第五話 Driver’s License
いつものメンバーのうちの一人、ニックのクルマでライセンススクールへと到着した。
受付のカウンターにアルカポネのような大男がいる。
「ティナ。マフィアがいる」
真司が聞くと、
「やめて、シンジ。あの人、教官だから」
(マジかー……)
カポネが真司を見た。
真司は反射的にカポネの服装をチェックした。それらしきものは持っていないようだ。
「アイリス。ピートも呼ぼう」
「駄目よそんなの」
「なんで?」
「国務次官の息子なんて、とても呼べないわ。危なくて」
(おいアイリス、おれならいいのかよ……)
ここでの真司は外交官の家族だ。アイリスの祖国であるここアメリカ合衆国、その同盟国である日本国、その国の外交官の家族である。しかも七歳だ。
ライセンススクールからクルマが一台飛び出していった。
出て行った瞬間に近くの交差点へと突っ込んでいく。信号は赤だったが、ブレーキランプが点灯しない。
そのクルマはすぐに視界から消えていった。
受付では、ティナ、アイリス、ジャックが手続きを進めている。
(乗るならジャック、いや、アイリスか……ティナはないな……)
アイリスというのは愛称で、本来はアイリーンという名前である。
彼女は運動神経が良く、フットボールチームのチアリーダーをしており、チームのエンドを務めるジャックの恋人だ。
ちなみに、ニックはそのチームのクオーターバックである。彼はティナの恋人でもある、とも言いたいところだが、実際はこの二人、恋人同士ではない。
ニックもティナも、同様に異性に対して興味を示したのだが、どういうわけか異性との交際にまでは発展しなかったのだ。
ジャックだけが戻ってきた。
「締め切りだってよ。レディ達に今回は譲った」
これでジャックは、真司、ニックと同じ立場となる。
ジャックはアイリスのクルマに決定だ。ティナのクルマには、真司かニックが乗ることになる。
「ニック。おれ、もう帰りたいんだけど」
「シンジ。けっこうこれ、楽しいんだぜ」
夏の太陽が照り付けているが、木々や建造物に影が伸びていない。南中角度に入ったのだろう。スクール内には冷房が効いている。
昼飯時で交通量は少ないようだ。
(ワシントンであんな運転して大丈夫なのか……)
ティナがカポネを連れて戻ってきた。
聞くと、カポネは私立高校で教師をしており、その私立高校が夏休みの期間中、このライセンススクールでアルバイトをしているとのことだった。
「ティナ! アクセルはゆっくりだ! 絶対踏み付けるなよ! いいか? 絶対だ! 絶対だぞ! ティナ!」
「ニック! あなたうるさいわね! ちょっと黙っててよ!」
ティナがクルマを何度も空ぶかしさせている。そこに一切の迷いは感じられなかった。
(……イヤな予感しかしない……)
ニックの言葉が真司にはフリとしか聞こえなかった。ティナが芸人ならば、アクセルを思い切り踏み込むはずだ。
カポネが真司のシートベルトを何回も確認してくる。表情が真剣で怖い。
カポネが言う。
「スリル満点だぞ」




