第三十三話 白石姉妹
「お爺様もお婆様も、わたくしたちをお見捨てになるのですね……」
「そんなことではない」
「いいえ、きっともうわたくしたちのことが面倒になってしまわれたのです……」
「そんなことではないと言うに」
「でしたらもう少しの間、わたくしたちをここに置いてくださるはず……しくしく」
「ぷぷぷ……」
「……佐紀さん?」
「おー、こわ……あははは」
美紀は手のひらに載せた小さな鉄の塊をぐりぐりと指で擦りながら、祖父の辰夫をネチネチと責め続けていた。
大きな洋ネコが二匹、前足に顔を載せながらグリーンゴールドの瞳を美紀に向けていた。半分寝ているのか、一枚の座布団を占領している二匹の瞼がゆっくりと上下している。
椅子に腰かけている美紀の後ろに佐紀が立って、彼女の髪を丁寧に梳いているところだ。美紀の髪は、彼女が座る椅子の座面よりも下まで伸びている。
美紀は黒いストレート、佐紀は濃い茶色のウェーブで、似た顔立ちのこの二人を見分けるには、二人のその長い髪が最大の助けになるはずだ。佐紀のウェーブは人工的なものだが、その髪色は天然のものである。
この双子の姉妹、姉の美紀と妹の佐紀は、金沢の隣、津幡町の端に位置する白石邸で、いま祖父母と共に夕食後のティータイムを過ごしている。
祖父は辰夫、祖母は幸枝と言った。彼らは高齢でありながらも、その背筋をピンと伸ばしていて隙がない。
双子はこの祖父母を見て育った。両親をすでに亡くしている。
佐紀の持つ鼈甲の櫛が美紀の毛先に届いたとき、白黒のネコが全身を伸ばして鳴き声を上げた。
「にゅああああああん……」
「お箸、お玉。あなたたちもわたくしたちと目黒に向かうのよ」
「美紀ちゃん。あっちに猫アレルギーがいたらどうするの?」
「わたくしたちが頂くお部屋で飼えばよいだけのことよ」
「えー、それちょっと理屈が変だよ美紀ちゃん」
「知っているわよ!」
「おーこわ! ねえ美紀ちゃん、髪、椅子より伸びたからちょっと切らない?」
「そうね。そうして頂戴。佐紀さん」
佐紀は、沸点の低いこの姉をとても気に入っている。
美紀もまた、明るい性格の佐紀を気に入っている。
二人の結束は固い。三歳でこの屋敷に引き取られて以来、二人で必死に努力を重ねてきた。それはこの家に出入りする誰もが知っていることだ。
美容院を嫌った二人は髪を伸ばし続け、十歳となっても、髪が一定の長さになるとこうやってお互いの髪を切り揃えている。
白黒のネコ、お箸は一度だけ鳴き声を上げただけだ。体を元の位置に戻して瞼を上下させている。
美紀はしばらくそのお箸を眺めていたが、佐紀がハサミを持って戻ってくると正面を向いた。
美紀の目には雪景色の庭園が見える。
「お爺ちゃん。あちらさん、土曜日に来るんだよね? 楽しみだな」
「うむ。会ってしっかり確かめよ」
「ああ、どうしてこのようなことになってしまったのでしょう……」
『他家に預けることも、あるやも知れぬ』
美紀は、この屋敷に来て約半年後に辰夫から伝えられた言葉を振り返った。
分かってはいたのだが、このように早くその時が来るとは予想していなかった。
幸枝が、黙って佐紀に髪を預けている美紀に声をかけた。
「美紀ちゃん、先方には六年生の真司君という男の子がいるわ。佐紀ちゃんと三人になれば、また楽しいこともあるわよ」
「一つ上の男の子なんて……どうせ頼りにならないわ」
「それがね、美紀ちゃん。とても頭のいい男の子らしいわ。高校までのお勉強はもう終わってしまっていて、それでも小学校に通いながら剣道を教わっているのですって」
(頭の方はいいけれど……剣道ね……ふうん)
「こら美紀。佐紀もだ。値踏みするような失礼は許さんぞ」
「値踏みだなんてお爺様……。趣味に共通点が一つ見つかって、少し安心したのです」
「そうだよお爺ちゃん。ちゃんと歓迎するよ」




