こぼれ話-2 山谷、ドヤ街って知ってる?
皆さんは「ドヤ」と言われて、何を思い浮かべますか?
僕は「ドヤ顔」しか思い浮かびませんでした。
本編中でも書いているように、根無し草が宿を求めると、その値段というのは結構な負担額になってしまいます。
ネットカフェのナイトパックが1,500円~2,000円程度(局地的に激安1,000円のところもあり)
カプセルホテルが3,000円~5,000円程度。
ビジネスホテルが、実質6,000~10,000円程度。
そりゃあネットカフェ難民なんて言葉ができるよ……なんて思ってWikiでネットカフェ難民について調べていたら、2008年の某都知事の発言で「ネットカフェは1500円だが、山谷は200円、300円で泊まれる宿がいっぱいある」なんて記述が載っていてびっくりしました。
そのまま読み進めていくと、これはこの都知事の誤認だったようで、実際には「山谷地区には2008年現在、簡易宿泊所が約160件あるが、多くは1泊当たり2000円程度で、1000円以下の宿泊所もあるが、200円 - 300円程度の少額で宿泊できる施設は存在しない」とのことでした。
それにしても、です。
1泊1,000円以下~2,000円程度で宿泊できるまともな宿所があるだけでも驚きです。
山谷とは一体どんな夢のワンダーランドなのか。
「山谷」で検索してみると、どうも一緒になってついてくる言葉がありました。
それが「ドヤ」あるいは「ドヤ街」というもの。
「ドヤ」というのは、安い値段で宿泊できる簡易宿所のことで、宿という言葉を「人間が住むところではない」と自虐的に逆さまに読んだのが始まりなんだそうです。
派生して、主に日雇い労働者が寝泊まりする安い簡易宿所が立ち並んでいる地域を「ドヤ街」と呼ぶとのこと。
そして、関西のあいりん地区と、関東の山谷というのが、二大ドヤ街と呼ばれるということです。
ただもう、最近はそういう日雇い労働者の巣窟っていう感じじゃなくなっているそうで、田舎から上京した若者とか、外国人旅行者用の安い宿場になりつつあるようです。
YouTubeに、山谷についてイメージを掴みやすい番組動画があったのでペタリ。
若者・外国人が集まる東京・山谷 #03
https://www.youtube.com/watch?v=SWxomP_Fkas
3畳の個室に布団、テレビ、空調なんかがあって2,500円前後ってイメージですかね。
2,000円を下回るのは大人数の相部屋で、部屋に何台もある二段ベッドのうちの一段を借りるとか、そういうイメージのようです。
ついでに、日雇い労働者ってどんな感じなの?っていうのを、臨場感を持って把握できる名文を見つけたのでこれもペタリ。
日雇い労働者のつくりかた
http://www.factree.org/content/11/
……読んでいて、率直な感想が「怖い」でした。
自分がこの環境に追い込まれたとして、なお人生を楽しめるかと考えると、ちょっと自信がありません。
これと比べれば、コンビニとか飲食店とかの「普通のアルバイト」っていうのは、良い仕事だなぁと思ったりもします。
まあそっちはそっちで、いろいろとふざけんなと思うこととかありますけどね。
でも比較で言ったら、恵まれている仕事なんだろうなぁと、個人的には思います。
さてそんな感じで、宿というのは高いです。
個室を求めるなら、3畳のドヤでも1泊2,500円前後は見ておく必要がありそうです。
1月(30日)なら75,000円です。
でも、そんなお金が払えるんなら、3~5万円程度で賃貸住宅借りたほうが安上がりだろう思う人もいるんじゃないでしょうか。
ドヤとかネットカフェなんて、言うほど安くないじゃんと。
おそらく、それは事実だと思います。
ですが、ここでネックになってくるのが「頭金」と「保証人」だと思います。
一度本物の底まで落ちてしまうと、これらの確保が絶望的なんじゃないかと思うのです。
親の協力を仰げるなら、これらの問題は容易にクリアできるかもしれません。
でも完全に孤立し、貯金も底をついた状態からのスタートとなると、かなりの無理ゲー感が漂います。
無職転生の主人公のスタート地点みたいになったら……と思うと、そこから賃貸住宅を借りるところまで行くのは、至難の業であるように思えます。
一度本当の底にまでドロップアウトしてしまうと、再び真っ当な人間らしい生活に戻るのは、極めて困難であることが予想されるということです。
その危機感を、これから社会に出て行こうという高校生・大学生ぐらいの若者のほとんどが、多分持っていません。
僕がそうでした。
むしろただ漠然と、就職できなければ、あるいは夢を仕事にできなければ人生お終いだというような極端で非現実的な視野を持っていることの方が多い気がします。
正社員の1個下は人生お終いという視野の狭さが、ブラック企業に付け込まれ、いいように利用される最も大きな原因なのではないかと感じます。
本当は、正社員の下にだってグラデーションがあるし、正社員の中にだって(というか、そこにこそ恐ろしい度合いの)グラデーションがあると思います。
正社員の中には、絶対こんなのバイトやってたほうがいいじゃんって思うようなのがウヨウヨしている気がします。
そんなところなんでやめないで自殺しちゃうの、って言えば、もうそういう状況下に置かれた人は、メンタルが摩耗してまともな判断能力や視野の広さを失っているからだと思います。
健全な精神は健全な肉体に宿る──肉体が不健全になると、精神もやられます。
さて、リスクを受け入れるなら、企業に雇われる生き方ばかりでなく、自らビジネスを行なうという選択肢もあります。
例えば、絵が書けるなら、ダウンロードサイトで18禁CG集を売るなどして生計を立てることは、そこそこの腕の人でも不可能ではないように見えます。
今なんかだと、RPGツクールが弄れれば、もっと可能性は上がります。
これは自分で商売して金を稼いでいるんですから、立派なビジネスです。
小説で、というのは現状の市場ではちょっと難しい気がしますが、18禁を辞さなければ可能性は見えます。
書きたいものと、生きるためのものを別換算すれば、不可能ではないように見えます。
まあ机上理論でしかなく、実践したことはないので、眉唾な話ではありますが。
いずれにせよ、そういった選択肢もきちんと視野に入れて検討することで、自分にとって最もふさわしい生き方はどういったものなのかを、正しく選択できるようになるんだと思います。
失敗したらどうするのか、ということもきちんと検討しておくことで、むしろ本命に対してもやる気が出るように思います。
失敗した後の自分の姿を具体的に思い描ければ、そうじゃない自分になりたいという、強い前向きな力が湧いてきます。
湧いてこないんだったら……もうそれ、その失敗した後の生き方が、本能レベルで結構魅力的に映っちゃってるんじゃないでしょうか。
失敗したら後がない(=人生終了)と考える背水の陣は、一見有効なようですが、実際にそれでやる気や実力が出るかというと、怪しいところだと思います。
そして多くの夢追い人が、それをやっているせいで不幸になっている気がします。
話が逸れました。
一度真っ当な社会からドロップアウトしてしまうと、何が怖いかって、そこには落ちた人の再起を困難にする負のスパイラルが待っているということです。
無職転生の主人公が、最初に家から追い出された場面を思い浮かべてください。
あなただったら、どうしますか。
そこから、生きる道を見出せますか。
僕には、ちょっと難しいです。
高校生・大学生というような年齢の頃からは10年以上もの年を経て、様々なビジネス書なども読み、人生経験も積み、社会というものの実像が、昔と比べればものすごくよく見えるようになった気がします。
気がしますが、それでも難しいです。
一定程度の貯金──住居が借りられて、月払いのバイトの給料が入るぐらいまで耐えられるだけの金額があれば、余地はあると思います。
でも本当に身ひとつで放り出されたら、友人に泣きつくか、日払いのバイトを探すしか、ちょっと思いつきません。
しかも、これはネットカフェ難民に関するWikiの記述からの抜粋なんですが……
>住所不定の状態が長期にわたる場合、職権消除により住民票が抹消される可能性がある。この場合、新規の移転先が存在しないため、住民票の復活が認められず、浮浪者と同様の法的問題を抱える。たとえ職があり、所得があっても、新規に銀行口座の開設ができない。また、住民基本台帳への登録がないと印鑑登録もできず、実印を必要とする高額の契約(賃貸住宅の借入契約、自動車や住宅の購入など)は契約相手に拒否される。「賃貸住宅が借りられないから住民登録ができない」「住民登録がないから実印登録もできず、賃貸契約ができない」という悪循環に陥る。
……怖いんですけど。
ところで、ネットカフェ難民が社会問題になって、東京都では2008年にネットカフェ難民を支援する制度ができたそうです。
自立に向けて意欲的であると判断された者に対し、最大60万円の無利子貸し付けをするとか。
なかなか、自治体の取り組みもバカに出来たものじゃありません。
余談ですが、日本の法制度の基本原則は、「自分の権利に対して怠惰なものは救わない」なのだそうです。
法律や制度は、知って活用しないと、役に立ちません。
そんなお話でした。
無駄に思想の押しつけ的な感じでごめんなさい。