No.2 出発前日
魔術の名前はノリです。
何か良い読み方がありましたら是非教えて欲しいです!
クレイと別れた後、ミナトは自分の家の中で趣味である読書をしていた。読んでいる本のタイトルは「勇者ソアの英雄碑」だった。
ミナトは小さな頃から『英雄』や『ヒーロー』に憧れていた。といっても今では英雄やヒーローにはなれないと分かっている。しかし完全には諦められているわけではなく、今回の『成人の祝福』で授かる魔術で人々を救えるかも、なんて心の底では思っていたりする。
そんな意味でも、初めて行く街という意味でも、今回の『成人の祝福』はミナトにとって大きなものだった。
勇者ソアが魔王の城にたどり着き、四天王の一人である悪魔ゼインを倒した――というところで本に栞を挟みパタンと閉じる。
「――そろそろか。 何食えるんだろうな」
窓の外を見てみると空は赤く染まり、夕暮れにさしかかっていた。クレイ達との約束の時間までもうすぐだ。
「それにしても俺、どんな魔術もらえるんだろ」
外用の少し綺麗な服に着替えながらポツリと呟いた。魔術は何百何千という種類がある。
先程家を訪ねてきたクレイは十六歳だ。つまり、一年前に『成人の祝福』を受けた。その際に授かった魔術は『身体強化』で、その名の通り身体を強化する魔術だ。使用すると赤いオーラを身に纏い、身体能力と五感が大幅に上昇する。シンプルだがクレイはこの魔術を使って魔物を打ちはらったこともあり、強力な魔術と言える。
また、村長の魔術は『成長促進』というものだ。植物の成長を早めたり、人間の成長を早めることができる。ここでいう人間の成長とは、背が高くなったりなどというものではなく簡単に言えば熟練度が多くなるということだ。例えば農作業したことのない人間が村長の『成長促進』をかけられた状態で畑を耕したとしたら、かけられていない状態に比べて遥かに早く畑を耕すのが上達していく。一見地味だが、植物の成長を早くする事で作物の収穫を多くしていたり、この村で欠かせない魔術だ。
着替えが終わり、顔も洗い終わったミナトは扉へ向かう。そして手を伸ばし、がっしりとドアノブを掴んだ。そしてゆっくりと捻り自分の方へと扉を引きながら開く。
――その寸前。
「ミナト〜!むっかえに来ったぞ〜!!」
聞き覚えのある声がミナトの耳に入り込んできた。それと同時に扉が勢いよく開く。
――あ。これ既視感。
勢いよく襲いかかってくる扉に反応ができるわけもなく、再び扉に吹っ飛ばされたミナトだった。
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空が赤一色に染まり、少しずつ太陽が隠れて暗くなっていく。そして、その赤色に照らされている道を走る少年の影が二つあった。
「……おい。今日の昼に扉開けるときは優しくって言ったよなぁぁぁああ!」
ミナトは扉にやられたダメージが回復するや否やクレイを追いかけ回している。
「あのー!ホントに!悪かったって思ってるから、許してくんねぇ!?」
「いや、もう許さねぇ!捕まえたら容赦しないからな!」
少しずつ両者の距離が近づく。あとちょっとでクレイを捕まえられる、というところで――。
「――ッ!『身体強化』」
クレイが魔術を使った。もわもわとクレイの体に赤のオーラが纏わり付いていく。そしてみるみるうちにミナトからの距離は離れる。ミナトが気付いた時にはもう、遠く離れている。
「てめぇ!ずるいぞ!魔術使うのはねーだろ!」
「あっはっは!お前も早く魔術を使って追いつくんだな!」
ミナトがまだ魔術を授かっていない事をいい事に小馬鹿にしながら余裕で逃げるクレイ。
「――はぁ。今からパーティだってのに、何してんだか……」
突如、鬼ごっこをしている二人の耳に、透き通るような綺麗な男の声が聞こえてきた。真っ赤な太陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪に、整っている顔。そこには街で歩いていたら大半の女性は振り向くような美しさがある。
固まった顔でその青年を見る二人に対し、「はーぁ……」と長いため息をつき、クレイに歩み寄る。
「……クレイ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「なんで、ミナト迎えに行ったはずなののにその本人としかも村長の家に真ん前で鬼ごっこをやってるのかな?」
「そ、それは――」
「まあいいや。あとは家の中で聞くからね」
「え、ちょ……セスタ兄……許して……」
サァァァと血の気が引いていくクレイを無視し、青年はミナトの方を振り向いて言った。
「ミナト!お前は今日んlパーティの主役だから許してやるけどもし次あったら、……覚悟しとけよ?」
自分は説教されないとわかりホッとしたミナトだった。同時にクレイへの同情が湧き、ふとクレイの方を見てみると、
「んだよ、見んなよ……。もう、いいや。あは、は……」
なんかすごく死んだ目をしていた。ミナト自身はセスタの説教は食らったことはないが、よく怒られるクレイを見ていてその恐怖は知っている。
セスタはにっこりと笑いながら、ミナトへ「付いて来て」と言って、クレイの首根っこを掴んだまま村長の家へ入って行った。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
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