表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の白花と聖なる黒騎士  作者: 古川一樹
11/11

真実を求める者たち

「なんだ、これは…… 。」


珍妙な表情で震えながら歯をかみしめる。

俺もどれどれとつま先立ちになりながらしわくちゃになった紙を覗こうとすると、

信が見えないように手首を翻して隠した。


「なんだよ。隠すなよ。うちの手紙だぞ!?」


隠されると気になる。好奇心猫を殺すとはよく言ったものだ。

そもそも俺の家のポストに入っていたものだ。家主にこそ見る権利はあるだろう。


「いや、ただの悪質な広告だ。見ない方がいい。」


「そうやって隠されると気になるじゃないか。」


ダメと言われると余計に見たくなってきた。

自棄になって聞いてみると信はあきらめたように一枚の紙を見せた。


「いいのか? ほら、これだよ。」


「ぶっ! ただのエ○広告じゃないか!」


その手にあったのは大人な人が買うお店のチラシだった。

あまりにも信が隠すので面白い何かだと思っていたのに実際に見てみると大したことがなかった。

とても興ざめである。


「ああ。"女の子"が見るものじゃないからね。」


俺をからかうように"女の子"を強調して言うあたり悪意しか感じない。

馬鹿らしくなった俺は部屋の鍵を開けて中へ入った。


============================


「ようやく家に帰ってきた―。」


俺が久々の我が家にホッと一息つくのも束の間で、信が俺を押しのけて家の中へずかずかと上がり込んだ。まるで自分の家のような振る舞いにイラっとくる。


「おい! 俺の家だぞ。人を押しのけてまで客人が上がりこむのはおかしいだろ?」


「いや、すまない。俺としことが焦りすぎた。」


信は周囲を見渡す。そして俺の方を見て強張った表情を緩ませると笑いながら言った。

そんなに俺の家に帰りたかったのか? 意味の分からない奴だ。


「どんだけ俺の家にあがりたかったんだよ。あれか飯か? 腹減ったのか?」


人の家にわが物顔で上がり込む理由を俺なりに考えた。

いつもの信はこんな自分勝手なことはしない。長い付き合いだ理由があるのはわかる。

だが解せない。ちゃんとした理由があるはずだがそれがわからない。

必死に考えた結果俺が出した結論は空腹というわけだ。

人の三大欲求にはさすがの信も抗えなかったか。


「あ、ああ。そうだ。腹が減りすぎて我慢ならなかったんだ。」


「信が言うと変な意味にしか聞こえないわね。」


「おいおい。どういう意味だよ!? 」


「そのまんまの意味だけど。」


江利が挑発するように言った。

俺はその様子を見ながら平穏な日常を感じていた。


ふと、ヴォイドマンが元人間である事実が頭を過る。あのダークヒーローの背後に糸を引く人物がいるようなそんな口ぶりだった。真実を追い求めたい欲求とこのままこの安寧な空気に浸り続けたい気持ちとがせめぎあう。


目の前では江利と信が言い争っている。不意に信の手から紙切れがヒラヒラと舞い落ちた。

俺はそれを拾い上げ、手紙だと理解した。


"ヴォイドマンの秘密を知りたくないか?"


手紙にはそう書かれていた。俺はゴクリと喉を鳴らして息をのむ。


「おいっ、桂。」


俺が手紙に釘付けになっていると信が慌ててそれを取り上げた。

信は表情はどこか悲し気で強張った表情で俺を見つめる。


「信。俺に隠さないでくれ。」


「いやだ。お前はヴォイドマンの。真実を求めて先に進むだろう。

また前みたいに大けがをして。危険な目に合う可能性だってあるんだ。」


「虎穴に入らずんば虎子を得ずだよ。危険を冒さなきゃ得られないものもある。」


「でも! 俺はもうお前を失うかもしれないっ! もう二度と。あんな思いをしたくないだ!! 」


信は語気を強めていった。その目はかすかに水気を帯びているような気がする。


「じゃあ、守ってよ。そうならないように! 信。俺は知りたいんだ。俺たちが戦っている意味を。ヴォイドマンに殺された人たちの無念を晴らすためにも。」


引き下がるわけにはいかない。ここまで知ってしまったのだ。危ないからやめますとはいえない。だって、ヒーローなのだから。


「…… 。」


信は口を閉じて俺をじっと見つめた。強く心の底を射抜くような眼差しで見定めているようだった。


「わかった。桂。お前がそこまで言うなら守ってやるよ。絶対に。」


「よく言ったわ。信。それでこそ姫様を守るナイトってものよ。

当然。私も賛成よ。やられっぱなしって。嫌なのよね。」


江利が腕を組みながら自信満々に言った。意外と江利は負けず嫌いだったようだ。


「ふふっ。よかった。じゃあ、この手紙の誘いにのってやるか。」


手紙には真実を知りたければ指定の場所に来いという、わかりやすい罠だった。でもこの罠を張った人物は間違いなく真実に近しい人物だ。


かかってやろうじゃないか。罠の裏をかいて相手の懐深くまで潜り込む。そう決意を新たに一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ