エピソード0 理想的な告白
「・・・先輩は、私に恋する女の子の喜びを教えてくれました。こんなに切なくて、苦しい気持ちになったのだって、生まれて初めて。・・・責任、取ってください。」
学校の放課後、屋上で。
俺は生まれて初めて女の子からの告白を受けた。
潤んだ目で俺を見上げ、今にも折れてしまいそうな細い体をフルフルと震わせ、返事を待つ彼女の名は早乙女 桜。
上等の絹を闇夜で染め上げたような長く美しい黒髪と、宝石のような光彩を放つ美しい瞳を持つ早乙女は、街で百人の男がいたら百人全員が振り替えるほどの美少女だ。
そんな彼女に暮れなずむ校舎で告白を受ける。
同い年の思春期男子共にみせたら血の涙を流して羨ま死(羨望のあまりのたうち回って死ぬこと)すること間違いなしのこの状況。
しかし俺、住吉 春斗は・・・引くぐらいえげつない量の冷や汗をかいていた。
「えっと・・・早乙女さん?一つ質問いいかな?」
「もちろんです。・・・でもその前に出来れば名字ではなく、なっ・・・名前で呼んでいただけませんでしょうか・・・」
白い肌を赤く染めてうつむきがちにこたえる早乙女改め桜さん。
その姿はさながら天から地上へと舞い降りた天使の如く。
思わず言葉を失ってしまうほど愛らしい彼女に、今から俺が聞こうとしていることは自分でも頭のネジが飛んでるとしか思えない愚問だ。
だが・・・どうしても聞かずにはいられなかった。
「じゃっ、じゃあ桜さん?まさかとは思うけど君って1年G組じゃ・・・ないよね?」
「?いえ。私は1年G組ですが。」
「そっ、そうなんだ!あっ、あれぇおかしいな?俺の記憶だと1年G組の早乙女桜っていえば、"学園始まって以来の稀代の不良グループでリーダーをやってる女番長"だったはずなんだけどなぁ・・・?いや、でも口調も見た目も全然違うし・・・あっ、もしかして同姓同名の別人、とか?」
「確かにそんな時期もありましたねっ。」
先ほどの真っ赤な恥じらい顔はなりを潜めて年相応のかわいらしい微笑を浮かべながら喋る桜さん。
その無邪気な笑顔につられて思わずこちらも笑顔を浮かべてしまう。
あぁ、カワイイなぁ・・・
「アハハッ!そうだよね!君があのヤンキー女なわけないもんね!いやだな僕は何を言って・・・・・・ん?」
あれ?
「?確かに私、そういうことをしてる時期もありました。でもそれは過去の話。今の私は貴方をいっ・・・一途に想っているだけの普通の女の子です。そんなことより、そのっ早くお返事を聞かせてくださいませんか?」
再び顔を朱に染めながら、しかし確固たる意志を持った様子でこちらを見つめ返す彼女に俺はまたもや言葉を失う。
はたから見れば先ほどまでとほとんど変わらない光景。
ただ一つの変化は・・・俺の思考回路が完全に止まってしまっていることだった。
目の前のかわいい天使が、学園最凶とまで呼ばれたあの早乙女桜?
「嘘・・・だろ?」
ありえない。
もしや俺は今幻覚をみているのだろうか。
正直今なら自分が美少女が肉塊に、肉塊が美少女に見える『例のアレ』にでもかかってしまったといわれても納得できる気がする。
「・・・マジでどうなってんだ・・・」
「えっ、ちょっ・・・住吉先輩!?」
直後、俺がショックで気絶して思わず本当に天に召されかけたのは言うまでもないだろう。
―これは
素直になれない草食男子の俺、住吉春斗と
ちょっと荒っぽい肉食女子の、早乙女桜の
恋の物語。
まずは、二人の開口から。
―プロローグを始めよう。