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第43話 偽りの権天使

エリサベットと並んで歩きながら、葵はふと疑問を口にした。


「エリサ先輩、ここの階層ってさっきの天使みたいな敵ばかりですか?」


「ええ、そうよ。20階層まで天使、天女、女神が出るわ」


「女神も出るんですか……なんだか戦いにくいです」


エリサベットは小さく肩をすくめた。


「さっき言った通り、ここに出るのはルシファーの作った偽物よ。むしろそのままにしておく方が失礼だわ」


「確かに……それもそうですね」


葵は少し考えた後、立ち止まった。


「ちょっと試したいことがあるので、待っててもらえますか?」


「いいわよ」


エリサベットは素直に頷き、葵から数歩離れて壁際に寄った。


廊下の先には人影は見えない。


だが、念のため壁を向く形で姿勢を整え、深く息を吸った。


さっきはウィルオウィスプの力を借りたけど……


葵は静かに意識を集中させた。


闇の盾よ、我が前に立て——スクトゥム・テネブラルム


葵の前方に漆黒の盾が浮かび上がった。


先ほどウィルオウィスプが展開したのと同じ、闇の初級防御魔法だった。


形は安定し、表面を淡い黒い霧がゆっくりと流れている。


エリサベットが目を見開き、少し驚いた声を上げた。


「あなた、まだ入学したばかりよね?

自身の適性以外の魔法を使えるなんて、信じられないわ。しかもあなたの適性と真逆の闇属性を……」


「そうなんですか?」


葵は盾を維持したまま、首を傾げた。


「ええ。一年生では自身の適性のある属性で魔力制御を学ぶの。

そこでしっかり学んでおかないと、2年生で別の属性の魔法を習うとき、発動すらできないわ

あと、自身の適正とは真逆の魔法は全く使えない人も多いわ」


「エリサ先輩は出来るんですか?」


「当然でしょ。私はエリートなのよ!……ただ、さすがに入学したばかりのときは出来なかったわね。入学前も家庭教師から学んではいたけど……」


エリサベットは少し自慢げに胸を張ったが、すぐに照れくさそうに視線を逸らした。


「家庭教師...エリサ先輩のお家って、やっぱりお金持ちなんですね。攻撃魔法も試していいですか?」


「いいわよ。やってみなさい」


葵は頷き、闇の盾をゆっくりと解除した。


次に右手を軽く前に突き出し、イメージを明確に描きながら詠唱した。


——闇よ、射よ。テネブラ・サギタ


黒い魔力が右手に集まり、瞬時に凝縮された矢の形となった。


放たれた闇の矢は暗い軌跡を残しながら一直線に飛び、回廊の壁に深く突き刺さった。


石材がわずかに削れ、黒い煙が立ち上る。エリサベットが感心したように小さく息を吐いた。


「さすがね……この階層はみんな闇属性に弱いから、楽勝だわ」


ーーーーーーーーーーーーー


エリサベットの言葉通り、その後の戦いは驚くほど順調に進んだ。

エンジェル、アークエンジェル、アプサラス、ガンダルヴァ、フォルトゥナ——


次々と現れる天使や天女型の神魔を、葵は自分の闇魔法でほとんど苦戦することなく撃破していった。


闇の盾で光の攻撃を飲み込み、闇の矢で正確に急所を射抜く。


ウィルオウィスプの力を借りることなく、葵の闇属性魔法は着実に精度を増していた。


やがて、二人は20層の手前までたどり着いた。


葵は軽く息を整えながら、エリサベットに尋ねた。


「エリサ先輩、次が20層ですが、トゥルダクのような神魔が待ち構えているのでしょうか?」


「ええ、そうよ。10層ごとに、それまでの階層より強力な神魔が待ち構えているの。迷宮探索者はボスって呼んでるわね」


「なるほど、物知りですね、先輩」


「ふふん。まあね。もっと頼っていいのよ」


エリサベットは少し得意げに胸を張った。


「次の階層に出るのはどんな神魔なんですか?」


「……行けば分かるわ」


エリサベットは視線を少し逸らし、言葉を濁した。


エリサ先輩、忘れたのか。


葵は内心で小さく苦笑した。


二人は顔を見合わせ、静かに頷き合った。そして、20層への階段を降り、階層の入り口に足を踏み入れた。


ーーーーーーーーーーーーー


そこは神聖な光に満ちた大広間だった。


天井は高く、淡い青白い光の粒子が無数に舞い、床は磨かれた大理石のように輝いている。


空気そのものが清浄で、重く荘厳な威圧感が全身を包み込む。その中心に、天使が佇んでいた。


純白と深青を基調とした長く流れるローブをまとい、頭には鋭く伸びた七本の光条が放射状に広がる荘厳な冠を戴いている。


冠の中心から神々しい光が溢れ、背中からは巨大で力強い二枚の翼が銀色の羽根で縁取られて広がっていた。


右手には権力を象徴する長い王笏を握りしめ、先端の宝珠が冷たい青い輝きを放つ。


端正で冷たい顔立ちに、黄金色の瞳が鋭くこちらを捉えていた。


その姿はまさに威厳に満ちた王族そのものだった。


冠の天使は無言のまま、ゆっくりと王笏を掲げ上げた。


瞬間、周囲の神聖な光が激しく脈動し、広間全体が低く震える。


翼が大きく広がり、冠の光条が眩しく輝き、王笏の先端から青白い雷のようなエネルギーが迸った。


黄金の瞳に明確な戦意を宿し、翼をはためかせて低く浮かび上がる。


その沈黙の威圧が、戦いの開始を告げていた。


ーーーーーーーーーーーーー


神魔解析録を軽く操作すると、眼前を覆う黄金の光を纏った敵の情報が浮かび上がった。


——プリンシパリティ。権天使の位階を持つ天使。


「そう、20階層のボスは天使だったのよ。

...そろそろ私もいいところを見せるわよ」


エリサベットは自信たっぷりに言い、杖を構えた。


その杖の先端には巨大な六角形の氷の結晶が据えられ、柄の部分には銀と白の細い線で北欧の古ルーンが螺旋状に刻まれている。


彼女の周囲に極寒の気配が立ち上り始めた。プリンシパリティは無言だった。


ただ、王笏を静かに一閃する。瞬間、冠の光条が爆発的に輝き、純白の聖光が奔流となって二人を襲った。


大理石の床が大きく割れ、光の波が津波のように迫ってくる。


「凍てつけ!」エリサベットが即座に両手を突き出し、極寒の霧を展開した。


広間全体が一瞬にして霜に覆われ、聖光の奔流が砕け散る。


プリンシパリティの翼の端に氷の棘が張りつき、その優雅な動きをわずかに鈍らせた。


今だ……


葵はタイミングを計り、杖を前に突き出した。


闇の矢よ、敵を射貫け——テネブラ・ランケア


漆黒の矢が闇の軌跡を残して飛翔し、プリンシパリティの胸元に直撃した。


王笏を構えたまま後退する天使の冠の光が、一瞬乱れた。黄金色の瞳が怒りに染まる。


プリンシパリティは翼を大きく広げ、王笏を天に掲げた。冠の七条が全開し、周囲の神聖な光粒子がすべてその元へ収束していく。


次の瞬間、極大の光線が放たれた。


「っ……!」


エリサベットが素早く氷の大壁を展開する。


厚い氷の壁の中で、光のビームが乱反射し、攻撃を完全に防いだ。


さらに冷気がプリンシパリティの体まで届き、その全身を氷の拘束で固めていく。


「今よ、葵!」


闇の断片よ、敵の魂を削れ——テネブラ・フラグメントゥム


葵は上級魔法を放った。


黒く輝く闇の断片が無数に飛び、プリンシパリティの体を貫く。


天使の体が光の粒子に包まれながらゆっくりと崩れ落ち、王笏が乾いた音を立てて床に転がった。


冠の輝きが弱々しく明滅し、最後に完全に消え失せる。神聖な大広間に、再び静寂が戻った。


エリサベットが杖を軽く回しながら、満足げに息を吐いた。


「やったわね、葵。先輩の力はどうだった?」


葵は小さく微笑み、素直に頷いた。


「はい、エリサ先輩、とても強かったです」


「ふふん、そうでしょう。そうでしょう」


エリサベットは得意げに胸を張り、ふんぞり返るように笑った。


しかしその頰はわずかに赤らんでいて、照れを隠しきれていない様子だった。

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