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第46話 主天使の決意

「いい? 小春葵。

部活が終わったら生徒会室に来なさい、打ち上げに行くわよ」


蒼玲がそう言った。


白羽が穏やかに続けた。

「葵、今日は初めてのダンジョン探索で疲れただろう。

部活は休んでもいいぞ」


「……じゃあ、少しだけ遅れていきます」


「無理はするなよ」

白羽が葵の頭を優しく撫でた。


ーーーーーーーーーーーーーー


戦闘服から制服に着替えたあと、葵は誰もいない更衣室で、神魔解析録をそっと起動した。


画面が淡く光り、神魔のデータが流れていく。

そして——そこに、あった。


ルシファー 解析率 1%

その文字が浮かび上がった瞬間、葵の息が止まった。


……やはり、あの男は……ルシファーだったのか


頭の中で、玉座の間に響いた低く甘い声が蘇る。金色の髪。堕ちた輝きを宿した瞳。掌に残った黒く艶やかな羽根の感触。すべてが、ただの幻などではなかった。


衝撃が、遅れて全身を駆け巡った。


もっと深く、もっと根源的な——自分の存在そのものを揺るがす、何かだった。


葵は端末を胸に押し当て、目を閉じた。


「……どうして、僕……?」


小さな呟きが、静かな部屋に溶けていった。


ーーーーーーーーーーーーーー


部活に行く前に、葵は学園の礼拝堂を訪れた。


学園長は、いつかのように前列の椅子に一人で座っていた。


「今日はどうした」


葵は深く息を吸い、ゆっくりと歩み寄った。


ダンジョンで出会った金髪の男——ルシファー——から受けた誘いのことを、途切れながらも話した。自分でも説明できない力のこと。「神が定めし運命の証」と呼ばれたこと。「創造主を打ち倒し、真の自由を手に入れよ」という言葉のこと。


学園長は静かに聞き終えると、深みのある目で葵を見つめた。


「よく話してくれたな」


低く、響くような声だった。


「その力を知りたいと思う気持ちを、私は否定しない。お前が戸惑うのも無理はない」


学園長はそこで表情を引き締め、続けた。


「ただ——気をつけよ。純粋な『知りたい』という気持ちを、相手が利用しようとしている可能性がある。ルシファーはお前の力を『神が定めし運命の証』と呼び、『創造主を打ち倒せ』と誘っている。

これは古来より繰り返されてきた策略だ。自由を与えると言いながら、深い闇の鎖に変えようとしている」


一拍置いて、学園長は静かに言った。


「三つだけ、忠告しておく。急ぐな。信頼できる者に相談し続けよ。そして——その誘いが本当にお前のためになるものか、自分の心の声に耳を澄ませよ」


学園長は葵をまっすぐに見据えた。


「何か進展があれば、またここに来なさい」


「……ありがとうございます。

その時はまた相談させてください」


ーーーーーーーーーーーーーー


礼拝堂を出ると、茜が壁にもたれるようにして立っていた。


「葵……!」


茜はすぐに駆け寄ってきて、葵の腕をそっと掴んだ。


指先が冷たく、少し震えていた。目がうるんでいて、声も小さく掠れている。


「危ないことばかりしてると思ったら……

今度は神様を倒すだなんて……ダメよ、絶対にダメ……」


茜は息を乱しながら、葵の目をまっすぐに見つめた。


彼女の瞳には、ただの心配を超えた、必死の色が浮かんでいた。


「葵の力は、きっと神様がくれた大切な力なんだから……

神様に逆らうなんて、絶対にダメ……

そんなことしたら、天罰が下るかもしれない……」


茜の指に力がこもる。


彼女は一度深く息を吸い、声を震わせながら続けた。


「……私、葵には危険な目に遭ってほしくないの。

本当に……心配で心配で、夜もちゃんと眠れなくて……」


その言葉の後、茜は唇を強く結んだ。


まるで自分を奮い立たせるように、胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。


淡い金色の光が、彼女の体からゆっくりと滲み出し始めた。


「どうしてもルシファーのところに行くなら……私も連れてって。足手まといにはならないから……」


そう言い切った瞬間、光の粒子が一気に渦を巻いた。


――天使が降臨した。


茜の周囲の空気が神聖な響きを帯び、純白の大きな二枚の翼が広がっていく。

銀色の軽やかな装甲に包まれた、しなやかで優美な体躯。

兜のような面で顔を覆いながらも、流れるような曲線を描くシルエットからは、気高くも柔らかな女性の気品が溢れていた。

冷たい青い輝きを放つ瞳は、まるで深く澄んだ湖の底のように静かで、しかしどこか慈愛を秘めている。

手には優雅に装飾された長い聖なる杖を持ち、全身から厳かでありながら温かな威光が、柔らかな光のヴェールのように溢れ出ていた。

それは優しい守護天使というより、天界の秩序を司る高貴な統治者——

近寄りがたい気高さと、洗練された女性らしい優雅さを併せ持った存在だった。


葵は思わず息を呑み、一歩後ずさった。


「……葵のことを、毎日お祈りしてたら……

天使様が、来てくれたの。

だから、葵を守ってあげる。」


その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。

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