魔法
少し短いです。
家の外へ出て、人工的に木々を切り、開けた広場に移動する。
「じゃ、まずは、この前の復習を始めようか。時間は予定よりも早いからね」
「「はーい」「…はい」
「よし、ミリス。魔力は体内のどこに貯められる?」
「はい、オリジンと言われる場所です!」
自分の体を指でさして自信を持って断言してくる。
「そう、俺たちは一人一人、大きさも形も違う、目には見えないオリジンと言われる場所に魔力をため、それを魔法にして使う。じゃ、次に魔法を覚えていなくても魔力だけで使える魔法をユリ」
「…じゅんかん。まてりあるマジック」
「そうその二つ。一度だけ授業に出しただけだったけどよく覚えていたね」
ユリの頭を撫でる。紫の長い髪はとてもしなやかで触れた指先が吸い込まれそうになるほどだ。やばい…ちょっと癖になりそうだ。
「…せんせい。くすぐったい」
「センセー、さっさとやろうぜ!」
そのまま、ずっとしておきたかったが横からの介入と本人の意思でそれはダメになった。
「はいはい。循環のほうは皆の魔力がまだ低いからダメだとして、マテリアルを使用した道具……簡単に言えば魔法の術式が組み込まれた道具は皆でも扱いを間違えなければ使える。今回はそれを使って実践式で遊――授業をしよう」
言い間違えそうになったが、全員の視線は俺が懐からだしたマテリアルを組み込んだ御札に注目していたので大丈夫だろう。
「まず、この御札には捕縛系の魔法陣が刻まれていたのを俺が少し弄っ――改良して捕擊系にしておいた。このように魔力を流すと…」
一枚の札が赤く光ると目の前にいたルカに向かい一本の鎖が飛び出す
「……! ちょっ!! ギャアアアァぁアア!!」
ルカがいつものように察して、鎖から逃れようとしたが鎖の方が早く、ルカを雁字搦めにした後、電撃を流し始めた。
………予想以上に危険なモノになったな。叩き売り50エルの御札。
「…ううう、まだ少しビリビリする」
電撃から数分で立ち直ったルカを残りの二人は同情しながらも、頭の中では色々と考えているはずだ。俺がこれから言うことを……
短い付き合いとはいえ、俺はそうゆう風に教えてきた。
相手の考えを読み、潰せ。読めないなら逃げろと。
「取り敢えず、今から三人には一時間俺から逃げてもらう。範囲はこの広場周辺。俺は三枚の御札を使い捕まえる。三人は一人三枚の御札を使い俺を倒すもいいし、捕まえる、もしくは逃げ延びたら勝ち。勝った人にはご褒美をあげるから頑張って。質問はある?」
ご褒美の言葉に大きく三人は興味を示す。
「はい、はい! ご褒美は何ですか! 私はケーキがいいです!」
「それはあとで教えるから」
「…おふだ。だけ?」
「今回は御札以外の魔法は禁止。限られた手の中で相手を倒す方法と逃げる方法を学んでもらうものだから…あ、魔法以外ならなんでもいいよ」
俺の答えに三人は先に用意していた木剣を構え、俺から目を離さないようにゆっくりと離れ、隠れていく。
さて…お手並み拝見と行くか…
「それじゃ――始め!」
大きく宣言して、ゆっくりと周りを俺は歩き始めた。
リシュの大森林。
帝国で働いていたときは名前しか知らなかったが、こうやって流れ着いて居候させて貰うようになってからは、いろいろと規格外なところがあると身を以て知ることになった。
特に驚いたのはルカ達『星見の民』だ。
彼らは―――
「隙あり!!」
物思いに耽っていると後ろからルカが飛び掛かってくる。
体を右横に逸らして、木剣を左手掴む。
「いまだ!!」
剣を離し、手に巻きつけていた札にルカが魔力を流す。
瞬間。
鎖が飛び出てくるのを同じく札に魔力を流して相殺。が、左右からミリス、ユリが出てきて囲むように二人もマテリアルを発動させていく。
どうやら逃げる、一人ひとり隠れて攻撃をやめ、この一回にかけるつもりのようだ。
右側、ユリの鎖にルカの木剣を投げ、ミリスのほうは体を回してルカを当てる。
「ふざっ――また、このパターンかよ!!!!」
「ばかルカ! 何やってんのじゃまよ!!」
絶叫の前にそう呟いたルカはその後しゃべることもできずに脱落。ミリスはルカに当たったのに油断――せず、視線はこちらに向いている。
ユリがその間にもう一枚の札で攻撃してくる。狙いは真っ直ぐなので難なくよけるが……
「…狙い通り。ミリちゃん」
「任せなさい!!
避けた所にユリが斬りかかってくるのを、鎖の時と同じようにひらりと避け、地面に札を一枚落とす。
そして後ろで、魔力を練っていたミリスが準備が出来たとばかりに4枚の札を発動させる。
「っ!」
一枚目、二枚目は懐から出した札を斜めに発動させ、絡める。
三枚目には近くにいたユリを投げ、四枚目は投げる際にこっそり取ったユリのお札を使う。
ミリスもルカのを使っているので問題はない。
「…っ!!!」
「うっそ!? あれ避ける!? ユリ! も、ダメだ。よし、逃げよう!!」
と、ミリスが意気揚々と戦線を離脱しようとするが、時すでに遅く。地面にわざと落としゆっくりとミリスに近づいていた鎖がミリスの右足にたどりつく。
「赤点だ。三人とも」
「ひ、卑怯だぁぁ!!」
鎖に巻きつかれ、悲鳴を上げながらミリスも脱落となり、今日の授業は終了となった。
そして俺は何故か村長に呼び出しを食らった。
――罪状、申告なしの危険物取扱注意。
一時間の説教ののち罰金が科せられた。
説教の後、生徒から慰められた。
ルカ……。