こぼれ話-4 世界は誰かの仕事でできている(日本刀の制作と刀匠の給料)
日本刀の価格って、どのぐらいかご存知でしょうか?
これはもちろんピンキリなのですが、しっかりしたものだと安くても50万円以上、多くは100万~200万円程度、高いものでは1,000万円を超えるものもあるようです。
http://www.iidakoendo.com/info/item/index.htm
ところでこの日本刀の値段、高いと思いますか? 安いと思いますか?
もちろん、自分で買うという意味では凄まじく高いのですが、日本刀の製作工程を紹介した動画を見たら、僕はこれ、むしろ安すぎるぐらいだと思いました。
https://www.youtube.com/watch?v=9Uob4iaWAjY
鍛錬だけでも、3人の人間が3ヶ月以上かけて1振りの日本刀を作っていることになります。
日本有数の高名な刀匠の年収は、少なく見積もっても600万円、多ければ1,200万円ぐらいにはなるでしょうか。
この人が3ヶ月働くだけでも、日本刀1振りを制作するための人件費は150万~300万円になります。
弟子たちに給料は払わないとしても、この日本刀の売値が200万円を下回るようでは、どうやったって採算が合いません。
しかもその鍛錬の工程の前には、10人の男たちが三昼夜をかける玉鋼を作る工程がありますし、鍛錬の工程の後には仕上げ砥ぎの工程がやはり相当の時間をかけて行われます。
流通コストや販売のコストも考えれば、この日本刀の値段はどうしたって300万円を下回れないかと思います。
完成段階で出来の悪い日本刀は次の職人に渡さずに破棄するということですし、実際には、最低でも400~500万円という売値は上回らないと、人件費をきちんとペイできないんじゃないかと思います。
もちろん、50万円とかいう日本刀は、それなりの工程で作られているんでしょう。
1人の刀匠は年間最大24振りまでしか日本刀を作ってはいけないと決まっているそうで、そう考えれば半月に1振りの制作。
比較的無名の刀匠の年収を仮に360万円とすれば、半月に1振り鍛えれば、その人件費は15万円。
材料費だけでも十数万円はするそうなので、流通云々も考えれば、これもどうしたって50万円ぐらいにはなってしまうというカラクリです。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1247640087
ここから僕が何を言いたいのかというと、世の中のモノの値段は、往々にしてそれを作ったり、運んだり、売ったりしている人の給料を意味しているのだ、ということです。
制作に時間がかかるものには当然、それだけの人件費がかかり、ほぼその人件費が、モノの値段とイコールになります。
材料費だって、もちろんその材料を作ったり調達したりしている誰かの人件費です。
水道光熱費だって、水道局と電力会社とガス会社で働いている人の給料になります。
生み出してお金をもらう人、消費してお金を払う人がいて、世の中は回ります。
だから例えば、プロの漫画家とかに「立ち読みしました! すごく面白かったです!」なんていう感想を送ったとしたら、それは「面白かったけど、対価を払うつもりはない。お前は俺のために無給で働け。飯を食うな。路上で寝ろ。嫌なら別にバイトでもしたら?」ということを言っているのと同じだということで、相手に対して滅茶苦茶失礼になるということです。
そうやって、モノの値段というのは、大部分が人件費で説明できます。
(現代において、商品の価格を人件費で説明できないものといえば、土地や資源ぐらいでしょうか)
だから、「世界は誰かの仕事でできている」わけです。
(あのCMのキャッチコピーには本当、一目惚れしました)
あなたの目の前にあるおよそすべてのモノは、すべからくこの世の中の誰かの仕事によって生み出されていると言っていいでしょう。
ちなみに、企業が暴利を貪っていれば、払われた商品代金が労働者の手元に届く前に奪い取られるなんてことはありえます。
が、大企業でも売上の5%程度の利益率を安定確保していれば万々歳というような世界なので、そう考えれば、少なくとも支払った代金の95%は、どこかで仕事をしている人の給料として支払われていることになります。
お金儲けが卑しいことだという価値観は、どうにも昔から日本人に付きまとっているようですが、実際には、貨幣経済下においてお金を受け取るということは、自分の仕事にそれだけの価値を認めてもらったのだということを意味します。
人間誰だって生活をしていかなければなりませんから、どうしたって、何らかの方法でお金を得なければいけません。
「社会に出る」ということは、ほとんど「お金を稼ぐ」ということと同義です。
「そんなことじゃお前、社会に出てからやっていけないぞ」というのは、「そんなことじゃお前、人からお金をもらえるだけの価値のある人間になれないぞ」というのとほぼイコールです。
例えば、遅刻。
頻繁に遅刻をする人間というのは、雇う側からしてみれば、お金を稼ぐうえで非常に大きなリスクになります。
取引先との会合で遅刻すれば信頼関係に一発で大きなヒビが入りますし、カツカツに詰められた仕事の予定だってガタガタに狂います。
雇う側からしてみれば、そういう人間は非常に使いにくく、その人間の市場価値はその分だけ低く評価されることになります。
『ツルモク独身寮』という、かなり昔の名作漫画があります。
その中で、デザイナーになりたいという夢を抱きながら実際には工場で働く主人公が、「このまま社会の歯車で人生を終えたくない」みたいなことを、工場で一緒に働く老年の温厚な労働者にぼやきます。
すると、普段温厚なその老年労働者が突然、静かに怒りだすのです。
「歯車には歯車のプライドがある」と。
プライドのある歯車をやっている人間がいることで、世の中に質の良い商品が出回ります。
世界は、誰かの仕事でできています。