わたしは雨の日が■※$▼◇
「……ひっ!」
Iさんは背筋がゾワッとなり、立ち上がって水たまりから一刻も早く離れようと足を動かしました。
──次の瞬間、水たまりの中から何本もの腕が飛び出し、Iさんの片足をガシッと掴んだのです。
彼女の足を掴む力はものすごく強く、どんどん水たまりの中に体が引っ張られていきます。
「やだ! はなして! はなしてよっ!」
Iさんは必死に叫び、掴んだ無数の腕を剥がしとろうとしました。
しかし、足を掴んだ腕の力はさらに強くなり、ずるずる、ずるずる、と先ほどよりもぐんと近く水たまりのほうに引きよせられていきます。
水たまりに映る子どもたちはIさんが引きずり込まれるのを待ってるかのように笑みを浮かべていました。
彼女の耳元ではケタケタとはしゃぐ子供たちの笑い声が聞こえてきます。
“こっちダヨ。こっち……もゥすぐダよ……”
「やだよっ! ママァ! パパァ! たすけてぇっ!!」
Iさんは声が枯れるくらい叫んで、叫んで、叫び続けました。
──と、その時。
──バッシャアアアンッ!
大きなトラックがクラクションを響かせ、水たまりの上を物凄い勢いで駆け抜けていきました。
「おーい! ガキコラァッ!! そんなとこに突っ立ってたら危ねえだろうがっ!!」
トラックの窓から顔を出したおじさんが、鬼の形相で怒鳴っています。
Iさんはびっくりして尻もちをつきました。
しかし、水たまりに顔を戻すと、そこにあったはずの水たまりはトラックが通り過ぎた瞬間に飛び散ってしまったらしく、ただ濡れた道が横たわっているだけでした。
──……あの日から、Iさんは雨の日が嫌いになったそうです。