第四話 外交特権
結論を先に述べると、真司は一度目の高校三年生を落第した。
知識が足りなければ、思考力を発揮できない。
突然の飛び級であったが、真司なりに努力を重ねた結果である。
(うーん……)
あの教師・ホランドの顔が真司の頭に浮かんだ。
真司は、あの時のホランドの期待に応えられなかったこと、これを恥じている。
夏季休暇を現地で迎えた真司は、帰国することなくピートの屋敷に入り浸った。
ピートとの外出にはいちいちSPが付いて回るため、二人ともこれを嫌った結果である。
修司の休暇には二人で稽古を受け、他の日にはそれぞれクラスメイトを呼んで、食事をしたり、泳いだりと、二人はこの家を好き放題に利用した。
ここは合衆国・国務次官の私邸である。将来は大統領の……となる可能性も否定はできまい。
邸内には図書館が併設されていて、その規模はちょっとした区立図書館の分館、ほどの規模があった。
蔵書は全てショウウィンドウに収められ、ガラスにはキーのぶら下がったままの鍵が付いている。
蔵書の状態は非常に良かった。
(汚しちゃいけないな……)
主な蔵書は史学に属するもので、真司はこれを好み、ピートと議論を楽しむことも多かった。
ある日、その場に居合わせて二人の話を聞いていたピートの父が、
「シンジはギフテッドだな。イェールも間違いない」
目を丸くしてつぶやいたものだ。
イェール大についての説明など不要だろう。
そんな夏休みを過ごしていた真司のアパートに、少女が一人、訪ねてきた。
この少女はクリスティンと言って、真司にはティナと呼ばれている。
『クリスじゃ男みたい』
という理由だそうだ。
最高学年に放り込まれた子供がいるという噂を聞きつけて、真司を見に来た連中のうちの一人である。
サロンで話しかけられて、いつの間にか、真司は彼らにあちこちへと連れ回されるようになっていた。
「ヒマ?」
「ヒマじゃないよ」
「嘘でしょ?」
「嘘じゃないけど……」
「ちょっと付き合って」
「どこに?」
「運転免許」
(これはひどい……)
「外交特権だ……ティナ、ここから出て行け」
「待ってよ!」
真司がアパートの外に出てみると、いつものメンバーが立っていた。
この国の運転免許は十六歳で正式に取得できる。
特に広い面積を持つ州では、一定の条件の下、十四歳からの取得も可能だ。
ドライバーズエデュケーションという有料講習を受けていれば、あとは数十時間ほどの路上教習に、教官と共に繰り出すことになる。
ティナを含めたいつものメンバー四人は、それにこれから付き合えと言っているのだ。
(マジかー……)
この恐怖は、それを実際に体験した者にしか分からない。




