第51話 ホームカミングに向けて
放課後、Sクラスの教室に残った生徒たちが輪になっていた。
ホームカミングに向けた準備が始まった。素材の選定と役割分担の話し合いだった。
モローが教壇の前に立って、にこやかに言った。
「みなさん優秀だから、きっと大丈夫。
では素材の確認から始めようか。持参できる素材を教えてね。」
生徒たちが次々と答えた。火属性の魔導石、風属性の結晶、安定化素材——それぞれが家庭の伝手で用意できる素材を挙げていった。モローはにこにこしながら端末に記録していった。
葵は黙っていた。持参できる素材が思いつかなかった。
「では役割分担だね。魔力の流れを制御する担当、素材を積み上げる担当、魔力を供給する担当——」
モローが名前を割り振っていった。一人、また一人。
葵の名前は出てこなかった。
ルシアンが静かに口を開いた。
「こいつはどうする」
モローが顔を上げた。葵を一瞬見た。
「小春くんは……当日、サポートをお願いしようかな」
それだけだった。サポートが何を意味するのか、説明はなかった。
ルシアンはそれ以上何も言わなかった。ただ、前を向いた。
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話し合いが終わると、実際に1層だけ試作してみることになった。
葵も輪に近づいた。何か手伝えることがあるかもしれない。
「小春くんは今日は見ていて」
モローが穏やかに言った。
葵は止まった。
「……はい」
輪の外に立った。
Sクラスの生徒たちが動き始めた。素材を置く。魔力を流す。層を成形する。一人一人の動きは洗練されていた。手際が良く、精度が高かった。
葵は輪の外から、それを見ていた。
モローは端末を見ながら「いいねー」と言っていた。
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練習が終わった後、葵はモローの元に向かった。
職員室の前でモローを捕まえた。
「先生、少しよろしいですか」
「はい、何かな」
「授業についていけていなくて……あとホームカミングの日、自分がどうすればいいのかも、わからなくて」
モローは穏やかな顔のまま、少し首を傾けた。
「うーん、精一杯考えた? そうじゃないなら、まず自分で考えてみて」
「……考えようとしているんですが、何を考えればいいのかが」
「うん、まず自分で考えてみることが大事だからね」
それだけだった。モローは「じゃあ」と言って職員室に入っていった。
葵はしばらくその場に立っていた。
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廊下は静かだった。
「葵、大丈夫?」とライラが言った。
「……うん」
「嘘をついてる」
「……少しだけ、大丈夫じゃないかも」
「うん、知ってた」
——精一杯考えたの?
その言葉が頭の中で繰り返された。
考えた。考えていないわけじゃない。ただ——何をどう考えればいいのかが、わからなかった。
葵は歩きながら、ホームカミングのことを考えた。
勉強は追いつかない。役割も与えられていない。でも——当日、何もしないわけにはいかない。
自分にできることを、精一杯やろう。それだけだった。




