9.スケコマスイッチ
私は頬を染める彼女を見て、内心「あちゃー、またやっちゃったよ」なんて考えている。
何故かは分からないけど、私はスイッチが入ると女の子を口説いてしまう。いや、自分では口説いてるつもりはないし、場合によっては女の子以外にもするんだが。
元々女の子には優しく接するように心掛けてるのだが、スイッチが入ると今みたいにまるで口説くかのように話しかけてしまう。
ちなみに、スイッチが入るのは庇護欲をかきたてられたり、好み…可愛いと思った女の子を見た時だけだ。
勘違いしないでほしいが、私はレズじゃない。ノーマルだ。まぁ、確かに女の子は好きだけど、それは同性としてだし、可愛いから好きという簡単な理由だ。
このスイッチの話を友人にしたら『スケコマスイッチ』と名付けられた。「スケコマシになるんでしょ?ならスケコマスイッチじゃん」とか言われて付けられた。なんて適当なんだ。いや、別に真剣に考えて欲しいわけじゃないけどさぁ…なんか酷い…。
「あ、あの…。」
ハッ!現実逃避してる場合じゃなかった。
「なんでしょうか?」
「えっと…手を離してもらってもいいですか?」
言われて気づいたが、私は彼女の手を握ったままだ。ご、ごめん…。知らない奴に長時間手を握られるって嫌だよね…。
「ああ、すみません。不快な思いをさせてしまって…貴女が心配で自分でも知らぬ間に手を取ってしまいました…。」
「い、いえ!不快な思いなんてしてません!す、少し恥ずかしかっただけなので…。」
申し訳なさそうに謝ると、彼女は慌てて否定してくれた。なんだ、恥ずかしかったのか。
そして自分でいった言葉も恥ずかしかったのか、彼女は俯いてしまった。何この人、可愛すぎる。
…っと、そろそろこの人を家まで届けようかな。私も森から抜けたいし、道案内してもらおう。
「…立ち上がれますか?」
そっと手を差し伸べる。これで「自分で立てますから」って拒否されたら泣く。
そう考えていたが、彼女はちゃんと私の手を取ってくれた。あー、よかった。
「あ、あれ…?」
彼女が戸惑いの声をあげた。
手を取ってはくれたが、一向に立ち上がる気配がない。いや、立ち上がろうとはしてるんだけど立ち上がれてない。まさか…
「…腰が抜けたんですか?」
そう尋ねると、彼女は真っ赤になりながら首を縦に振った。やっぱりそうでしたか。
さて、どうしたものか。私が彼女を連れていくのが妥当だが…どうやって?おんぶ?いや、駄目だ。彼女はスカートを穿いている。下着が見えてしまうかもしれない。じゃあ、俵かつぎ?いやいや、それこそダメだろう。扱いが雑すぎる。……どう考えてもお姫様抱っこしかないよね。
「失礼。」
「きゃっ。」
彼女を姫抱きする。え、この人めっちゃ軽いんだけど?ちゃんとご飯食べてる?大丈夫?筋肉のない私でも抱えられるって結構な軽さだぞ…本当に心配になってきた。
「あああ、あの…!」
「貴女の家までの道のりを教えてもらってもいいでしょうか?此処に来たのは初めてなので道が分からないんですよ。」
何かを言おうとした彼女の言葉を遮って話しかける。いや、なんか「降ろして」とか言われそうだなぁって思ったからつい、ね。
「…このままこの道をまっすぐ行けば、森を抜けることができます。森を抜けたら私が住んでいる村が見えてくるはずです。」
「分かりました。」
「えっと、あの…貴方のお名前は…?」
「名前、ですか?」
うーん、どうしようかなぁ。このまま普通に智未と名乗ってもいいんだけど、それはなんかつまらないなぁ…。
「…僕の名前はジークです。」
にこっと笑ってそう言った。
いや、折角コスプレしてるんだしさ…少しくらい楽しみたいじゃん?この状態で女って言ったらなんかこの子に申し訳なくなるし…。
それに…どうせ私のことを知っている人なんていないし、この子とずっと一緒にいるつもりはない。それなら少しくらい遊んでもいいでしょ?
さて、どこまで女ということがバレずにすむか、楽しみだ。