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第四十三話 令状

美紀(みき)佐紀(さき)、母さんには気をつけろ。ああ見えて、おれより頭がキレるぞ」

(あらあらまあまあ……)

 選手交代である。

 真司(しんじ)の言った()()()()()()()()()は成功したようだ。真夏(まなつ)は二人を手招きして椅子に座らせると、

「ねえねえ、美紀ちゃん、佐紀ちゃん。お部屋とかどうするか、ちょこっとウチに見に来ない? 現物を見ればイメージも沸くでしょ? ねえねえ」

「そうだな、問題ない」

 目黒の家には三階に二部屋、二階に三部屋と余っている。ただ、余っているが家具はない。美紀と佐紀には部屋の間取りや広さを見てもらって、好きなように使わせるつもりだった。

 美紀も佐紀も、引っ越しの時期は決めていなかった。親友と呼べる友人は少ないし、女王蜂状態の学校にも未練はない。

 親友を除けばこの屋敷での暮らし、祖父母や弟子たちとの別れが名残惜しいだけだ。

「あ、では。わたくしたちのお部屋、ご覧になっておかれますか?」

「え! いいの? 見ちゃっていいの?」

「は、はい……」

「おれは、まあ、遠慮しておこうかな」

「しゅうくん何言ってるの? 娘になる女の子の部屋よ。最初が肝心なんだから、ちゃんと見ておいて。しゅうくんは刑事のボスなんでしょ」


 美紀が先頭に立って、修司と真夏を部屋に案内する。美紀は〔美紀の部屋〕と書かれた扉を開けた。

 佐紀の部屋は散らかっているので、もう一度片付ける猶予を彼女に与えたのだ。先ほどの報復はもう済んでいる。佐紀は部屋に駆け込んだ。

 美紀の部屋にある家具の配置は佐紀の部屋とほとんど変わらなかった。

 アップライトピアノ、鏡台、ベッド、勉強机、オーディオシステム、ノートパソコン、本棚。整然とされているだけだ。ただ、窓枠に例の円錐が五つ綺麗に並んでいて、スピーカーの上にはやはりペットボトルが置かれていた。

「うーん、家具はこれ全部でも大丈夫かなあ……ピアノも……まあいけるわね、しゅうくん」

 部屋に通された修司(しゅうじ)と真夏はしばらく室内を見渡していたが、修司が目聡く円錐状の物体を発見し、

(お、これは……二人のネックレスとは違うな。明らかに殺傷を目的とした凶器にあたるぞ……)

「美紀ちゃん。こんなものを人に投げたら正当防衛どころじゃない。逆に殺人か傷害で未遂でも令状が出るぞ……これはいかん、投げるならやっぱりビー玉かそのネックレスの粒くらいにしとけ」

「は、はい……」

(『やっぱり』って何かしら……?)

 美紀は疑問を感じたが、真夏もその物体に見入っている。

「これが手裏剣……。金属製ね……重量が……かなりありそうだけど、法的には大丈夫そうよね?」

「警察で使う銃の弾とは比べ物にならんが……。まあ、投げなければ携帯していても問題ない」

「……持ち歩いてなどしておりませんわ」

 鉄礫(てつれき)を窓枠に置くと、修司は部屋の中を歩き回って、

(ほほう……スピーカに抜け毛……このペットボトルはネコ避けだな……)

(これは……前田の梅鉢紋だ……年代物かな……)

 などと美紀の部屋を物色していたが、開けられたくないところには手を伸ばさなかった。真夏が目線で何回もゴメンねゴメンねと伝えてくる。

 修司は鏡台を見つめ、天井と床に視線を滑らせてカーテンを手繰ると、

「美紀ちゃん、こっちに来てごらん。この方角からあの家の屋根が見えるだろう? あそこに上るとこの部屋のここから先が望遠鏡で丸見えだ。イカれたクソ野郎が君を覗くかも知れん。着替える時は注意してくれ。ウチに来るまでまだ時間があるからな。あと忠告なんだが、その、ヤバいもんは仏壇とか鏡台には隠すなよ。うん、まあいい、どっかにネコがいるだろう。どこ行ったのかな?」

「は、はい……気を付けます……諸々と……」

 修司の指摘に美紀は怯んだが、ネコの話が出てきたのでお箸とお玉の件を切り出すことにした。

 ネコを飼うとなればご飯やトイレの設備を置かせてもらうことになるし、ネコのおしっこやうんちは臭うのだ。見た目が可愛いだけでは済まされないし、犬の方がいいという人もいる。お箸とお玉を嫌ってほしくはなかった。

「あの、飼い猫を二匹、連れて行ってもかまいませんか?」

「いいわよ、どこ? 何て言う名前? 抜け毛の対策しなくちゃ、どうしようかしら。あれ、このカーペット高そうね。ちょっとしゅうくん、このカーペット見て」

 言いながら真夏がベッドの下を覗き込むが、ネコたちは今、佐紀の部屋へと移動しているはずだ。

「このお部屋の散らかっているバージョンの方にいると思いますけれど……。佐紀さんのお部屋、ご覧になりますか?」

「よし、行こう。この部屋はもう問題ない」

「そうだね。佐紀ちゃーん、開けるよー! ノックノックー」

(フフフ、真夏さんたら、可愛らしいこと……)

 修司と真夏はコンコンガチャっと、遠慮などしなかった。

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