第39話 戦闘服
「戦える格好をして、生徒会室にいらっしゃい」
蒼玲からのメッセージは、それだけだった。
葵は学園支給の戦闘服を着た。クラウ・ソラス・レプリカを右手に握り、左腰に小型短銃のホルスターを付け、イレムからもらった杖を背中に斜めに差した。左手のブレスレットが青白く光っている。
待ち合わせの時間まで少し余裕があった。
葵は実習室に向かった。
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端末を開いた。ウィルオウィスプの散盟契約陣——生成完了。
魔法陣を展開した。
光の輪が床に広がった。
現れたのは、青白く揺れる光の塊だった。人の形をしていない。ただ揺れていた。漂うように、室内をふわふわと動いた。
「オオ……憎イ……」
低い声だった。この世のものではない響きがあった。
「……僕のこともですか」
ウィルオウィスプがゆっくりと葵の方を向いた。
「……オ前ノコトハ ソコマデデモ ナイ……」
そう言って、光の塊は揺れながら消えた。
葵はしばらくその場に立っていた。
「……まあ、そうか」
胸元のライラが、わずかに重みを変えた。
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生徒会室の扉を開けた。
先輩たちが、いた。
全員、本格的な戦闘服を着ていた。
蒼玲は漆黒と深紅の中華風チーパオだった。胸から肩にかけて金糸の刺繍。龍と雲の文様。生地の上で、青黒い魔力光が脈打っていた。腰のスリットから白い脚が覗いている。背中には黒いショートマント。長い黒髪に深紅の簪が一本、まっすぐ挿してあった。
白羽は陣羽織と袴の戦闘装束だった。立ち襟の黒い陣羽織の胸と背中に、白い糸で神刃家の家紋が刺繍されている。黒い袴に白い魔力帯。腰の左側に刀ホルダーが控えめに収まっていた。
カヴィヤ、アリア、イレム、エリサベット——他の先輩たちも、それぞれの戦闘服を着ていた。本格的な戦いに備えた装いだった。
葵は短剣を握ったまま、ゆっくりと言った。
「……すいません、武器だけ持ってきてしまいました」
蒼玲が切れ長の目を細めた。
「まあ……確かに私の伝え方が足りなかったわね」
一拍置いて、蒼玲は続けた。
「いいわ。小春葵、あなたはまだ戦闘服を持っていないのよね。ではここで私がプレゼントしてあげる。そんな格好で私のそばを歩けると思っているの?」
指を鳴らした。
扉の外から使用人が現れ、黒と青の小さなケースを両手で差し出した。
ケースを開けると、ダークネイビーのボディスーツが丁寧に折りたたまれて入っていた。
葵は少し驚いてから、首を横に振った。
「……受け取れません。学園の装備をレンタルしてきます」
蒼玲はくすりと笑った。
「返してもらっても困るわ。サイズもエネルギー回路も、あなたと完全にリンクするように作ってあるのよ」
——いつの間に、作ったのだろうか。
葵はケースを見た。自分のサイズに合わせて、エネルギー回路まで調整済み。今日この場で渡すために、すでに用意されていた。
ライラが胸元で、静かに揺れた。
葵はゆっくりとケースを受け取った。
「……ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
蒼玲が満足そうに微笑んだ。
「ふふっ。では、着替えなさい」
手を振った瞬間、葵の周囲に高さ二メートルほどの木の壁が四方から盛り上がった。
「誰にも見せないわよ。……早く着てちょうだい。待ってるから」
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壁の中で、葵は戦闘服に袖を通した。
ハイネックの長袖が体に沿った。胸から肩にかけて青白いエネルギー回路が静かに脈打っている。左胸に天龍集団の小さなエンブレム。手首は少し短めで、左手のブレスレットがスーツと共鳴して光を強めた。
葵は左手を軽く握った。
「……着替えました」
木の壁が静かに沈んだ。
蒼玲が目を細めた。
「よく似合っているわ、小春葵」
白羽が小さく頷いた。カヴィヤが「あら、素敵よ」と微笑んだ。他の先輩たちも、それぞれ温かい視線を向けていた。
葵は短く頭を下げた。
蒼玲が踵を返した。
「では、行くわよ」




