕草を見せて、これがまた意外と可愛い。
青い液晶にリアルタイムで表示される消費電力は540Wに跳ね上がっている。
この消費電力は600W程度の電子レンジを使っているようなものだ。
真夏はキャラクターと同じ動作をしてキャッキャと騒いでいる。
キャラクターにアクションコマンドを入力していると、
『きぃいいいいいいいいいいいいいいいいい……』
(なんだうるせえな……)
フルタワーのパソコンから高周波の異音が聞こえてくる。
真司はゲーム内の探索を一時中止して、パソコンから聞こえてくる異音の原因を探ってみた。
側面パネルを外すと、毒キノコ状のCPUクーラーからではなくその下、SLIとして稼働している二台のグラフィックボードから爆音が発生している。
下を覗くと案の定、グラフィックボードに固定された密閉空間の端に小さなファンが付いていて、そこから吸入された気体がボード内部のチップを冷却し、反対側に排出される仕組みだった。
排出口はフルタワーの背面部分、グラフィックボードの映像端子側にある。
(内部の気体を冷却に利用して背面に排出か……こりゃダメだな……お、DVI端子か……?)
真夏はそんな真司の様子を笑顔で眺め、
「それにしてもよく出来てるわねえ、このゲーム……。景色がすごい綺麗だわあ……」
「母さん、このパソコン、リビングのテレビに接続できっぞ」
「え? やってやって!」
真司はテレビ側の入力端子を思い出した。確か同じ規格のものがあったはずだ。
ゲームとパソコン自体をシャットダウンさせると、ダイニングテーブルからフルタワーを移動させる。
「クッソ重いなこれ……」
LANケーブルは十分な長さだが、DVIケーブルが追い付かない。
真司は一旦引き抜いたキーボードやマウスのケーブルを、テレビの前に移動させたパソコンに差し込んでいく。
グラフィックボードとテレビの端子は一致した。
テレビの映像入力をDVIに切り替え、パソコンの電源をオンにする。
いかにもゲーミングマザーボードといった感じのバイオスポスト画面が現れて、OSがあっという間に起動した。
「あらすごい!」
真夏が感激している。
リビングの巨大なテレビにパソコンの画面が映っている。
「音声は光か……あ、おけ。音も出るぞこれ」
テレビの音量を調節し、OSの効果音を鳴らしてみる。
『ピポーン、ピポーン』
音声も聞こえて大画面PCの完成だ。
ゲームを起動してみると、液晶ディスプレイとは一味違った印象の、それでいて解像度は同じのゲーム画面が現れた。
「うわあ、すっごいのね、最近のテレビって……」
真夏のそんな感想と共に、例の爆音がすぐにパソコンから漏れてくる。
(マジこれうるせーな……交換できっか……?)
真司はゲームもそこそこに、パソコンを再度シャットダウンさせて、テレビからケーブル類を抜き取った。
「え、もう終わり?」
「テレビ見れねーじゃん。あっちで起動すればいいよ」
「どう? 気に入ったでしょ?」
「うん……すげえなこのパソコン」
(爆音もだけど……)
「あー!」
真夏が突然叫び声を上げる。真司は不意を突かれて飛び上がった。
「なんだよいきなり?」
「やっばいこのパソコン、あと二台必要だよね……」
MMORPGを三人兄妹で遊べというのなら、もちろんパソコンは一人一台ずつ必要になるだろう。




