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りめいくっ!  作者: 見代橋 みなつ
2/3

エピソード1 日常から始まる非日常

「おっはよぉっ!おにぃちゃん!朝だよっ!起きてっ!......起きないとぉ、イタズラしちゃうよぉ?」


ハツラツとした可愛らしい声で、お休みモードだった俺の意識は一気に覚醒する。


「うぅん、ねっむ。もう朝かよ。」


月曜日朝。

この四字熟語を聞いてテンションの上がる者はそう多くないだろう。

それは俺とて例外ではない。

いっそこのまま今日は学校を休んで1日寝ていようか、なんて気すら起こしてしまう。

が、俺を呼ぶ元気な声はそうさてくれない。


「こぉーらぁっ!二度寝しないっ!早く起きるっ!」

「わかった、わかった。」


軽く伸びをして名残を惜しみながら布団からでる。


「...おはよ。おにぃちゃん。」

「あぁ、おはよう。いつもサンキューな」


そして俺は手を伸ばし、毎朝世話を焼いてくれる頼もしい相棒...スマートフォンアプリ、『妹目覚まし』を切るのだった。


現在(リアル)の妹?

ハハッ、いるわけないじゃない!

朝兄貴を起こしてくれる可愛い妹とかs(それ)n(なんて)e(エロ)g(ゲー)


*************************


改めて自己紹介。

俺の名前は住吉(すみよし)春斗(はると)

重度のオタで独り暮らしをしていることを除けば基本、特徴のない普通の高校生。

ちなみに冒頭の下りで気づいただろうが、年齢=彼女いない歴の恋愛童貞。

まともに話したことのある女子なんて画面の中の()しかいない。


俺の朝は占いからはじまる。

男子高校生にしては、珍しい習慣かもしれないがまぁ、ある種のジンクスのようなものだ。

深い意味はない。


「さて...と。」


スマホを使い、開くのは最近見つけた某占いサイト。

八方美人なことしかいわないが、割りと当たるのでよく使っている。

名前と生年月日を入力し、診断が始まった。

また、都合のいいご託ばかり並んだ結果が出るのだろうが過信してはいけない。

所詮は占い。

当たるも八卦、当たらぬも八卦だ。


『 ~住吉春斗さんの今日の運勢~


あなたの人生史上、最悪の厄日となるでしょう。特に金運と廻り合いの運勢が最悪です。また女難の相も出ています。可能限り外出は控え、誰とも接触しないようにしてください。』

「......。」


しょっ、所詮は占い。

当たるも八卦、当たらぬも八卦だ。


そもそも今日は学校がある。

遅刻でもしない限り、普段と変わったことなんてあるわけがない。


**************************


「...んだからさぁ、少し借りるだけっていってんじゃーん。ちゃんと返すって!...早く財布出さないとどうなるかわかるよねぇ?」

「ねぇねぇ、自分の置かれてる状況考えようよ!どうすればいいのか、わかるだろ?」


...うわぁ、なるほどこういうことかぁ。

時は流れて午後4時30分。

俺は件の占いが大当たりだったことを後れ馳せながら知り、軽率な行動をとったことを後悔していた。

現在俺は学園の体育館裏でガタイの良いお兄さんたちに囲まれている。


きっかけは、とある女子生徒と廊下でぶつかったことだった。


もちろん、それは本来ならその場ですぐに謝って解決する些細な出来事だ。

ただし、相手が"普通の"女子生徒であれば。

俺がぶつかった相手の名は早乙女(さおとめ)(さくら)

俺の通う都桜(みやこざくら)学園で知らない人はいない位有名な筋金入りのヤンキーで、この学園の不良グループを統率するリーダー格なのである。

大人しければ清楚系の黒髪美少女にしかみえない美貌と、実際とのギャップから、ついたあだ名は「さくランボー」。

まぁ、ぶつかった時は舌打ちをされただけで特に暴行は加えられてないのだが。


ところが授業が終わり家に帰ろうと帰路に着いた時、突然屈強な男ども(恐らく、一部始終を見ていた早乙女の舎弟だろう)に拉致られてしまい気がついたらここにいた。

本当なら今すぐ財布でもなんでも差し出して、退散したいところなのだが 今日だけはそうもいかない。

なぜなら、この財布にはバイトで稼いだ1ヶ月分の給料と今月分の学費が入っているのだ。

とりあえず説得を試みる。


「本当にすみませんでした。ただ...あの、流石に...お金は勘弁してくれませんか?」

「あぁ?君さぁ立場わかってんの?こっちは被害者なんだよ!?いいから出せって!オラッ!」


腹にずっしりとした衝撃を受けその場にたおれこむ。

思いっきり殴られた。

もし俺にドMの趣向があったなら、今の一撃は間違えなく人生で最高のご褒美だっただろう。

もちろん、俺にそんな愉快な趣味はない。

俺の性癖なんてせいぜい妹萌えとロリコン位だ。

断じて不純な人間ではない。


そうこうしている内にとうとう懐から財布を抜かれてしまった。


「ッたく手間取らせやがって...オォッ?!めっちゃはいってんじゃん!ひょっとして、結構ボンボン?」

「ちっ、違います。そこには今月生活に必要な金が全部入ってるんです。...だからせめて全額は勘弁してくれませんか?」

「ふぅーん。苦労してるんだな...そっかじゃあしょうがねぇな!俺達チョー優しいから許してやるよ!」


おっ!いくらか残してくれそう!

意外と良心的じゃん!


「じゃあほら、これやるよ...ペッ!これでも噛んでくらしてろや!ギャアハハハハハハハハハッ」

デスヨネー。


ダメ元で人情に訴えてみたが、顔に向かってガムを吐かれただけだった。

これを使ってどう生き延びろと?


「ほら、軍資金も入ったし、行こうぜ?お前ら」

「......」


去っていくやつらに一言も言い返すことができない俺。

明日からの生活がかかっているというのに、殴られることが怖くて一歩も踏み出せなかった自分が心底情けなかった。


*************************


ズキズキと疼く肋骨を抑えとりあえず再び帰路に着く。

先ほどの惨事から約3時間が経った。

だが、このまま家に帰ることができたとしても何が変わると言うのだろう。

生活に必要な金は全てむしりとられ、病院で診せれば確実に入院モノの深い傷を負った俺。

これから約一ヶ月どうして生き延びることができようか。


「詰んだ...。」

完全に詰みである。

ムードを演出するかのように、雨まで降ってきた。

夏もそろそろ終わろうかというこの時期。

冷たく容赦のない激しい雨は際限なく体温を蝕み、傷口を刺激する。


「...俺こんな下らないことで死ぬのかな?」


笑えない冗談だ。

こうなったのも、全てあの女のーーー


「...あっ!」

その時、激しい雨の降るなかで凛と響く声がした気がした。


もう厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。

そう思いながらも思わず顔をあげてしまう。

そうせねばならない気がしたのだ。


ーーー声の主は早乙女桜だった。


...嘘だろ?冗談だろ?

「...なんッ、なんだよ...まだッ、俺から、なにかを...奪おうとするのかよ!」


傷に障ることはわかっていても、思わず悪態をついてしまう。


しかし、そんな事に気づく様子もなく早乙女は


「お前に用があってきたんだ。今そっち行くからそこで待ってろ!」


...やめろッ...来るな!これ以上なにを壊そうっていうんだ!

大体...ッ?!


やつを睨み付けようと再び顔を上げたその時、俺は気づいてしまった。

軽自動車が一台、彼女に迫っていることに。

運転席に座っている男は目の焦点があっておらず、口からは唾液が垂れている。

どうやら、飲酒運転をして気を失っているようだった。


そしてそれに早乙女は気づいていない。

!!!!!


「ぁあっ、あ、ぶな...ッ!」


叫ぼうとしたのだが肋骨が疼き声にならない。

早乙女と車の距離はどんどん近づく。


「...クソッ!」


次の瞬間、足は地面を蹴り出していた。

俺は、走った。

走って走って、死に物狂いで走り抜いて車と早乙女が接触する寸前で彼女を突飛ばし、


...車と正面から激突した。

痛いなんてものじゃない地獄のような苦痛と気だるさが全身を襲う。

目の前から真っ黒な闇が迫って来るような感覚。

生まれてはじめて経験した。

意識が飛びかけるってこういうことなんだ。


「へ...お前...。体から血が...しっ、しっかりしろッ」


耳元で早乙女の声がかろうじて聞こえた。

どうやら、無事だったようだ。


でも、どうして俺はよりにもよってこんなやつのためにここまで体をはってしまったんだろう。


...あぁ、そうか。

自分では忘れたつもりでいたのにまだ"あの時の事"覚えてたのか。

本当、今日は最悪の1日だったな。



...それから数十秒後俺の意識は深い闇へと落ちていった。




ご拝読ありがとうございます!レビュー、メッセージ等お待ちしております!

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