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タイトルが思いつかない
ここは世界の中心である。僕の家の近く、そこには雲を突き抜けるほどの何か動物を模した鉄の塊が置かれている。しかし、穴が至る所にあり、残骸という状態である。その巨躯を中心として、辺りには、人間より数倍大きい鉄の塊と推定されるものが何処もかしこに埋まっている。その間を縫うように蔦が伸び、雑草で生い茂っている。
というように、こんな立派で鬱蒼としたところがあり、そんなとこには誰も近寄らない場所だが、僕の好きなところでもある。僕がそこが好きな理由としては、誰も近寄らず、自然で溢れているからである。まあ、自然のものとは言い難いものが点々として存在しているのだが。
因みにこれら、鉄の塊はいつからか存在していたという。というか、元々其処に、世界の中心にあったので正体が分からず、一度調査してみるも訳の分からない言語らしきもの、そして、何か一切分からない回路や均等に並んだ押せるものなど何が何だか――結論としてなんか凄い奴らが居た、ということで放置された。本当に諦め上手だと思う。
僕は、その調査は絶対に不十分であると思い、その調査が行われた二年前から自主的に調査を開始し、この場所に心を囚われてしまったわけである。
しかし、調査はサボっている。
「だってめんどくさいもん……いや分かってるんだ、これは誰かがやらなければならないって……、あいったー!!」
埋まっている鉄の塊の上で独り言を喋っていると、後ろから林檎を投げつける少女がいた。黒髪美少女がこちらを睨んでいる。
「な、なにをするんだあ、有栖!!」
「ごめーん、入谷あ、あ、あ、あ、あ、手から林檎が飛んでいくー」
おい、なんてわざとらしいんだ。真顔で棒読み、そして腕が激しく動いている。しかも目が笑っていて怖い!
「お、お、おいいい、やめ、いたっ」
―――やめろ!!と右腕で林檎を受け止め、投げ返す―――その林檎が、頭を……貫っ、バシッ!
有栖が顔の前で僕の剛速球を受け止める。受け止めた手からは煙が上がっている。
お、おい……冗談だろ。その玉を受け止めるとは。
そして、隠れていた端整な顔が現れる。しかし、想像通り―――俺を殺す目だ。そう悟った時すでに遅し――俺の体は貫かれていた。
――僕は、死んでしまったみたいだ。はあ、林檎に殺されてしまうなんて――おかしいよ!!
「いったー!!」
僕が勢い良く頭を上げると、有栖の頭を弾き飛ばし、悲鳴が聞こえた。横を見ると、額を押さえながら転がる有栖がいた。
因みに、有栖がこれほど痛がっているのに対し、僕が平然としているのは、僕の頭がただ、石頭だからだ。
「お、おい、有栖。そんなに転がっていたら、落ちるぞ」
「あんたのせいだろお!」
嘆きながら転がる有栖は、案の定、まあ、普通に、緑生い茂る草むらに転がり落ちていった。
「はあ、情けない、情けない……」
「………」
僕と有栖は一時の静寂を作ると、草むらにその間倒れたままだった有栖は、急に立ち上がり、「うわーん!それ持って来いよお!!」と言って、その場を去っていった。
有栖アリス。僕の幼馴染で仲の良い友達だ。有栖が僕のことをどう思っているのかは、分からないのだけれど、僕の方は少なくともそう思っている。有栖の長髪でもなく、短髪でもない、あの黒髪。ん、それを何というだっけか――うん、忘れた。まあ、真ん中の長さ。
いやあ、しかし、あの黒髪は天下一品だと思う。あの艶、柔らかな髪質、風に揺れる一本一本の髪。それら全てが好きだ。あ、因みに、僕は髪フェチではない。ほんの稀に、意識が髪へと行ってしまうだけだ。
そんなことはどうでもいいか。それで有栖、先のように、僕に対しては少し暴力的なのだ。ああ、これは一種の愛情表現なのだろうな、とポジティブに捉えてみるが、そうは甘くないわけで、恐らく、いや確実に、この巨大な鉄の塊に囚われてしまったからなのだろう。最近は調査をサボっているが、しかし、やはり、何かがある気がして、いつものようにここに来てしまうのだ。何かを見つけ出さなければいけない。そんな衝動に駆られて――
「はあ、そろそろ帰るか」
僕は横に置かれた、林檎の入った袋を右腕に抱え、真上の昇った太陽の光を浴びながら、帰路を歩き出した。
現在、真昼で気温も高い。しかし、僕が居たあの場所の周りは木々が生え、涼しげな山道が一本存在する。歩いていると蝉の鳴き声が響き、僕の足音が掻き消される。
真っ赤に染まった林檎。道を転がる林檎。風に揺られる林檎。
わざとらしく転がした林檎を急ぎ足で拾うと、森を抜けた。僕が立つこの場所は高台で、ここから見える街の景色は絶景だ。その景色を尻目に緩やかな傾斜の道を数分かけて降りると、道は土から、石畳に変わり整った街並みが目の前に現れた。隣をゆったりと流れる小川。頭上を行き交う人々の声。一人一人の足音。
そして、黒髪の美少女――有栖。
「有栖、着いたぞ」
有栖は髪を靡かせ、僕を振り向く。
「あ、お帰り。ちゃんと持ってきたみたいだね、林檎」
「まあ、山道を転がしていたのだけどな――優しく、丁寧に、だ」
清々しい笑顔で、僕は言う。怒られること覚悟で言った――しかし、何故だが、怒られることなく「まあ、傷とか付いてないし、いいよ。なんで転がしたのか、謎で仕方がないけれど。入谷のことだし、転がしてても可笑しくないよね」とあしらわれた。
「そ、そうか……」