夕日にシャウト!
10/2 誤字修正しました。気付けました。
悔しい悔しい悔しい!
……悲しい!
自転車を漕ぎながら茉莉奈は涙を溢していた。
いつもよりぐんとスピードを上げて、しんどい坂道だって難無く登り切った。
人気のない河原に自転車を止めて、肩で息をしながら水面を睨みつけた。
―もう知らない、知るかあんな奴!
「茉莉奈!」
歯を食いしばっていると聞こえるはずのない親友の声が聞こえた。
勢いよく茉莉奈が振り返ると同じく息を切らせた舞香が自転車を停めていた。
「舞香だぁぁぁ!」
顔を涙でぐちゃぐちゃにしたまま抱き着くと、熱を持った首に汗が流れていた。
夕方は肌寒い日が多くなった季節に、汗をかいて追い掛けてきてくれた事が嬉しかった。
「茉莉奈、あんた何やったの?」
ぐちゃぐちゃに縺れた髪を整えてくれる指は優しかった。
「アイツ、圭のやつ、ルイちゃん優先しなきゃ可哀想だからって……!
今日私の誕生日なのにルイちゃんと一緒に遊びに行くって!」
彼女は私の筈なのに、と泣きながら茉莉奈は言った。
可愛い転入生に「お願い」ってお強請りされた圭は茉莉奈を教室に残し、まだ慣れないから街の案内を頼んだ転入生と出て行こうとしていた。
「何だアイツ。
で?あんたはどうしたの?」
舌打ちをした舞香が先を促した。
きっと騒ぎ立てる彼等を無視して追い掛けてくれたのだろう。
「そんなに人のお古が好きならくれてやるわ!見る目のない古物商が!って叫んで出てきた……」
「よくやった。
それであの転入生が大騒ぎしてたのか」
転入生が来たのが6月、10月迄に既に何組のカップルが破局したか。
しかも破局したら興味がなくなるのかさっさと次を見付けて彼氏の方に声をかける。
そんな事を繰り返している内にクラスで相手にされなくなり遂に茉莉奈のクラスにまで手を出してきたのが先週のことだった。
圭とは付き合い始めて1年、そこそこ仲良くしていたにも関わらずまさか1週間で……。
ルイの手腕を褒めればいいのか、圭のチョロさを責めればいいのか…。
お昼に纏わりついてくるのは何とか我慢していたが、圭がルイちゃんは天然なだけだから、って言った時、茉莉奈には終わりが見えてしまった。
挙句の果てには彼女の誕生日に彼女以外を優先させるなんて、と激怒した結果の捨て台詞だった。
えぐえぐ泣いていると、あの子に古物商の意味が分かったかな、と舞香は首を傾げていた。
その姿に茉莉奈は笑ってしまった。
「そこ気にしなくていいでしょ。
あー、泣いたらちょっとスッキリした」
赤くなった鼻を啜ると舞香は茉莉奈を土手の上まで誘った。
「ちょうどいいから叫んどこーか」
笑う舞香の背中に夕日が眩しい。
そうだ、あんな男さっさと見切りをつけられてよかった、と茉莉奈は息を大きく吸い込んだ。
「ルイちゃーん!体を張ってクズ引き取ってくれてありがとー!!」
「いいね、その調子!」
舞香に煽てられるままに叫ぶ。
「凄いね!無料の不用品回収業者!!」
「はいもっと!」
「A組の拓真に相手にされなかったの知ってるよー!!」
「ちょ、それウチの彼氏」
「二度と話しかけんな!って言われてたねー!」
舞香は照れているようで、夕日が色を誤魔化していた。
「まともな男は引っ掛かってないよー!大安売り中ですかー!!」
「買うやついるのか……」
「試供品って呼ばれてカレカノのフリしてる男もいるよー!」
「やめて可哀想」
叫んだ後、何だか可笑しくなって笑いが止まらなくなった。
「何この情緒」
「だって何かスッキリした!」
座り込むと舞香も隣に座ってペットボトルのミルクティーをくれた。
「次に期待する!拓真の友達紹介して欲しい……」
一途で揺るがなくてイケメンなんて、神様に愛され過ぎている。
「あ……拓真のお兄さんいるからお兄さんにも頼んで貰おうか」
舞香がそう言うと、茉莉奈は冷たいミルクティーを一気に半分飲み干して、じゃあ早く行こう、と自転車に跨った。
キツイ坂道を追い掛けてきてくれた親友と、今度は一緒に下って行ける。
2人揃って勢いよくペダルを漕ぎ出した。
終幕
おまけ
舞「あの河原って学校の真上にあるから叫ぶとはっきり聞こえるって知ってた?」
茉「……ルイちゃんごめん」
ご覧いただきありがとうございました。
こんな青春送りたかったです。
茉莉奈・・・17歳 演劇部 マイク無しで屋上から校庭に声が届く
舞香・・・17歳 帰宅部 茉莉奈とは親友
拓真・・・17歳 舞香の彼氏 イケメン一途
圭・・・17歳 普通 モテ期きたと勘違いした
ルイ・・・17歳 養殖天然女 茉莉奈の叫びで違うクラスでも距離を置かれてポツン