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新世界  作者: 五月
1/4

2度目の満月

「今日も平和だなぁ」


学生が一人、マンションの屋上で

そう呟いた。彼は、この新世界の神である。


「今日も君達はどんなことを僕に教えてくれるんだろうなぁ」


にやついた顔を隠すことなく、神は

屋上からここ、東京という街を眺めた。

人が行き交うこの街で、神は最大の

過ちを犯す。


―――これは、その記録である。





「おいお前」

「な、なんですか」


池袋。

昔からガラの悪い連中が、

根城としている場所の一つだ。

毎日喧嘩がたえない。


そんな場所に不似合いな

小柄な少xw年が一人、異質なオーラを

出しながら、睨んでいた。


「ここらへんで、昨日誰かを

見なかったか」

「えっと、知らないですけど」

「そうか…悪かったな。もういい。」


小柄な少年は、ポケットに手を

つっこんでふぅとため息をつく。

池袋の青空が少年をほくそ笑んでいる

ようにも見えて、少年はそこらへんに

転がっていた缶を蹴飛ばす。


「くっそ、どこいったんだよボスのやつ」



ここ、池袋では、いくつかの

グループが街を支配している。

ガラの悪い連中が考えそうな

集団たちがそこらへんでまとまって

周囲のものからは「チンピラ」と

名前をつけられて呼ばれるそれだ。


だが、当の本人たちにとって、

自分の集団はけして「チンピラ」など

ではない。自分たちを守る盾のようなものだ。


池袋に住む一般人は、

「チンピラ」の正体を知らない。

だからこそ、彼らは「チンピラ」

などと呼ぶ。

本当は神にも近い存在だとも知らずに。




「あ!ボス!」

「ん、鴉か。」

「何のんきにしてんすか。

もう始まっちまいますよ!2回目の

神判が!いいんすか!?」

「ふぅ…」


ボス!と鴉が大声で叫ぶ。

マンションの廃墟のような所で

タバコをふかしていた男は

鴉の声が耳障りだというように

体を傾けた。


「今回は向こうにゆずる」

「はあ?!あんな連中に

神権とられたら俺らなんも

できねぇんすよ!?わかってます!?」

「もういいだろ、長い間神権は

俺らにあったんだ。

そろそろ向こうもいらついてくる頃だぜ」

「でも!」


鴉が身を乗り出した時、

奥のほうで「まぁまぁ」

と高い声が聞こえてきた。

ボスと呼ばれた男は寝転がりながら

声がする方に目だけ移動して

はぁ、とため息をついた。


「兎、なにしてる」

「僕が何してても君にはまったくもって

関係のないことだとおもうけど、一応

教えておくね。僕たちの王様を監視してました」

「……ずっといたのか」

「まぁ割とずっと?」

「兎さん、ほんとあんた悪趣味。」

「ありがとう」

「褒めてないんです。俺は。」


鴉が冷たい目を向けると

兎は困ったように笑った。

すべての色素が抜けてしまったような

真っ白な髪と、ひょろひょろした

身体はどこか弱々しい。

肌もそれなりに白いので病弱にも見えた。

だからこその兎という名前。


「王様、君は僕達に名前をくれた。だから、

君から神権を奪われるのは嫌なのさ。

君は僕達の神様なんだから。」

「神様、ね…」


ボスやら王様やら呼ばれた

その男は、今だ腰をあげようとはせず

タバコをふかしていた。

その様子をみて、兎と鴉は

そろってため息をこぼす。


(今日は満月か)


満月の夜。

神判は訪れる。

この池袋に。

一ヶ月前、神の力を受けた

青年達は池袋へ集まった。

そして誓いあった。

この力は、新世界のために使うと。



「一ヶ月前、神様は言いました。

神様は人間を救うことができない。

それならば、人間にこの力を与えて

しまおうと。そして、人間の住む、

この世界を守ってもらおうと。」


神様は、屋上で呟いた。


「人間って、本当に愚かな生き物だよ。

僕達みたいな神とは全然違う。

考え方も全然違う。

本当に面白い。

やっぱり力を与えて良かった。

僕もこれで楽をできるしね。」

「いいのか?これで本当に。」

「君は僕の味方でしょ?

だったら僕を信じてよ。

5人の王様が、きっと

新世界を作り出してくれるから。

僕は、人間を信じているから。」

「お前は、仕事を放棄しているのに

気がついているか?」

「うん、もっちろん。

でもね、ただ神様が与えた世界を

人間はただ受け入れる。

それのなにがおもしろいのかなぁ?」


神様が言った言葉に

男は歪んだ顔をする。

目の前の神様が恐ろしいのではない。

不思議なのだ。分からないのだ。


「俺は、一ヶ月前お前にであった。

それから、感謝している。

だが、お前は…」

「言わないでよ、もう。

僕には時間がないんだ。

はやく次の世界が見たいんだよ。

だから君は、僕の最後まで

見ていて欲しい。だからこそ、

あの時君を救ったんだよ。

わかるでしょ?銀。 」


なんでも見透かされているような

神の透明な目に吸い込まれそうで、

銀は目をそらした。


「あぁ、わかっている。」


身を低くしたまま、確かにそう答えた。





ー5月


「これより、神判を始める。」


堅苦しい声が、部屋中に響いた。


「4月の満月の夜は散々だったからな~

今月こそ、しっかり神判したいよね~」


おちゃらけた声も続いて響いた。


「私、お茶をもらえるかな。

ちゃんと葉っぱからね?わかってる?」


若い女の声も響いた。


「…………じゃあお茶をもらおうか。私も。」


深く沈む静かな声も響いた。



神判の場で、それぞれの ボスが

顔を揃えていた。

一ヶ月前、神の力を授かったものたちだ。


「火周が来ていないようだが。」

「あ、本当…」

「え~バックれたのかな~」

「……前の神権をとっておきながらですか」


四人のボスは顔を見合わせた。


「はぁ…俺が電話しよう。」


堅苦しい雰囲気をまとっていた

風軌が、携帯電話を取り出したながら

ため息を盛大についた。



風軌。

彼は東に住むボスである。

高校3年生のはずだが、

神の力を与えられる前から

その雰囲気、オーラは変わらない。

実際力を与えられる前から、

ボスをしていたことに変わりはない。

常に制服を身にまとうその姿は

生徒会長か風紀委員だ。



「で、どう?火周とは連絡ついた?」


唯一の女子である水連が

ヒールをカツカツ床に叩きつけながら

尋ねた。


風軌が今喋っていると、手で

合図を送る。


「それにしても困ったよね~

火周はやる気はないくせに

強いんだもん~」

「………そのダラダラした喋り方を今すぐやめないと、私は君の舌を引きちぎることになる。」

「え~無理だって~俺いつもこうだし~怖いこと言わないでよ土浦~」

「………木龍、黙ってくれないか。」


土浦は木龍を睨んで先ほど

運ばれてきたお茶に手をつけた。


南に住む土浦と西に住む木龍は

仲が悪い。出会い方が悪かった。

よく集団抗争が起きているほどだ。

池袋でも有名な話だ。


そんな二人のいつもいがみ合いの中、

風軌が携帯電話を閉じる。


「来るって?火周」

「今から来るそうです。」

「そ」


ヒールが床を叩く音がやむ。

水連もお茶を飲み始めた。



「まっず」





ー続く。


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