聖夜(イブ)から初詣まで 其二
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
さらに数日後のことだった。
エミリア・シュナイダーのオフィスには、再び、彼女とサスキア・デ・フリース、二人だけの、静かで、しかし濃密な空気が流れていた。
窓の外は、相変わらず冬晴れの空が広がっているが、オフィスの中は、ある一人の男性に関する、高度な(そして、どこか常軌を逸した)分析と考察に満たされていた。
「――以上が、直近数日間の佐藤様の行動、及び『訓練』セッションにおける反応の詳細データです」
サスキアは、タブレット端末に表示されたグラフや記録映像(もちろん音声付き)をエミリアに示しながら、淡々と報告を終えた。
そこには、佐藤が、夜組の少女たちや、プロコスプレイヤーたちからの(勘違いや演技を含む)様々なアプローチに対し、以前のようなパニックや逃亡を見せることなく、驚くほど紳士的に、かつ円滑に(表面上は)対応している様子が記録されていた。
完璧な敬語、穏やかな笑顔、適切な距離感…。
それは、まるで模範的なビジネスマンのようだった。
「……ふぅん」
エミリアは、ソファに深く腰掛け、腕を組んで興味深そうにその報告を見ていた。
「見た目は、確かに『改善』しているように見えるわね。まるで、別人みたいに、そつなく女性をあしらってるじゃない」
「はい。表層的な対人スキルに関しましては、明らかな向上が見られます。特に、彼がかつて得意としていた『銀行員モード』を応用・発展させたような、極めて洗練された『受け流し』の技術を習得されたご様子」
サスキアは、客観的な分析を述べる。
「でも…」
エミリアは、面白くなさそうに、そしてどこか期待外れといった表情で続けた。
「…全然、嬉しそうじゃないのよね、健ちゃん。むしろ、前よりもっと、分厚い壁を作ってるみたい。あれだけ可愛い子たちが、一生懸命アプローチしてるっていうのに、全く靡かないどころか、むしろ困惑して、疲弊しているようにすら見えるわ。どういうことかしら?」
エミリアの碧眼に、純粋な疑問の色が浮かぶ。
「彼、『異世界に召喚されて何らかの能力に目覚めたり与えられてモテモテになるハーレム漫画』を、あれほど愛読しているのよ? 現実で、まさに(私が用意した)その状況が訪れているというのに、なぜ、そのチャンスを掴もうとしないのかしら? 普通の男性なら、多少なりとも増長したり、浮かれたりするものでしょう?」
それは、彼女にとっても、そしておそらくは、一般的な価値観からしても、不可解な反応だった。
サスキアは、そのエミリアの疑問に対し、用意していたかのように、冷静な分析を提示した。
「考えられる要因はいくつかございます。まず、佐藤様の根深い自己肯定感の低さ。『自分のような人間が、こんなに魅力的な女性たちから好意を寄せられるはずがない』という無意識の思い込みが、彼女たちの好意を『何か別のもの(訓練、罠、あるいは自分の勘違い)』としてしか認識できない状況を生み出している可能性」
「…なるほどね。自分に自信がなさすぎる、と」
「次に、エミリア様への潜在的な、あるいは無自覚な恋愛感情、もしくは忠誠心。他の女性に意識を向けること自体に、彼の中で罪悪感や抵抗感が働いている可能性も否定できません」
「ふふ、それはそれで、嬉しいことだけれど…」
エミリアは、少しだけ口元を緩めたが、すぐに表情を引き締めた。
「そして、最も大きな要因としては、やはり過去のいじめ体験によるトラウマと、それによって形成された強固な防衛機制かと。異性からの好意や接近を、無意識のうちに『危険』と判断し、親密な関係性を築くこと自体を本能的に回避している。『銀行員モード』は、その最も洗練された、しかし最も厄介な防衛機制と言えるかもしれません。感情を完全に遮断し、誰とも深く関わらないための『鎧』なのです」
サスキアの、的確で、心理学的な洞察を含む分析に、エミリアは黙って耳を傾けていた。
「…あるいは」
サスキアは、最後に付け加えた。
「単に、佐藤様の中で、『二次元のハーレム』と『三次元の現実』が、完全に分離されている、という可能性もございます」
「漫画は漫画、現実は現実、ってこと?」
「左様です。彼にとって、理想の女性関係は、あくまでフィクションの世界で完結しており、現実の女性との間にそれを求めるという発想自体がないのかもしれません」
「…………」
エミリアは、深く息をついた。
サスキアの分析は、どれも一理あるように思えた。
そして、いずれにせよ、自分たちのこれまでのアプローチ…つまり、外部から刺激を与え、成功体験を(半ば強制的に)積ませるという方法が、彼の根本的な問題には、あまり効果がない、あるいは逆効果にすらなっている、という結論に至らざるを得なかった。
「…はぁ……分かったわ」
エミリアは、珍しく、少しだけ疲れたような声で言った。
「私たちのやり方も、少し見直す必要がありそうね。彼の『鎧』を無理やり剥がそうとしても、彼はもっと頑丈な鎧を着込むだけ…そういうことなんでしょう?」
「その可能性が高いかと存じます」
「…なら、どうすればいいの? サスキア」
エミリアは、改めて、信頼する側近に助言を求めた。
「焦らず、より長期的な視点で、彼の自己肯定感を内側から育むアプローチが必要でしょう」
サスキアは、具体的な提案を始めた。
「繰り返しになりますが、コスプレイヤーの方々とのセッションも、単なる会話練習ではなく、彼が得意な分析力や知識を活かせるような、具体的な『共同作業』を取り入れてみてはいかがでしょう? 例えば、新しいゲームの戦略を一緒に考えるとか、漫画の考察を深めるとか。対等な立場で協力し、成果を出す経験が、彼の自信に繋がるかもしれません」
「共同作業…ね」
「はい。また、彼自身が『誰かの役に立っている』『必要とされている』と実感できる機会を、エミリア様との本来のお仕事の中で、より意識的に作って差し上げることも有効かと存じます。彼が成し遂げた成果を、具体的に、そして明確に評価し、伝えてあげるのです」
(……それは、私が一番苦手なことかもしれないわね…)
エミリアは内心で思ったが、口には出さなかった。
「そして…」
サスキアは、続けた。
「初恋の方との接触も、彼の過去と向き合い、自己イメージを再構築する上で、有効な起爆剤となる可能性は秘めています。ただし、これも急がず、SNSという低リスクな環境から、彼のペースに合わせて、私たちが慎重にサポートしていくべきでしょう」
サスキアの提案は、どれも、これまでの強引なアプローチとは一線を画す、より繊細で、心理的な側面に焦点を当てたものだった。
「……分かったわ、サスキア」
エミリアは、しばらく考えた後、頷いた。
「あなたの言う通りかもしれない。時間がかかるのは…まあ、仕方ないわね。健ちゃんのためだもの。そのプランで進めましょう。詳細な計画の調整と実行は、引き続きあなたに任せるわ」
「承知いたしました」
サスキアは、静かに頭を下げた。その表情には、主の信頼に応えようとする、プロフェッショナルとしての決意が窺えた。
こうして、佐藤健の『コミュニケーション能力向上計画』は、彼の意外な反応を受けて、新たな、そしてより複雑な段階へと移行することになった。エミリアとサスキアという、二人の規格外の女性による、一人の冴えない(しかし、彼女たちにとってはかけがえのない)男性への『教育』は、まだ始まったばかりなのだ。
その先に、果たして本当の『改善』があるのか、それとも、さらなるカオスが待ち受けているのか…。
事務所には、再び静寂が戻り、ただ、サスキアが新たな計画を練り始める、キーボードの音だけが響いていた。
***
冬晴れの平日の昼下がり。
会員制ジャズ喫茶の店内には、午後の穏やかな陽光が差し込み、壁一面のレコードジャケットを柔らかく照らしていた。BGMには、心地よいテナーサックスのソロが、低い音量で流れている。
カウンターの中では、バーテンダー兼フロアマネージャーの霧島響子が、一切の無駄がない、洗練された所作でグラスを磨いていた。
その黒曜石のような瞳は、グラスの透明度を確認しながらも、時折、店内の隅へと鋭く向けられる。
厨房からは、厨房担当兼バリスタの水野小春が淹れる、本格的なコーヒーの芳醇な香りが漂ってくる。
彼女は、時折カウンターに顔を出し、人懐っこい笑顔を響子に向けながら、新しいブレンド豆の試飲を勧めていた。
一見すると、都会にひっそりと佇む、上質で落ち着いたジャズ喫茶の、穏やかな午後の風景。
――しかし、その水面下では、奇妙で、どこか歪んだドラマが静かに進行していた。
「……それでね、やっぱり、佐藤様がお好きなのは、きっと、ああいう家庭的なお料理なんだよ!」
「うんうん! 凛様も『手料理』って言ってたもんね!」
「じゃあ、次のシフトの時、あたし、肉じゃが作って差し入れするのはどうかな!?」
「えー! ずるいよ陽子ちゃん! あたしは、得意のガトーショコラを…!」
「美咲ちゃんは? やっぱり、和食?」
ホールの隅、客がいないのを良いことに、休憩中なのか、あるいはサボっているのか、夜組の少女たちが、小さなテーブルに顔を寄せ合い、ひそひそと、しかし異様な熱気を帯びて話し込んでいる。
今日の議題は、どうやら『佐藤健の胃袋を掴むための作戦会議』らしい。
その表情は、真剣そのもので、時折、涙ぐんだり、固く頷き合ったりしている。
傍から見れば、それは、部活の全国大会決勝を前にしたミーティングか、あるいは、カルト宗教の秘密集会のような、異様な光景だった。
「(ふふ…今日も熱心ねぇ、あの子たち)」
カウンターで、新しいブレンドをテイスティングしていた小春は、その様子を横目で見ながら、内心でくすりと笑った。
あの、地味で冴えない(失礼ながら、そうとしか見えない)佐藤健という男性を巡って、若い女の子たちが、目をキラキラさせたり、涙ぐんだりしながら、真剣に『ハーレム(大家族)計画』を練っているのだ。
この数日間で、彼女はその異様な状況をほぼ完全に把握していた。
(一体、どんな魔法を使ったら、あんな状況になるのかしら? あの佐藤さんという人も、雇い主のエミリア様も、そして、あの子たちを指導しているサスキア様も…本当に、ここは面白い『観察対象』ばかりだわ)
彼女の、人懐っこい笑顔の下にある、鋭い分析眼が、少女たちの表情や仕草、声のトーンから、その複雑な(そして、おそらくは根本的に間違っている)心理状態を読み解こうとしていた。
一方、響子は、グラスを磨く手を止めずに、しかしその意識の一部は、確実に少女たちのテーブルに向けられていた。
彼女の捉え方は、小春とは少し違う。
(…異常だ。あの熱狂、あの結束感…単なる『恋の悩み』や『推し活』のレベルではない。明らかに、何らかの外部からの強い影響…心理誘導、あるいはマインドコントロールに近いものが働いている可能性が高い。そして、その中心にいるのが、佐藤健という男…)
彼女は、数日前の訓練で見た、あの完璧なまでの『銀行員モード』を思い出していた。
(…彼自身も、決して『普通』ではない。あの異常なまでの自己防衛は、深いトラウマか、あるいは、彼自身が何かを隠している証拠か…? エミリア・シュナイダー、サスキア・デ・フリース、そしてこの少女たち…この場所は、私が思っていた以上に、複雑で、危険な因子が絡み合っているのかもしれない)
元PMCとしての、危機管理の本能が、静かに警鐘を鳴らしていた。
休憩に入ったのか、小春が響子の隣に立ち、カウンターに肘をついた。
「響子さん、見ました? 今日の『作戦会議』。どうやら、手料理で胃袋を掴む作戦みたいですよ?」
「…ああ。聞こえていた」
響子は、短く答える。
「ふふ、健気ですよねぇ。でも、あの佐藤さんが、手料理くらいで落ちるとは思えませんけどねぇ。…響子さんは、どう思います? 佐藤さんって、一体何者なんでしょう?」
小春は、探るような視線を響子に向ける。
「…分からない。ただ、見た目通りの男ではない、ということだけは確かだろうな」
響子は、慎重に言葉を選んだ。
「そして、この店の『本当の業務』は、単なる接客や調理だけではない、ということだ」
「あら、怖いこと言いますねぇ」
小春は、笑顔でかわす。
「まあ、私たちに直接、火の粉が飛んでこなければ、ですけど。…私としては、高みの見物が一番ですわ」
「…油断は禁物だ」
響子は、磨き上げたグラスの透明度を確認しながら、低い声で言った。
「我々も、ここの『スタッフ』であり、契約には『トラブルへの対応』も含まれている。あの少女たちの行動がエスカレートすれば、我々が対処せざるを得なくなる可能性もある」
「あらあら、フロアマネージャーは大変ですねぇ」
「……」
響子は、それ以上は答えず、黙々と次のグラスを磨き始めた。
(まあ、もし本当にトラブルになったら…それはそれで、面白い『情報』が手に入るかもしれないわね。うまく立ち回って、私の価値を高めるチャンスかしら?)
(…フロアマネージャーとして、秩序は維持しなければならない。あの少女たちの暴走は、いずれ止めねばなるまい。必要と判断すれば、サスキア氏に報告し、指示を仰ぐ。あるいは…その前に、私が直接『指導』する必要があるかもしれないな)
二人のプロフェッショナルは、それぞれの経験と価値観に基づき、この奇妙な職場で、自分たちがどう振る舞うべきかを、静かに、しかし確実にシミュレーションしていた。
一方、当の夜組の少女たちは、そんな二人の内心など知る由もなく、「佐藤さんの好きな肉じゃがの味付けは!?」「やっぱり隠し味は愛情だよね!」「分担して情報集めよう!」と、真剣で、健気で、そしてどこまでも滑稽な『ハーレム(大家族)計画』のディテールを、目を輝かせながら詰め続けている。
ジャズ喫茶。
その、静かで上品な空間には、今日もまた、それぞれの思惑と勘違い、そして水面下の駆け引きが、美しいジャズの旋律と共に、複雑な不協和音を奏でているのだった。
***
会員制ジャズ喫茶の店内には、ゆったりとしたジャズの音色と、淹れたてのコーヒーの香りが満ちていた。
窓から差し込む冬の陽光が、磨き上げられたカウンターや、壁一面のレコードジャケットを温かく照らしている。
佐藤健は、カウンターの一番端の席で、出されたブレンドコーヒーをちびちびと飲んでいた。
今日もまた、エミリア(あるいはサスキア)からの無言の圧力により、彼はこの『訓練場』に足を運んでいたのだ。
幸い、今日はコスプレイヤーたちの『訓練』はなく、彼はただ、開店休業状態の店内で、居心地悪く時間を潰していた。
「……」
カウンターの中では、クラシカルなメイド服姿の高橋美咲が黙々とグラスを磨き、ホールでは小林陽子が、テーブルの花を(必要以上に丁寧に)生け直している。彼女たちの視線が、時折、チラチラと佐藤に向けられていることに、彼は気づかないフリをしていた。
(今日の彼女たちは、なんだか妙にソワソワしているような…? まあ、僕には関係ないか…)
彼は、自分の置かれた状況(=彼女たちの壮大な勘違いの中心人物)には、全く気づいていない。
カラン、と上品なチャイムの音が響き、重厚なドアが開いた。
現れたのは、深く帽子をかぶり、マスクとサングラスで顔を隠した、長身の女性だった。
しかし、その洗練されたコートの着こなしと、隠しきれない華やかなオーラは、彼女がただ者ではないことを示していた。
「い、いらっしゃいませ!」
陽子が、慌てて駆け寄る。
「こんにちは。予約…というか、紹介していただいた、星宮です」
その澄んだ声に、夜組の少女たちの間に緊張が走る。(やっぱり来た!)
「ほ、星宮様! お待ちしておりました! どうぞ、こちらへ!」
美咲が、完璧な(練習の成果!)笑顔と所作で、窓際のソファ席へと案内する。
佐藤は、(あ、凛さんだ…本当に来たんだ…)と内心驚きつつも、以前の交流のおかげか、不思議とパニックにはならなかった。
彼は、軽く会釈だけして、自分のコーヒーに集中するフリをした。
凛さんは、席に着くと、佐藤に気づき、「あ、佐藤さん! こんにちは!」と、マスク越しにも分かる笑顔で声をかけてくれた。
「こ、こんにちは、凛さん。この前はありがとうございます」
佐藤も、ぎこちなく挨拶を返す。
(良かった…普通に話せた…)と佐藤が密かに安堵したのも束の間、凛さんは、人懐っこい笑顔で続けた。
「実は、今日、撮影が早く終わって。他の子たちも、佐藤さんに会いたがってたんですけど、いきなり全員で押しかけたらご迷惑かと思って、まずは私一人で様子を見に来たんです」
「そ、そうだったんですね…」
「それで…もし、ご迷惑でなければ、みんなも呼んでも、いいですか? すぐ近くまで来てるみたいなんです」
佐藤に断る選択肢など、あるはずもなかった。
「え? あ、はい、もちろんです! どうぞどうぞ!」
凛さんがスマートフォンを取り出し、どこかへ連絡を始めた。
その様子を、夜組の少女たちは、カウンターの陰から、あるいはホールの隅から、固唾を飲んで見守っていた。
(ついに…! ハーレム計画(大家族計画)の、最大のライバルたちが…!)
数分後。
再びチャイムが鳴り、今度は、さらに華やかなオーラを纏った女性たちが、次々と店内に足を踏み入れてきた!
「佐藤さーん! お久しぶりですっ!」
最初に飛び込んできたのは、ピンク色のコートを着た、元気いっぱいの花咲陽菜。
「…お邪魔します」
続いて、紫色のコートをシックに着こなした、クールビューティーな紫堂愛。
「わぁ、可愛いお店…!」
ふんわりとした緑色のコートの、おっとりした緑川楓。
そして最後に、ブルーのコートをスタイリッシュに着こなした、サブリーダーの月島葵さんが、少しだけ照れたような表情で現れた。
全員、帽子やマスク、サングラスで変装はしているものの、その輝きは隠しようがない。
「み、皆さんまで…!?」
佐藤は、 Berurikku のメンバーが勢揃いした光景に、完全に目が点になっていた。
(え? え? 全員!? なんで!?)
一方、夜組の少女たちは、その光景を目の当たりにし、もはや感動(?)と絶望(?)で言葉もなかった。
(((全員集合…! これが…これが、佐藤さんの…本当のハーレム…!!!)))
(((やっぱり、私たちの勘違いじゃなかったんだ…!)))
(((でも、レベル高すぎ…! 勝てる気がしない…!)))
(((ううん! 諦めちゃダメ! 私たちだって、大家族の一員なんだから! 末席でもいい! 頑張るんだ!)))
彼女たちの瞳には、涙が浮かび、しかし、その奥には、運命を受け入れ、悲劇のヒロインとして(勘違いの道を)突き進むことを決意した、妙に清々しい光が宿っていた。
「改めまして、佐藤さん、先日は本当にありがとうございました!」
凛が、改めて深々と頭を下げる。
「私たち、佐藤さんのおかげで、本当に助かったんです!」
花咲陽菜が、キラキラした瞳で佐藤さんを見つめる。
「なので、今日はどうしても、直接お礼が言いたくて!」
緑川楓が、おっとりとした口調で付け加える。
「…忙しいのに、悪いな」
紫堂愛が、少しだけ申し訳なさそうに言う。
「いえいえ、そんな! 僕の方こそ、皆さんに会えて嬉しいですよ!」
佐藤は、目の前に勢揃いした、テレビや雑誌で見る、まさに『本物』のトップアイドルたちの、あまりにも眩しいオーラと、真っ直ぐな(ように見える)好意の言葉に、完全に舞い上がっていた。
(知っている相手だから、大丈夫…!)
彼は、自分にそう言い聞かせ、必死で笑顔を作った。
アイドルたちは、そんな佐藤さんを、まるで珍しい生き物でも見るかのように(あるいは、格好の『遊び相手』を見つけたかのように)、ソファ席でぐるりと取り囲んだ。
そして、矢継ぎ早に、質問と、称賛(?)の言葉を浴びせ始めたのだ。
「佐藤さん、最近お忙しいんですか? 少し痩せました?」
と凛が心配そうに覗き込む。
「わかります! 私たちも年末進行でヘトヘトですよー! でも、佐藤さん見たら元気出ました!」
と陽菜が屈託なく笑う。
「佐藤さんのそのネクタイ、すごくセンスいいですね。どこのブランドですか?」
と葵が、ファッションチェックを始める。
「あ、佐藤さん、この前お話しされてた漫画、私も読んでみました! あのキャラの気持ち、すごく分かります…!」と愛が、共通の趣味の話題を振ってくる。
「佐藤さんって、手が大きいんですね…なんだか、安心します…」
と楓が、隣に座り、ごく自然な仕草で、佐藤さんの手に自分の手をそっと重ねた!
「ひゃっ!?」
佐藤は、小さな悲鳴を上げそうになるのを、かろうじて飲み込んだ。
(て、手!? 楓さん!? な、なんで!?)
しかし、アイドルたちは、そんな佐藤さんの動揺などお構いなしに、次々と畳みかける。
それは、彼女たちにとって、普段の仕事…台本があり、カメラがあり、常に『アイドル』として完璧を求められる息苦しい世界から解放された、束の間の『リアルな遊戯』であり、日々のストレスを発散するための、極上の『気分転換』なのかもしれなかった。
エミリア公認という安心感も、彼女たちを大胆にさせている。
佐藤は、四方八方から飛んでくる、キラキラした笑顔と、好意的な言葉(と、時折混じるさりげないボディタッチ)の波に、完全に飲み込まれていた。
頭はクラクラし、冷や汗が止まらない。
(な、何なんだ、この状況は!? みんな、どうしちゃったんだ!? 僕なんかを相手に、そんなに楽しそうに…! あ…! そうか…!)
その時、佐藤の頭の中に、一つの(またしても的外れな)考えが閃いた。
(…そうか! 彼女たち、アイドルって仕事、すごくストレスが多いって聞くから…。だから、僕みたいな、何の害もなさそうな、つまらない男を相手に、気晴らしで遊んでるんだ! そうだ、きっとそうだ!)
そう思い至った途端、佐藤の中に、奇妙な使命感が湧き上がってきた。
(…そうか、そうだったのか…。僕で良ければ…! 彼女たちが、少しでもリラックスして、気分転換できるなら、僕なりに、精一杯、この『遊び相手』を務め上げよう! それが、僕にできる、唯一の恩返しだ!)
彼は、心の中で固く決意すると、先ほどまでの戸惑いを(無理やり)振り払い、ぎこちないながらも、とびきりの笑顔を作り、アイドルたちの、とりとめもない(ように聞こえる)会話に、一生懸命、相槌を打ち始めた。
「へえー! それは大変でしたね!」
「わかります、わかります!」
「さすがですね!」
その、健気で、しかし完全に空回りしている佐藤さんの姿を、カウンターの中やホールの隅から、夜組の少女たちが、目を潤ませ、胸を押さえながら見守っていた。
(((すごい…! 佐藤様…! あんなにたくさんの女神たちに囲まれて、一人一人に、あんなに優しく、完璧に対応してらっしゃる…!)))
(((あれが…あれが、本物のハーレムマスターの器…!)))
(((私たちも…! 私たちも、早く、あの輪の中に入って、佐藤様を支えられるようにならなくちゃ…! たとえ、末席の、端っこの、影みたいな場所でも…! それが私たちの運命なんだから!)))
彼女たちの勘違いは、もはや神格化の域に達し、悲劇のヒロイン的な達観と共に、的外れな努力目標へと昇華されつつあった。
そして、そのさらに奥、バーカウンターでは霧島響子が、厨房では水野小春が、この常軌を逸した光景を、それぞれのプロフェッショナルな視点から、冷静に、そして興味深く観察していた。
(…ターゲット(佐藤)は、複数の高レベルな対象からの同時接近に対し、パニック反応ではなく、『役割遂行モード(銀行員モード)』を発動させて対処している、か。興味深いデータだ。しかし、根本的なコミュニケーションは成立していない。夜組の反応も…危険なレベルの集団的思い込みだ。早急な対策が必要かもしれん)
(あらあらあら♪ まるで乙女ゲームの逆ハーレムイベントじゃないですか! しかも、攻略対象が一人でテンパってて、周りの女の子たちが勝手に盛り上がってる! 面白すぎ! 夜組の子たちの、あのキラキラした(勘違いの)瞳! これは最高の人間観察劇場! しっかり記録して、後でエミリア様とサスキア様に報告(という名のネタ提供)しなくっちゃ♪)
ジャズ喫茶の、午後のひととき。上質なジャズピアノの旋律と、芳醇なコーヒーの香りの中で、トップアイドルたちの『遊戯』、佐藤健の『健気な勘違い』、夜組の『悲壮な決意』、そしてプロたちの『冷静な観察』が入り混じる、完璧で、奇妙で、そして最高にカオスな協奏曲が、ただただ、奏で続けられていた。
その曲の終着点が、一体どこにあるのか、今はまだ、誰にも分からない――。




