第十四話 ブロンド
「学校、付き合ってくれよ」
「オッケー」
朝食を終えると、真司はアイリーンを連れて、二年生の一学期まで通っていた小学校に向かった。
「さっむ……」
「ニューヨークよりはマシよ」
二人は厚手のコートを着込んで歩く。真司は茶色のダッフルコート、アイリーンはダークグレーのロングコートだった。アイリーンのブロンドが目立って人目を引いている。
このブロンドという髪色は年齢で変色していくことが多い。
十代の頃は金色でも、年を重ねるにつれて、その色が濃い赤や濃い茶色に変わっていくのだ。これを金色に染めてもブロンドと言うことがあるが、十代のままのブロンド、つまり地毛でブロンドを保っている場合はナチュラルブロンドと表現される。どこかで耳にした方も多いだろう。
アイリーンのブロンドが変色するかは分からない。その場合、彼女は金色に染めようと考えている。
ここ、目黒本町の風景は真司の記憶にあるそれとだいぶ変わっていたが、道順を間違えるはずもなく、コンビニやレストラン、青果店や精肉店の位置を確認しながら歩を進め、およそ十分で目的地へと到着した。
三学期の開始は明日からの予定なので、児童の数は少なかったが、金髪女性を連れて校内をウロウロする真司はここでも目立ち、幼馴染の一人が走り寄ってくると、
「あれ? 真司?」
「お。宮田!」
「おひさあ! おい、誰だよこのパッキン? メーテルみたいだぞ!」
(……メーテル?)
「この人はアイリーン。おれの姉貴だよ」
「コンニチハ。ワタシハ、アイリーン、デス」
「おお、日本語喋った! おい、真司! 日本語だったぞ」
宮田はアイリーンの日本語に集中して聞き逃したが、真司はアイリーンを姉として紹介した。揃いのリングにそう刻印されているので間違いではない。真司の発した姉貴という単語はアイリーンにも理解できたようだ。
アイリーンは、自己紹介を返さない宮田の正面にしゃがみ込むと、
「シンジには他にも兄と姉が大勢いるわ。特に親しい人は五人、兄が三人で姉が二人よ。私はその特に親しい姉の一人なの。姉って、とても弟思いなのよ。シンジに怪我でもさせてみなさい? そこにある箒の柄をあなたのお尻に力いっぱい突っ込むわ。いいわね? 仲良くするのよ。これはお願いじゃないわ。分かるわね?」
「……真司、この人、何言ってんの?」
(やめてくれよ……)
アイリーンの英語が通じるはずもなく、宮田が真司に通訳を求めてくる。アイリーンの言葉は真司にとってうれしいものであったが、そのまま伝えるわけにもいかないだろう。
「仲良くしてくれってよ」
「いいとも。また宿題教えてくれ、真司」




