Ⅱ話
Ⅰ
青天井の真下。
ちょっと長めのクナイの表面に薄膜を付着させるような青白い稲妻をおおうものが僕の眼の前にスーっと、音も無く凄まじい速さで綺麗に飛んでくる。
「うぉおっ」
同時に身の危険を感じ取った僕はどう見たって笑われそうな傷だらけの格好を必死に動かし、内心焦りながらも、何とか避けた。
日中。草原と幾つものの樹の地形を上手く利用して相手の目を欺くことだけを考えて僕は必死になって逃げる。見た目、無様に逃げ回る姿を見せつけながら、一発でも当たれば即死しそうな物騒なものを避け続け、もうかれこれ二時間経つような気がした。
我ながら、常人を超えたたった一人の人間相手にここまで生き残れている自分に褒めてやりたい。
チラリと背後を振り返ってみる。
敵は確かに一人なのだ。しかも中三の女の子。
僕は少しうんざり気分で、
「ち、ちくしょう……なんだってこの僕がこんな奇想天外なデスマッチに命かけなきゃなんねぇーんだよう!」
――くそ。全然反撃ができないなら、全部避けてやる。
「…っ」
それでも、完全には避けきれず、クナイが通過した後、僕の肩へカスった。たぶん、二枚分の皮を切って血が噴き出したと思う。
それは別にいい。
それより、
「……い、息が……も、もたねぇ……」
学校の《修練場》の空気をありったけ吸い込んで――呼吸を落ち着かせる努力は、してみるものの小刻みにエイトビートのテンポで呼吸が荒いままである。
「こ、この…授業…ぜっ対…ば、ばかげてる……!」
コレはあくまでクラス内での授業なのだ――しかし体術の実践とは言え度、ここで死んだ者は数多く存在する。実際……僕の前に、この実戦練習を行った八人の人等が死んだ――否、死んだというのは大袈裟過ぎてしまうが、ひんし状態に追い込まれたというべきかもしれない。どちらにせよ、一歩間違えれば、死に至る。
ひんしの重傷を負う奇跡が起きただけでもとてもマシな方だ。その上、そういった技術ができる人たちはよっぽどすごいことだと思える。
走りつつ、不意に思い詰める。
――自分の命が生きてようが殺されようがこの世の中のためにはならない。
たとえ、この場で生命が途絶えようとも皮肉にも大事な事件にはならない。人の社会の秩序として――人が人を殺せば甚大な罪になる。治安維持としては殺した者に罰を与えなければならない。が、そんな生ぬるい法はこの世界には存在しない。
それが、この里のシステムだ。
あくまで自里の話だが、この栃木圏内の掟では人を殺したくらいじゃあ罪を犯したことにはならない。ある規定を除けば……の話だが。
なぜ。なら、修験道の血を引くたる者――弱者は里の邪魔者になるからだ。
ハテ?
いつから?
そんな教訓になったのか?
そんな昔のことなんて僕が知るわけがない。
なおかつ、この忍び世界は何かと、狂っているのだ。
里の利益にもならない者は生きる資格はないと言われたりやら、衣食住が認められないやら、いまの世の中いろいろと複雑なのだ。
説明をわかりやすくすると、保険証を持っていないか? 保険証を持っているか? という天秤にかけた話で――あなたなら、どっちが国のためになるかって訊かれているのと一緒のことだ。当然、税金を支払っている方が生きる価値がある。
だから。だから。
この街のオチこぼれを消すという掟に従ってこの世は――里の秩序は成り立っている。
里に守られる者――今の乱世に生きる者は実力と天才が何よりも全てだ。
その全てで《栃木の里》の勢力は構築されている。
生きることが欲しければ、戦う――戦って自分の故郷を護って里の利益となって初めて生きる権利を得られる。
修験者――いや、忍者にとってこのシビアな実戦習練は今後の里のためには、おそらく肝要なことだろう。
どんくさい僕はその中で今、死の淵に立たせられていた。
僕は息を吐き続ける。
「はぁはぁはぁはぁ………」
たじろぐになる僕は機敏な動きができず、身を護るように逃げ回ることしかできない防戦一方。まるで投げナイフでも投げられているような見事なお手付きで少女の手からシュル、シュル、シュル、と、普通の飛び道具が飛んでくれば―――ビリリ、と雷鳴とともに光線風の手裏剣が不規則なリズムで僕の真横を襲ってきたりする。
それを避ける――避ける――避ける――避ける。
そして絶叫し続けた。
「おわああああああああああ……! あぶねぇ。あぶねぇ。あぶねぇ。あぶねぇ。あぶねぇ。あぶねぇ。あぶねぇ。あぶねぇぇぇえええ。ちくしょう、災難だああああああああああああ!」
内心で心臓がバクバク言わせながら、たちまち破裂しそうな音に似たものを激しく高鳴らせ、全身が酸素を欲しがっているのが、よくわかる気がした。壮絶な鼓動の速さで残りもたない生命残量が減りつつ、命が削られていく錯覚がたまに起こる。だが、死にたくないこの状況下で恐れを抱きながらも、尚、自らの生命力を燃やし続ける。
僕は足で地面を蹴る。
僕は木陰へ飛びつくように隠れ、無理やり大きく空気を吐き捨てて気息を整える。
「………………」
不意に息詰まる空気になり、尋常じゃあない脂汗を垂れ流し、しばし、この空間での静止する億劫を感じた。
同時に胸中でひやりと冷たい感覚が奔る、この感覚はなんだろうと思った――しかしその答えが不意に浮かび上がる――敵の気配が感じられないのだ――いつ次の攻撃が来るかもわからない心配ごとである。
息が詰まる――緊張だ。
精神的または感情的な緊張または不安の状態になる。
「………………………………………………………………、」
いつの間にかひしひしと空気までが張り詰め、未だに僕の全身の震えが止まらない。
だが、僕は言わずにはいられなかった。「死ぬ…死ぬ…真面目に死ぬぞ…これは」不幸顔に満ちた面構えでひくひくと口角を吊り上がった笑いで、「つばめの奴め…僕を本気で殺そうとしているじゃあないか…冗談じゃあない」緊張して息をこらすとき――口中にたまるつばを呑みこんで、「僕が、人と争いとか、人をキズつけること…好まないこと知っている癖に。知っててやっている…ぞ…あの野郎……」そいつの存在は足の筋肉に大きな緊張を与える。
過敏な神経でがちがちに固められながら僕は当惑顔になる。
つなぎの胸ポッケからスマフォを取り出して時間を確かめる。
――タイムアップまで後…三分か……。
この授業は二人組で殺し合う。
ルールは簡単だ。
どっちかが、死ぬか。
どっちかが、気絶するか。
互いにドローになるか。
戦闘中でタイムアップになるか。
内容はそれぞれである。
「くそ…あいつは忍術使えるけど、僕、忍術は一個もできないどころか…忍者としての才能もなければ、昔から体弱い方だし……少しは斟酌くらいしろってえの!」
顔色悪いのか? 青ざめ気味なのか? よくわからない瀬戸際のなか僕はそうウダウダ愚痴をこぼす。
ていうかさぁ、こうやって……何も意味も持たない言葉を吐いたり、言い訳していると負け犬の遠吠えになるような。そうやっていられるのは今のうちだろうってな。ここに隠れているつもりだが、敵であるつばめはきっと、僕がここにいる、と御見通しに決まっている。
つか……ずっと、狙われて(ターゲットに)いる(されている)のは僕なんだから、ここでぐだぐだ隠れても、ただ、単にここにいるだけであって気配も霊気もろくに隠しきれていない僕はここに居ますよって誘っているのと同じだよな――馬鹿だよな――自分――この学園内で優秀な生徒であるつばめは僕の居る地点を絶対に把握、仕切っているに違いないのだ。
そう思うと心底――本当に勝ち目のない一対一だよな。って鬼気迫るものがあった。
自分の雑魚ぶりに――慈悲心にすがりそうである。
「はぁ…」
嫌な思いが頭によぎったせいで短く溜息をつく。
「………はぁ」
また同じような嘆息もらした。
僕は茶色の地毛を掻き上げ、赤い瞳をぎゅっと、まぶたで閉じた。
こんな自分でいいのか。と、泣きべそをかく。
次の瞬間――僕の耳に嫌な女の声がした、
「こんな、泥仕合みたいな殺し合いで生き延びてうれしい? これでも手加減はしてるんだからね。それなのに一度もボクに襲撃してこないなんてとんだ、温厚で臆病な少年ね。まぁ、人の顔を窺って生きてきた――この社会を怖がるきみはいずれ、この世から淘汰されるんじゃない――この、自分がきれいなままでいたい甘えた弱者め!」
女の子の、可愛らしい素朴な疑問と揶揄する声が空気を貫いた――というか響き渡る。
「…そう…だよ…………………」
ここは怨嗟の声を上げたいところだが――僕は冷たい余韻に浸って哀しむ権利もなくただ、図星のように受け取るしかなかった。
僕は唯唯に暗黙に浸って、
「別にいいじゃあんか、僕はちょっとの血を見るだけでビビってしまう。そう言う男なんだよ。そんな奴が、自分の命を必死に護って――がんばって――ここにいるんだから、少しは褒めてくれったっていいじゃないか?」
ぶつぶつ言いながら表情を暗転する。
でも。
これはきっと自己満足でしかない。言い訳に過ぎない。傍から観たら弱音ってもんだ。
――そのくらいわかっているんだ、僕はどうしてこんなに『弱いんだ』よ!
雑念がこもる『弱いんだ』の部分に強いアクセントを置いた。一緒にノーモーションでグーの拳を地面へ叩き込む。
「!」
唐突に僕はなにかに気づいた。
「……………ぁ?」
戸を開けたような風が吹いた。風向きが変わった。
そして――吹かなくなる。
スっと、さっきまでの勢いがあった霊気を消して、つばめは隠形して息をしずめた。
それは足音もなければ、忍具や忍術が飛んでこない。
恐怖を覚える僕は怪しげな空間の中で不気味すぎるほど無音に聞くことになった。
妙に迫ってくる緊迫感に心を押し潰されそうな僕は警戒心を抱き、顔をしかめる。と、
「そーだよ。僕は傷つけられたり、傷つけることが嫌でしょうがない。みんなは才能があるから、何もかもできたり、何もかも信じられるんだ。だけど、今の僕には自分しか信じられる人がいないんだよ――僕はいつになったら……誰かを信じられるんだろうな!」
そして、僕は口から、栓が抜けるように内なる感情という煩悩を大きく吐き出し、緋色の双眸を鋭く怪しく光らせた。同時に自らの右手を背中へ閃かせる。
僕は立ち上がる、
「うるあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
無心に多大な霊気を放出させ、やけっぱちに怒鳴る勢いに似た気違いじみる咆哮を上げる。僕はそのまま当てずっぽうに草原を突っ走った。
冷や汗をかきながらも、自分の体が嫌になるほど生きている実感が無性に湧き溢れ出す。
しかも。いつ殺されてもおかしくない状況下で――逆手に持つ忍刀の手にはじっとり汗まみれだ。
「くそおおおおおお。どこだ。どこにいる?」
僕は感覚を凝らし、周囲を見渡す。
けど。どこにもいない。いない。見つからない。
それは当然だ。趣意を凝らし辺りを捜索するが、敵の姿が見当たらないのである。
見当たらなければ――違和感が残る。
違和感が残れば――周囲の万物の気が感じられなくなる。
そうなれば、話は簡単だ。
――この不吉さ。幻術ってことか。
幻術をかけられたら、解除術を習得していない僕にとって、もはや万事休すってものだ。
どうしよう――勝てない。
こうなってしまったら勝ち目など、ない。
希望がなくなった。
九十九パーが絶望だったら、残りの一パーが勝てる見込みの奇跡の確率だったのだが、今をもって消え去った気がする。
たしかに――
実力の差ではつばめの方が上なのは、はなっからわかりきっていることで、この戦闘には不公平極まるものである。
だがしかし、僕にはひとつだけ得意なことがある。
「!」
ピンッ、と頭がキレた僕はベルトのように腰に巻いている忍具ケースから握り(パーム)鉄砲を取りだし「そこだああああああああああ!」と、声を張り詰めて。後の一瞬の遅れで引き金を三連続で引いた。同時に霊気が混じった空薬莢を後方に飛ばす。
「え!」
しおらしい驚き顔を浮かべる方へその霊力を帯びた弾はその身を貫通させた。
だが、透明人間のようにその弾は体をすり抜けた。
途端にその体から電撃が迸りその場で爆発する。「身代わり?」と、そう思ったら、僕は、全身にドライアイスでもぶちこまれたような悪寒を覚えた。
ぞくんっと背中をなでらるような気色悪いものを僕は感じながら、
「……ぅ、後ろッ?」
「うふふ。じゃあないよ!」
透かさず、不図に死角から入り込むつばめと、鎬を削ることになる。
僕は背中から忍び刀を抜打ちに斬りかかり、つばめの頭を吹っ飛ばした。しかしその代償につばめらしき者は僕の肩を抉った。
「っぐぉお!」
僕は悲鳴を上げる。
突然だったため顔を拝むことができなかったが、僕の戦いを観察していたもう一体のつばめらしき像が首から噴水のように血を吹き出した。
「………、」
辛うじて視えた顔なしに僕は思わず、強張る面構えになるが、その残像はザザザっとラグになって――たちまち、すぐに空気に溶け込むように消滅する。
と、そう思ったときだ。唐突に空気と一緒に収斂して「――マジか……!」その場の空気が一気に弛緩したかのように爆発した。
「ぐぉっ…!」
とはいえ、僕は噴き上がる煙からどうにか身を投げ出して脱出した。
――いやはや。あっぶねぇ! 雷分身と幻術の組み合わせかよ?
内心ひやっとして――一歩間違っていたら死んでいたかもしれないと、普通に思いたくないことを思ってしまった。
だが、多少受けたダメージが、なぜか痛みを感じられなかった。
やはり、あの爆発も幻術。
ていうことは、僕は術中に今まさにハマっていることになる。
「幻術も一応、直感できるけど、カラダが先にくたばっちまう……」
直感術。
生まれてからずっと当たり前のように染みついているその能力はあらゆる気運を察知することができる――なかでも、『地の利』・『人の和』・『天の時』をいちはやく察することもできる代物。この術はまた『殺気術』ともいい、人が発する殺気や霊気を敏感に感じ取り、敵の気配をいち早く探ることをもできる。そして、忍術において最も重要とされる術のひとつである。それのパラメーターが誰よりも優れている僕はその生まれながらの才を持ち敵の気配をどんな距離だろうと完全に読みとることできる――のだが、僕にとってこの能力は目障りでしかたがないのである。要するにあれだ! これのせいで他が劣っているみたいだって思ってしまうのだ。
まるでヘタレのために与えられた別の意味の天才になれる代物。
言い方を変えてしまえば、逃走の王様ってところか?
(いい笑いものだよ! ホント! コレ!)
鼻息を荒くして、油断していると僕の肌がピリ、と電気が走った。瞬間、音もなく接近してくるつばめはどこからか、幻影のように現れる、
「あまいよ。雨! 後ろがガラ空きじゃあない?」
「うわっ!」
突然後ろから気配を感知した僕は慌てて体ごとバックステップすると同時に腰を捻り返す。その勢いで遠心力つきの刀身をブンっと後方へ振り回と、つばめのクナイと僕の忍刀が交差する。
がきん! と、空気中に金属音が鳴り響いた。
「へぇー。感だけは鋭いのは知ってたけど? やるじゃない――ボクの弟ちゃん!」
僕を軽く甚振って平気な顔をしている女の子――女子高校生が目で見てすぐ前にいる。その顔は生々しい目をして、生き生きと落居してかかるようにも見える。冬服の白無地オーバーブラウスの襟が、開襟にしては幅が 広く、小振りのボレロの上着。ネクタイとジャンパースカートはロイヤルブルーというお嬢様格好の女子高校生だ。さらに彼女の細長い脚に包まれる黒のストッキング。
彼女の名前は秋條つばめ。秋條の長女。正確に述べると――僕らは双子である。そして僕は彼女の弟だ。
「あまいよ、雨」
ニコっとした表情にはエグさ混じりだった。
「てやあっ!」
鋭く、しかし硬い声を出したつばめは軽く僕の忍刀を跳ね返した。
「…し…まっ――」
宙に跳んでしまった忍刀につい僕の視線が奪われてしまう。
つばめはクナイを口にくわえると、たちまち身構えた、
「だから、あますぎって言ってるでしょ―――っ!」
「……ッ!」
思わず、腰が抜けそうになる僕の腹へつばめは最初に軽くボディーブローを入れた。
隙あれば、隙だらけの隙を容赦なく多数の体術を僕の体へ叩き込み足元を蹴り、ふわりと呆気なく僕のバランスを崩していく。と、そのまま僕の身体が地面へ投げ出される。そのクナイは見境なく音速のスピード、とまでは言わないが、僕の首を飛ばす勢いでその剣線は僕の顎下へ迫る。
僕は身動きが取れず、
「やばっ」
結局こうなるのか、と最後に恐る恐る言い募ると、救いを差し伸べるように終了を告げるチャイムと審判の先生の掛け声がやっとのように響き始めた。
すると。
ひどい肉体的緊張、または苦悩に苦しむさまから一気に解放され、
――た、たすかったぁ……?
僕は胸をなでおろした。
数秒間。お互いに対峙。それから対立していた両者間の緊張が緩むと、
「っち! うじうじする弟を殺せないなんてボクはなんて甘いの……。秋條の次期当主をこいつから奪い取ることできないだなんて。負けて恥を掻いたわ……」
つばめは舌打ちする。彼女のベージュとアッシュに染まるミディアムヘアースタイルの前髪の下から垣間見る内心たる忸怩な思いを浮かべる素顔が、嫌になるほど僕の胸中を掻きむしる。
眼の前にふわふわと柔らかなウェーブがみやびやかな舞で踊る。そのヘアースタイルは世の中の流行ファッションではクールで大人可愛いオシャレミディというのだろう。
このオシャレも好きで真面目で愛らしい人柄の持ち主――人を見下すような態度をするこの少女、いや、姉がこのように嫉妬深く振舞うのは理由がある。
家が代々受け継がれる忍びの家系なのだが。その秋篠家現当主だった親父――《秋條紫雨》が二人の子に恵まれてすぐのことだ。貧弱弱者である僕に次期当主に任命したらしい。そう決めたのも理由は簡単で――どうやら、この《栃木の里》での決まり事というか掟で――嫡男がその座に座るしきたりらしいのだ。
もし家督する嫡子が女しかいないのなら、話は別になるが――一族を継ぐのは単なる僕が男だからであって根拠は他にないらしい。
何というかこの時代に生まれて不幸に思える。
まぁ……、どっかの国の法をまるパクリしているような気がしてならないのだが――なんといか、どっかの国の一人っ子政策みたいなものだよ。ホント。コレ。
――本音を言うと僕はこんな重たいものいらない…いらないのに。
この殺し合いだってそうだ。
姉弟喧嘩を通り越した――家督争いなのだ。
ましてや昔からつばめの威圧は他とは違う。
努力家で才能ある姉がまるでダメな弟を嫌うのは無理もない。
だから、いつもいつも僕自身も結構大迷惑だと思う。
忍びとしてやる気のない僕を酷く妬み、酷く気にくわない、そう言った感情がびんびんと伝わってくる――姉が普通に黙っていてもいつも忌々しき霊力の威圧――霊圧で伝わってくる。
むかし。それに察した親父が姉に家の家紋が欲しければ、弟を殺せなどと告げたおかげでいつからか? つばめと会う度にそれが強まっている気がする。
――くそぉ。あの親父め。勝手に戦死してまでも遺言まで残して。僕を苦しめやがって。
それを姉はまるまる鵜呑みして僕から次期当主を剥奪しようと試みている。
こんな、価値がわからないものに振り回されるのならいっそラクしたいが本音だ。
さっさと姉にくれてやりたい。今の地位から脱落してやりたい。
ところだが、死にたくない気持ちもあるのでできないのだ。




