「ことの始まりは」 1
僕は後悔していた。この部屋の扉を開けたことに。
あの時断っていれば、あの時教頭に見つかったりしなければ、
きっとこんなことにはならなかったのかもしれない。
「・・・あれ? もしかして新任の先生?」
僕が開けた部屋に居たのは、一人の生徒と。
「いやーすみません、まさか暴発するとは思わなくて・・・。」
映画で見るような、天井まで届きそうなほど巨大な実験装置だった。
僕の後悔の元は今から二時間前に遡る。
僕がこの学園に新任教師として赴任してから一週間になったこの日、僕は教頭先生にこんな話を持ちかけられていた。
「君、部活の顧問をやってみる気はないかね?」
「はい?」
突然の一言。思わず聞き返してしまうほどに唐突で、手にしていた教科書を落としそうになってしまうくらいであった。
「だから、部活の顧問だよ。さっき、生徒の一人が新しい部活の創設申請に来たところでね、顧問の先生を探しているらしいんだよ。」
「それで・・・僕ですか?」
「そうだよ。大学出たての君なら生徒たちの新しい部活にも柔軟に対応できるだろうと思ったからね。」
と、教頭先生は言ったが、本音は面倒なんだろうな。そう僕は思った。
僕自身、大学時代に新しいサークルを作って活動していたんだが、最初の一年間はうまくサークルが纏まらなくて大変だった。それが高校の部活となれば、基本的に面倒事は顧問任せになる。教頭先生はそう判断したのだろう。
「・・・それで、どんな部活なんです?」
拒否なんてできるわけもない僕は諦めて教頭の話を聞くことにした。
「一応文化系に入ると思うがね・・・。」
なんとも歯切れの悪い答えだ。しかし、「一応」と「思う」のダブルコンボで「よくわからない部活」なのは確定した。それにしても、体育会系の高校にしては珍しい文化系の部活か・・・。
「名前を『御宅部』というそうだ・・・。」
・・・文化系どころの話じゃないな。
それから、教頭先生からの簡単な説明を受けた僕は若干嫌な予感を抱えながら、校舎三階にある第二会議室にやってきた。
「ほんとにこんなとこにあったんだな。」
辿り着いた会議室の扉には、『御宅部』と大きく書かれていた。まさしくここが新しくできた部活の場所なのだろう。
最初の言葉は「こんにちは」だろうか……。なんて、他愛もないことを考えながら。
しかし、扉を開けた僕が遭遇したのは非現実的な空間と二時間前の自分に対する後悔であった。
そして現在...。
「なんだこれ……。」
「これは波動砲ですよ。」
巨大な装置に茫然とする僕に先程の生徒は自信満々に言った。いや、波動砲って言われても……。
「そんなことを聞いてる訳じゃないよ。大体こんなのどうやって部屋に入れたのさ。」
明らかに部屋の入り口よりも高さも幅も越えている。重さもかなりのものじゃないのか?
「そんなの簡単ですよ。ここで組み立てたんです。」
またも生徒はそう語る。
「あ、そうだ。自己紹介してませんでしたよね。私は1年B組の湍水鹿波と言います。よろしくお願いします。」
なんか丁寧に挨拶された……。というか、何この子。一年って言ったよな?
「よ、よろしく湍水さん。じゃあさ、少し聞きたいんだけど、ここは御宅部で間違いない?」
一応聞いてみる。もしかしたら、ここは御宅部なんかじゃなくて、もっと別のグループなのかもしれないという微かな希望を持って。
「はい、ここが御宅部です。」
そんな希望は約二秒後に粉々に砕け散った……。