再会
この作品を読んで好きな人とは何か、一途とは何かと考えてほしい。
『この砂時計を持っていて、今は、離ればなれになるけど、必ず、必ずその砂が落ちる頃には、また会えるから…』
ー彼女は、僕に手のひらに収まる小さな砂時計と切なげに言った別れの言葉を残して、旅立った。あれから、いくら砂時計をひっくり返しても彼女が戻ることはなかった。あの約束から五年後、僕は高校二年生になった。
高校二年の五月の春、僕はいつもの通学路をたんたんと歩いていた。そして、いつものように春、夏、秋、冬関係なくバカデカイ声が僕の名を呼ぶ。
「るいぃぃぃー、おっはよーーー‼!」
「うるせぇよ、美紗。」
僕は、美沙とは真逆のテンションで反応する。
高橋美沙、僕と保育園からずっと一緒で幼馴染というか、腐れ縁というか…まぁ、そういったところだ。正直、美沙には世話になってる。両親とも毎日のように、家を空けてるからたまに夕食を作ってくれる。感謝してもしきれないくらいだ。
「あっ、そうだ類に渡すものが…」
そう言いながら、美沙は自分の鞄をあさり何かを取り出した。
「はい、これ!」
ーなんだコレ?
美沙の右手には、ピンク色のかわいらしい封筒がある。
「これ、二組の水谷さんから!」
「いや、なにコレ…?」
「は?る、類みてわからないの?」
「だから、それなんだよ」
「はぁ〜、類って本当にそういうのに鈍感なんだねぇ〜」
美沙が軽くため息をつく。
「ラブレターでしょ!どうみてもっ!」
ー…ラ、ラブレター?
「えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、ぼ、僕に⁉」
驚きのあまり、声が裏返った僕は、頭の中が真っ白になった。
「それでー、どうすんの?」
「………」
僕は、美沙の言葉で、混乱してた頭が一気に冷めた。
「ほ、ほら、水谷さんって、容姿もすごくいいし、性格もいいからさ…そ、そのつきあっ…」
「ごめんなさい って水谷さんには、美沙の方から言っといて」
僕は、美沙が最後に言おうとした言葉を遮るように、美沙に冷たく言った。
「引きずってるの?」
美沙は、僕の言葉に対抗するかのように、冷たく…いや、真剣に聞いてきた。まるで、敵を目の前にしているかのような、真剣な目で…
「引きずってるとか、じゃなくて、アイツと約束したから」
僕は、下をみている…
「約束って、小学六年生の時じゃん!あれから、もう、五年も…」
「関係ない‼!」
少し、大きな声を出した後、美沙の方を見ると、美沙は悲しそうな顔で僕を見ていた。それに、耐えきれず僕は、早歩きで学校に向かった。
教室。早歩きで来たせいか、いつもより早くついた僕は、美沙の件もあり、あまり良い気ではない。朝から、精神的に疲れた僕は、少しでも、気を休めようと、机で眠ろうとする。だが、空気を読めない僕の疲労となる原因が、美沙以上のハイテンションで、近づいてきた。
ーもう、帰りたい…
「るぅぅぅいぃぃぃぃぃ」
ーもう、帰りたい…
「健、もう、帰れよ…」
伏せていた顔をあげ、健に言ってやった。
「いや、まだ、朝ですけど」
「それで、何の用だよ」
「よくぞ、聞いてくれた、類君!」
ー聞かなきゃよかった…
「なんとですな、本日、私たちのクラスに転入生が来るんですよ!」
ー健、それは、どんなキャラだ
「なんで、お前が知ってんだぁ?」
さすがにスルーするのは、可哀想なので聞いてみると、奴はなんのためらいもなく、
「あー、奈々子先生の鞄あさった!」
ーそれは、犯罪というのだよ、HANZAIとね…
「で?それで、お前にとって、それがなんなの?」
僕が、そう言うと、健は大きくため息をつく。
「類よ、」
健がぽんと手を僕の肩におく。
「決まってるだろぉぉぉぉぉ‼‼高二の春!転入生!オレ!この三大原則がそろったということは、ハーレムラブコメのフラグがたったじゃないかぁぁぁ‼」
だれか、こいつの思考回路を解読できるやつ連れてこい!というか、こいつは、どんだけベタな人生歩むつもりだ。
「お前のその言動で、お前はモブキャラだ!」
その言葉によっぽどショックをうけたのか、健は、膝から崩れおちた。
「ほら、もう、HRが始まるさっさと席に着けよ」
「は〜い…」
と言って肩を落としながら、健は、自分の席に着いた。
ー転入生ねぇ…
先週、隣のクラスに転入生が来た。漫画やドラマなどのベタな展開を期待して、転入生を見に行った。だが、違った。期待が大きかったせいか、悲しかった。漫画みたいに、ドラマみたいに、彼女が現れることがなかった。
ー転入生のことなんて、関係ねぇ…
そう思い、ブレザーの内ポケットからあの砂時計をだした。僕は、また砂時計をひっくり返す。
「はーい、HR始めるわよー!とその前に、転入生に自己紹介してもらうわ!入ってー!」
ー3253…3254…
僕は、奈々子先生の言葉を聞き流し、砂時計をひっくり返す。
ガラガラガラ、扉が開く音と同時に、健を中心とした男子達の声が嫌でも耳にはいる。
「じゃぁ、軽く自己紹介お願いね!」
「あ、はい…」
ー3255…
「ひ、日比野…」
砂は、3256回目の3分の2程度まで落ちている。
「日比野秋です。」
ー3256!
ちょうど3256回目の砂が落ちた。すべて、落ちた。
僕は、朝のラブレターの時より何倍も頭が真っ白になった。追いつかない。彼女が僕の前にいるという現実に追いつけない。
高校二年の五月の春、3256回目の砂が落ちた時、僕らは再び出会った。
この作品を読んで、いろいろな感想を持ったと思います。皆さんの周りにはいますでしょうか?本当に好きでもない人と付き合う人が。私の周りでは、そんな人が多いです。この作品を読み、本当に好きな人ことについて少しでも、考えてもらえると嬉しいです。