表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

水面に浮き出たもの

 Iさんは当時、まだ八歳でした。

 その日は雲がどんよりしていて、小雨が降りっぱなしだったそうです。

 Iさんはどちらかというと雨の日が好きな人でした。


──ピチャピチャッと落ちる雨音、

──雨のツンとした匂い、

──車が走るたびに弾ける水の音とか。


 雨の日はいつもと違う音や匂いがいっぱいする、そんなふうに感じていたそうです。

 Iさんにとって、雨の日は特別なイベントでした。


 雨の日の帰り道。

 Iさんは当時大好きだったジ●リ映画の鼻歌をしながら、雨の道を歩いていました。

 すると、Iさんは道の先に変なものを見つけたんだそうです。

 ガードレールの無い車道と歩道の境にある白線の上に大きな水たまりができていました。

 いま思えばなんであそこに水たまりがあったのか分からないとIさんは言っています。

 水がたまるほどの穴も無く、大きなひび割れがあるわけでもないのに。


 しかし、当時のIさんは違和感は感じつつも、とくに気にする事無く大きな水たまりを通り過ぎようとしました。

 その時です。

 水たまりに人影が映りました。

 そして、その人影がこちらをじっと見つめてる、とIさんは直感で感じたんだそうです。


“こっち、こっち……”


 水たまりのほうから子どもの声がしました。

 声のトーンからして男の子。

 Iさんは水たまりに近づき、しゃがみこんで水たまりに映った人影をじぃーっと覗き込みました。


──人影の正体。それはよくみるとIさんと同じ歳くらいの男の子でした。


 水たまりに映った男の子はIさんの後ろにたたずんでいました。

 そして、Iさんと一緒に水たまりのほうをじぃっと凝視してたのです。

 Iさんはなんだか怖くなって、後ろを振り向きました。

 ですが、彼女の後ろには男の子の姿は無く、道路側からの目隠し用に備えられた緑のカーテンがあるだけでした。


「あれ? おかしいな?」


 Iさんはそんなふうに思いながら、水たまりに再び顔を戻しました。

 すると、水たまりに映っていた子どもが、“三人”に増えていました。


「あれ? どうして……?」


 その水たまりには先ほどIさんの後ろに立っていた男の子も同じ位置に立っていました。

 そして男の子の隣には坊主頭の男の子とおかっぱ頭の女の子が並んで立っていて、水たまり越しにIさんと目を合わせ、くすくすと笑っていました。


“こっち、こっち”

“こっち、こっち”

“こっち、こっち”


 Iさんの耳もとに三人の息がフッと当たり、Iさんはぎょっとしてまた後ろを振り返ります。

……ですが、やはりIさんの後ろに子供たちの姿は見当たりませんでした。


「へんなの」


 Iさんが再び水たまりに顔を戻すと、水たまりにはIさんの周りを埋め尽くすほどのたくさんの子ども達が集まり、Iさんの顔をじぃーっと見つめてたんだそうです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ