神の望み
「なるほど。
どうやら神権とは、かなり厄介なものの
ようですね。だが、美しい。」
風軌は火周の話を聞いてニヤリと微笑んだ。
なんだか風軌ならば神権をうまく
使いこなせるような気さえ起こせた。
風軌は何でもうまくやる。
学校でも、かなりうまいこと
生徒をまとめているとも聞く。
「………だけど、これを聞くと
本当に神になったようなものだ」
「そうよねぇ、ちょっと怖いわ」
「けどさけどさ~なんでも
思い通りってことでしょ~?よくない~?」
ふわふわした髪を左右に振りながら
木龍が呑気に口を開く。
火周も、最初はのぞみ通りに
なること自体はいい事だと思った。
だが、それが行き過ぎた。
本当になんでも、なんてものを
人間が手にしてしまえば
世界が終わりを迎えるだろう。
「まぁ、神権をなくす、
などということはできない。
誰かが神権を持たなければなりません。
この2回目の神判で。」
「その通りー」
空間が、歪んだ気がした。
5人は動くことさえできず、
目を見張ることしか許されはしない。
神判の場として使われている
この部屋は、5人が余裕で座れるほどの
大きな丸い机しかなく、その他の
物は存在しない。
その大きな空間が、この時
神の出現によって歪みを帯びた。
「来たか。」
「久しぶりだね、第一回目の神判以来
ってところかな。王様となった諸君、
こんばんわ。」
今にも消えてしまいそうな存在は、
丸いテーブルの上に立ってニコリと笑った。
神様、これが、5人に力を与えた存在。
「今日は、いい満月だね。ずっと眺めて
いたんだけれど本当にこの地球の月って
いうのは素晴らしい、美しい。」
月の存在を目の裏側に思い出しているのか
神はめをつぶりながらうっとりしていた。
「神よ、今回神権は誰に授ける
つもりですか。」
「風軌くん、はやまっちゃだめだよ。
君が神権を欲しているのはよく
分かってるからさ。
それにしても、火周くん、
君は案外臆病なのだね。」
言葉が気に入らなかったのか、
火周はギロリと神を睨む。
神は臆することなくただ笑った。
「君達、僕がなぜ君達に
この神の力を与えたのか、
まったくもって理解できてはいないね?」
5人は知らなかった。
なぜ自分達にこんな力が与えられたのか。
もちろん池袋で、リーダー格にあったのは
この五人だ。
北区を制圧する火周
東区を制圧する風軌
南区を制圧する土浦
西区を制圧する木龍
空を制圧する水連
みな、神の力が与えられる前から
池袋では一目置かれていた。
だが、この不思議な現象を
たった一ヶ月ではまだ
完全に理解できてはいなかった。
「君達は僕の分身ともいえる子達だ。
僕はね、新しい世界が見たいんだよ。
今のこの池袋は美しい、
美しいよ?
けれど、僕はもっと美しいものがみたい。
人間にもっとあらたな世界を
分け与えたいのさ。
だけど、それを僕がやったら
面白くないでしょ?
だからね、僕は考えたんだ。
人間が自ら新世界を作るべきなんだってね」
「それで、俺達に力を…?
俺達に新世界を作れというのか」
「理解がはやくて助かるよ、風軌くん」
「でも、でもどうやってやるの?
そんな、新たな世界を作るなんて」
「だからこその神権なのさ」
人間がけしてもってはならない
そんな力を含んだものが神権。
人間を超越した人間。
「そんな素晴らしい力を持った人間が
現れたらさ、人々は絶対に欲する。
人間世界に本物の神様が登場するんだ。
人々は神様を敬い、ひれ伏すだろう。
そうしたら、後は簡単さ。
必要な人間だけピックアップ、
そうして願うんだ。 神になった者が。
「新世界の登場」をね」
「この5人の中からその神を
選べってことなのか。」
「火周くんは、その点では失格。
君は恐れてしまった。その力に。
君が臆してしまったんだ。」
「俺は、新世界なんてもの望まねぇ。」
「人間らしい人間だね、君は。
不変を望むかい?」
「……というか、新世界なんてものを
望んでいるのは、神様、貴方だけだ」
「だよね~俺たちは別に今の生活
キライじゃないしさ~別にいいんだよね
新たな世界とかさ~」
「その通り。私達、そんなもの欲しくないし。
あと、この神の力も正直あってもなくても
変わらないわ。だって私達、元々ここの
王様だもの。」
「あぁ、これだから人間は、
面白いよね。 」
トンっと机を蹴ったと思ったら
神はそこにはもういないものとなっていた。
「君たちはきっと望むだろうね。
それが今じゃなくても。いつかきっと。
新世界を、さ。」
声が部屋に反響する。
5人を残して神は存在を完全に消した。
そして、神権は自然と風軌に
授けられていた。
*
「おつかれ」
真っ白な空間で、銀は
神が帰ってきたのを感じ取った。
「…?笑っているのか」
「ん?うん。やっぱり人間って
面白くてさ~愚かっていうか」
白、というより透明と例えた方が
よいほど、神の存在は透けて見える。
この真っ白な空間に溶け込んで
最後には見えなくなってしまうのではないか。
銀はそんなことを最近思う。
「僕も、人間になりたいな」
「神様がか?」
「だって、面白そう」
「一度体験すればいい。
きっと面倒になって逃げ出したくなる。」
「そういうものかな?」
「あぁ。本当に人間なんてものは
つまらない。俺は神になりたい。」
ふーん、変わってるね
神は銀に言った。
(お前の方だそれは)
反論は、けして声にはださずにおいた。
神様には無駄な抵抗だったかも、
しれないけれど。
「じゃあ僕、明日から
人間になりまーす」
「はぁ!?」
つぎの日、銀が目を覚ましたのは
真っ白な空間などではなく、
生活感のある部屋の一室だった。
ー続く。