聖夜(イブ)から初詣まで 其一
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
十二月も下旬に差しかかり、街が浮かれたクリスマスムードに包まれ始めた、冬晴れの平日の昼前。
雑居ビルの一階にひっそりと存在する、会員制ジャズ喫茶。
まだ本格的な開店時間には早く、重厚な木製のドアには「Closed」の札がかけられている。
しかし、その内側では、新たな動きが始まろうとしていた。
店内は、窓から差し込む柔らかな陽光と、間接照明の穏やかな光に照らされ、磨き上げられたカウンターや壁一面のレコードジャケットが、静かにその存在感を主張している。
BGMには、軽やかで心地よいジャズが流れ、上質なコーヒーの香りが漂っていた。
完璧な湿度と温度に管理された、まさに大人のための隠れ家。
その、本来なら落ち着けるはずの空間で、クラシカルなヴィクトリア朝風メイド服に身を包んだ「夜組」の少女たち――美咲、陽子、詩織、亜美、真奈の五人は、カチコチに緊張していた。
サスキアさんから、「今日、新しく一緒に働くことになるスタッフの方が二人いらっしゃいます。佐藤様にも同席していただきますので、失礼のないように」と、朝礼で(有無を言わせぬ口調で)告げられたのだ。
(新しいスタッフ…? しかも二人も?)
(どんな人たちなんだろう…怖い人かな…)
(ていうか、佐藤さんも来るの!? なんで!?)
(もしかして、あたしたちの『大家族計画』がバレて、新しいお目付け役が…!?)
それぞれの胸に、不安と、わずかな好奇心、そして例の(壮大な)勘違いが渦巻く中、彼女たちは、サスキアさんの指示通り、カウンターの内側やホールの隅で、神妙な面持ちで待機していた。
そこへ、階段の方から、力なく、そして明らかに不本意そうな足取りで、佐藤健が姿を現した。
(…はぁ……なんで僕が、ホスト役なんて…絶対無理だって言ったのに…エミリアもサスキアさんも、人の話を聞いてくれないんだから…)
彼の内心は、既に悲鳴を上げていた。
エミリアに「健ちゃんが紹介してあげた方が、新人さんも安心するでしょう?」と、もっともらしい理由で押し付けられたのだ。
佐藤が、ぎこちない笑顔でカウンターの近くに立った、まさにその時。
カラン、と上品なチャイムの音が鳴り、重厚なドアが開けられた。
入ってきたのは、二人の対照的な女性だった。
一人は、長身で、黒髪をタイトなポニーテールにまとめた、怜悧な雰囲気の女性。
黒いシンプルなパンツスーツを着こなし、その動きには一切の無駄がない。
切れ長の、黒曜石のような瞳は、感情を読み取らせず、ただ静かに店内を見渡している。
首筋に、古い傷跡のようなものが微かに見えた。
彼女が、霧島響子だろう。
もう一人は、ふんわりとした茶髪のセミロングで、人懐っこい笑顔を浮かべた、柔らかな雰囲気の女性。
ナチュラル系のワンピースに、温かそうなカーディガンを羽織っている。
少し垂れた大きな目は、親しみやすく、見る者を安心させるような力があるように見える。
しかし、その笑顔の奥には、鋭い観察眼が光っているようにも見えた。
彼女が、水野小春に違いない。
「お待ちしておりました。霧島様、水野様」
カウンターの中から、いつの間にか現れていたサスキアが、完璧な微笑みで二人を迎えた。
その場の空気が、ピリッと引き締まる。
「こちらが、オーナーの意向により、皆さんと一緒にジャズ喫茶を運営していくことになった、高橋さん、小林さん、遠藤さん、千葉さん、吉田さんです。そして、こちらが、お店の運営にもアドバイザーとして関わっていただく、佐藤様です」
サスキアさんの丁寧な紹介に合わせ、夜組の少女たちと佐藤さんは、ぎこちなく頭を下げた。
「霧島響子です。バーカウンターと、皆さんの指導も少し担当させていただきます。…よろしくお願いします」
響子の声は、低く、落ち着いていて、感情が乗っていない。
「水野小春です! 厨房で、美味しいコーヒーや、ちょっとしたお菓子なんかを作らせていただきます♪ 皆さんと一緒に働くの、楽しみにしてまーす! よろしくお願いしますねっ!」
小春の声は、明るく、弾んでいる。
二人のあまりにも対照的な雰囲気に、夜組の少女たちは、ただただ圧倒されていた。
(うわ…綺麗な人たち…でも、なんか、普通じゃない感じ…)
(こ、怖そう…)
(優しそうだけど、目が笑ってない…?)
「さ、佐藤健です! え、えっと、オーナーの…補佐、みたいな…? よ、よろしくお願いします!」
佐藤は、必死で声を絞り出すのが精一杯だった。
「まあ、立ち話もなんですから。どうぞ、そちらのソファへ」
サスキアに促され、全員が窓際のソファ席へと移動する。
響子と小春は、ごく自然にソファに腰を下ろしたが、夜組のメンバーは、緊張でカチコチになりながら、その向かい側の椅子に浅く腰掛けた。
佐藤さんは、ホスト役として、なんとか会話を始めようとするが、言葉が出てこない。
(だ、だめだ…何を話せば…! ええと、天気の話…? いや、それは…)
そんな、気まずい沈黙を破ったのは、小春だった。
「わぁ、皆さん、そのメイド服、とっても素敵ですね! クラシカルで、お店の雰囲気にぴったり! どこか、特別なお店のものなんですか?」
人懐っこい笑顔で、ごく自然に話しかけてくる。そのコミュ力の高さに、佐藤は内心で感嘆(と、劣等感)を覚えた。
「あ、ありがとうございます! これは、その、オーナーの…」
美咲が、しどろもどろに答えようとした時、響子が、静かに、しかし鋭い視線で、夜組の少女たち一人一人を見つめているのに気づいた。
まるで、値踏みでもするかのような、プロの視線。少女たちは、思わず背筋を伸ばした。
(((見られてる…!)))
そんな中、陽子が、ふと、とんでもない勘違い(=佐藤さんへのアピールチャンス?)を思いついたのか、少し頬を赤らめながら、佐藤さんの方をチラチラと見始めた。
美咲が、それに気づき、慌てて肘でつつく。
(((こら! 陽子! 今はダメだって!)))
(((えー! でも、見てよ、佐藤さん、困ってるじゃん! あたしが助けてあげないと!)))
(((バカ! 新しい人たちの前で、変なことしないで!)))
そんな、声にならないアイコンタクトが、夜組の間で飛び交う。
その、あまりにも分かりやすい少女たちの様子を、響子は表情を変えずに観察し、小春は笑顔の奥で(おそらくは)分析し、そしてサスキアは、全てを把握した上で、静かにティーカップを傾けている。
佐藤は、ただただ、この奇妙で、息苦しくて、訳の分からない状況から、一刻も早く解放されたいと願うばかりだった。
ジャズ喫茶の、新しい一日。
それは、新たなスタッフと、既存の(勘違い)スタッフ、そして、何も知らない(そして何もできない)ホスト役が織りなす、複雑で、コミカルで、そしてどこか不穏な協奏曲の、まさに始まりを告げる音だったのかもしれない。
***
エミリアのオフィスで、サスキア・デ・フリースは、主であるエミリアに対し、珍しく懸念事項を報告していた。
それは、階下のジャズ喫茶で働く、『夜組』の少女たちの最近の様子についてだった。
「…以上が、ここ数日の夜組メンバーの言動・行動パターンに関する観察報告です」
サスキアは、タブレット端末のデータをエミリアに示しながら、淡々と、しかしわずかに懸念を滲ませた声で締めくくった。
「佐藤様に対する、過度な、そして少々…方向性の異様な関心が見受けられます。このまま放置した場合、佐藤様への不適切なアプローチや、スタッフ間の不和、ひいては我々の計画全体に支障をきたす可能性も否定できません」
画面には、夜組の少女たちが、佐藤さんの好み(と勘違いしているもの)を熱心にリサーチしたり、『ローテーション』について真剣に話し合ったり、佐藤さんに気づかれないように(しかしバレバレに)熱い視線を送ったりしている様子が記録されていた。
「ふーん…」
エミリアは、ソファに深く腰掛け、面白そうにその報告を見ていた。
「あの子たち、本当に『大家族』作る気になっちゃってるのね。健ちゃんのどこに、そんなハーレム王の素質があるっていうのかしら…」
「つきましては、彼女たちの心理状態を適切な方向へ『誘導』するため、専門家によるカウンセリングを導入することを提案いたします」
「カウンセリング?」
エミリアは、眉をひそめた。
「はい。以前、エリジウム・コード社でお世話になった、愛咲 心先生であれば、彼女たちの複雑な心理状態を読み解き、うまく軌道修正してくださるかと…」
「愛咲 心!?」
エミリアは、思わずといった体で声を上げた。その名前を聞いて、苦々しい記憶が蘇ってきたのだろう。
「正気なの、サスキア!? あの女に任せるなんて!」
彼女は、忌々しげに顔を歪める。
「 以前、エリジウムのアイドルたちのメンタルケアを頼んだら、恋愛至上主義を吹き込んで、グループ内でトラブルが続出して、かえって面倒なことになったじゃない! 彼女のカウンセリングは、劇薬すぎるわ!」
「承知しております」
サスキアは、冷静に答えた。
「しかし、彼女の人の心の深層を見抜き、影響を与える能力は確かです。今回は、私が目的と方向性を明確に指示し、セッション内容もモニタリングすれば、暴走は制御可能かと。現状、彼女たちを短期間で『落ち着かせる』には、最も効果的な手段と考えますが…」
エミリアは、しばらくの間、腕を組んで考え込んでいた。確かに、夜組のあの異様な熱気は、放置しておくと厄介なことになりかねない。
かといって、サスキアが直接「あなたたちの勘違いよ」と指摘しても、逆効果になるだけだろう。…仕方ない。
「……分かったわ」
エミリアは、深いため息と共につぶやいた。
「ただし! 絶対に、暴走させないように、あなたが責任を持って、徹底的に管理・監督するのよ! もし、またおかしなことになったら…今度こそ、彼女(愛咲心)も、タダじゃおかないわよ?」
「心得ております」
サスキアは、静かに頷いた。
【ジャズ喫茶店内、あるいは寮の別室】
カウンセリング当日。
夜組の少女たちは、少し緊張した面持ちで、愛咲心と名乗る女性カウンセラーと向き合っていた。
彼女は、年齢は二十代後半から三十代前半くらいだろうか。
華やかな花柄のワンピースに、少し派手なアクセサリー。
明るく巻かれたロングヘア。
そして何より、キラキラと輝く大きな瞳と、常に絶やさない満面の笑顔が印象的だった。
第一印象は、『すごく明るくて、話しやすそうな人』。
サスキアさんのような、近寄りがたい完璧さとは違う、親しみやすさがあった。
「はーい、みんな、こんにちはー! カウンセラーの愛咲心でーす! よろしくねっ!」
愛咲は、太陽のような笑顔で、あっという間に少女たちの警戒心を解きほぐしていった。
そして、持ち前の鋭い洞察力と、巧みな質問、そして「わかるぅ~!」「大変だったねぇ~!」という共感力で、あっという間に、彼女たちが抱える悩み…つまり、「佐藤さんへの複雑な想い(勘違い)」と、「エミリア様(正妻?)への恐怖」、そして「私たち、このままでいいんでしょうか?」という漠然とした不安を、全て引き出してしまったのだ。
一通り話を聞き終えた愛咲は、うんうんと大きく頷くと、満面の笑顔で、こう断言した。
「なるほどねー! みんな、色々悩んでるのね! でも、大丈夫! 心先生に任せなさーい!」
そして、彼女の口から飛び出したのは、サスキアさんの期待(適切な方向への誘導)とは、全く真逆の、とんでもないアドバイスだった!
「まずね! 『恋の悩み』は、悩んでるだけじゃダメ! 行動あるのみ! 佐藤さんへの気持ち、全然隠す必要なんてないわよ! むしろ、どんどんアピールしちゃいなさい! ライバル(エミリア様? 凛様?)がいるなら、なおさらよ!」
「え、ええっ!?」
少女たちが、目を丸くする。
「『ハーレム』? 『大家族』? 全然アリ! むしろ最高じゃない! 愛の形なんて、一つじゃないんだから! みんなで彼を支えて、みんなで幸せになる! それって、すごく素敵なことよ! 私、全力でその計画、支持するわ!」
「し、支持!?」
「そうよ! だって、恋をすれば、悩みなんて全部吹き飛んじゃうんだから!」
愛咲は、自信満々に言い切った。
「それにね、佐藤さん? 私、昔ちょっとだけお仕事でご一緒したことあるけど、あの人、本当に奥手中の奥手! 鈍感! だから、こっちからガツンと行かないと、全然気づいてもらえないタイプよ? 駆け引きなんて無駄無駄! ストレートに、情熱的にアタックあるのみ!」
彼女は、目を輝かせながら、自身の(おそらくは波乱万丈な)恋愛経験に基づいた、具体的なアプローチ方法(ボディタッチの仕方、効果的な甘え方、ライバルを出し抜くための小悪魔テクニック?)、果ては「円満なハーレム運営のコツ(?)」まで、熱っぽく、そして楽しそうに語り始めたのだ!
最初は戸惑っていた夜組の少女たちも、愛咲心の、その圧倒的なポジティブさと、自分たちの(勘違いに基づいた)気持ちや計画を、一点の曇りもなく全肯定してくれる態度に、次第に引き込まれていった。
(この人、すごい…! 私たちの気持ち、全部わかってくれる!)
(そっか! 間違ってなかったんだ! もっと積極的に行っていいんだ!)
(ハーレム運営のコツ…!? めっちゃ勉強になる!)
彼女たちの瞳は、いつしか、愛咲心への絶対的な信頼と、ある種の「心酔」に近い輝きを宿していた。
サスキアさんへの憧れとはまた違う、もっと熱狂的で、危険な光。
「みんな、分かった!? 恋に悩みはつきものだけど、行動すれば道は開けるの! さあ、明日から、もっと積極的に、佐藤さんにアタック開始よ! 心先生がついてるから、大丈夫!」
愛咲心の力強い(そして、無責任な)言葉に、少女たちは「「「はいっ!!」」」と、目を輝かせて返事をする。
彼女たちの勘違いと暴走は、もはや専門家(?)のお墨付きを得て、誰にも止められないレベルへと、確実に加速し始めていた。
その様子を、別室のモニターで見ていたサスキアが、深いため息をつき、こめかみを押さえている姿を、今の彼女たちは知る由もない。
エミリアの懸念は、最悪の形で的中してしまったのだ。
今後の展開は、さらなるカオスが予想された。
***
それは、全ての勘違いとすれ違いが最高潮に達した、あのカオスなカウンセリングの日から数日が過ぎた、週明けの夜のことだったかもしれない。
あるいは、まだ週末の余韻が残る、日曜日の静かな夜だったかもしれない。
正確な日時は、もはや些細なことだった。
重要なのは、エミリア・シュナイダーのオフィスで、一つの『計画』が予期せぬ方向へ進み始めたことに対する、報告と、新たな方針決定が行われようとしていたことだ。
窓の外には、星々が瞬く、どこまでも澄んだ冬の夜空が広がっている。
オフィス内は、サスキア・デ・フリースによって完璧に管理された湿度と温度が保たれ、エミリアお気に入りの高級アロマ(今夜は落ち着いたサンダルウッドだろうか)が、微かに、しかし心地よく香っていた。
デスクライトの柔らかな光だけが、室内の静寂を照らしている。
「――以上が、愛咲心氏による、夜組メンバーへの初回カウンセリングセッションの概要と、その後の彼女たちの言動変化に関する観察報告です」
サスキアは、タブレット端末の画面から目を上げ、ソファに座るエミリアに報告を終えた。
その声は、いつものように冷静で平坦だったが、わずかに、報告内容の『異常さ』に対する戸惑いと、自身の提案が招いた(かもしれない)予期せぬ結果への、気の重さのようなものが滲んでいた。
報告された内容は、夜組の少女たちが、愛咲カウンセラーの恋愛至上主義的な『助言』を真に受け、『佐藤ハーレム(大家族)計画』への決意を、さらに熱く、そして的外れな方向に固めてしまった、というものだった。
「…………そう」
エミリアは、長い沈黙の後、静かに呟いた。
彼女は、ソファに深く腰掛け、組んだ長い脚の先をゆっくりと揺らしながら、窓の外の夜景に視線を向けていた。
その美しい横顔からは、感情を読み取ることは難しい。
しかし、その完璧なポーカーフェイスの下で、サスキアの報告に対する驚きや、あるいは呆れといった感情が渦巻いているであろうことを、サスキアは感じ取っていた。
やがて、エミリアは、ふぅ…と、諦めたような、それでいて、どこか面白がっているような、複雑な響きを持つ息を吐き出した。
「…やっぱり、あの女に任せたのが、そもそも間違いだったのかもしれないわねぇ…」
その言葉に、サスキアの肩から、ほんの少しだけ力が抜けたように見えた。
叱責されることも覚悟していたのかもしれない。
「いいえ、サスキア」
エミリアは、サスキアの心情を察したかのように、穏やかな声で続けた。
「あなたは悪くないわ。報告も分析も的確だし、いつだってよく頑張ってくれているもの。感謝しているわ」
「…もったいないお言葉です」
サスキアは、わずかに目を見開き、そして静かに頭を下げた。
主からの、予期せぬ労いの言葉だった。
「悪いのは、あの『恋愛至上主義』が規格外なだけよ」
エミリアは、やれやれ、といった口調で言う。
「人の心の機微を読み解く力は、確かにカウンセラーとして優秀なのだけど…その『治療法』が、あまりにも…ねぇ?」
彼女は、そこで言葉を切ると、今度は少し遠い目をして、まるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。
「まあ、でも…仕方ないのかもしれないわね」
「…と、仰いますと?」
「だって…」
エミリアは、ふと、ほんのわずかに頬を染め、視線を彷徨わせながら言った。
「健ちゃんが、魅力的なんだもの。 私が、これだけ夢中になってしまうくらいなんだから。他の女の子たちが、彼に惹かれてしまうのも…ある意味、当然のことなのかも…しれないわ…」
それは、普段の彼女からは想像もつかないような、弱気とも、諦めとも、あるいは、深い愛情ゆえの独占欲の裏返しとも取れる、複雑な『のろけ話』だった。
サスキアは、黙って、主の珍しい姿を見守っていた。
やがて、エミリアは、何かを吹っ切ったかのように、あるいは、新たな境地に達したかのように、すっと表情を引き締めた。
「…分かったわ、サスキア。少し、方針を変えましょう」
「はい」
「あの子たち…夜組も、コスプレイヤーの子たちも、それから、もしかしたら、これから来るかもしれないアイドルちゃんたちも…彼女たちの健ちゃんへの好意が、悪意…例えば、美人局とか、情報を盗むとか、あるいは、健ちゃん自身や、私たちに直接的な害を与えるような目的でない限りは、基本的に、好きにさせておきましょう。『見守る』という方向でいくわ」
それは、驚くべき方針転換だった。
「よろしいのですか?」
サスキアが、確認するように尋ねる。
「ええ」
エミリアは、自信を取り戻したかのように、しかしその瞳には冷静な計算の色を宿して頷いた。
「だって、健ちゃんのことだもの。あの子たちがどれだけアプローチしようと、『自分はモテるんだ!』なんて単純に錯覚するより、きっと、またあの銀行員時代みたいな、鉄壁の『お客様対応モード』を発動させるに決まってるわ。そうなれば、むしろ、下手に私たちが介入して刺激しない方が、彼の『心の壁』は、より厚く、より強固になるかもしれないしね」
彼女は、佐藤の、あの予想外の『自己防衛メカニズム』を、ある意味で信頼しているようだった。
「ええ、そんな感じで、あまり直接的な『治療』は行わず、状況を『緩やかにコントロール』していく。それが、今の、そしてこれからの健ちゃんには、一番良いのかもしれないわね」
その言葉には、力ずくで変えようとするのではなく、相手の性質を利用し、時間をかけて望む方向へ誘導していく、という、より高度で、長期的な視点に立った戦略が感じられた。
「…承知いたしました」
サスキアは、エミリアの新たな方針を理解し、深く頷いた。
「では、佐藤様の訓練セッションについては、当面、現状の形式を維持し、経過観察を続けます」
「ええ、お願いするわ」
エミリアは、穏やかに微笑むと、立ち上がり、窓辺へと歩み寄った。
「だから、サスキア。あなたも、あまり心配しすぎないで。今は、ジャズ喫茶の立ち上げ準備と、本来の『表』と『裏』の仕事の方に集中しましょう。 健ちゃんのことは…そうね、どうしても、何か看過できないような『異常事態』が発生したら、その時は…」
彼女は、夜景に向かって、小さく、しかし確かな声で言った。
「基本的に、私か、あるいはあなたのどちらかが、彼のそばに『張り付いて』さえいれば、 大抵のことは、どうにかなるでしょう?」
その言葉には、絶対的な自信と、サスキアへの揺るぎない信頼が込められていた。
サスキアは、主のその言葉に、内心のわずかな動揺を完全に収め、静かに、しかし力強く応えた。
「…はい。心得ております、エミリア様」
二人の有能すぎる女性の間で、佐藤健を巡る『計画』は、また新たなフェーズへと移行した。
それは、より静かで、より巧妙で、そして、おそらくは、より長期的な『囲い込み』の始まりなのかもしれない。
オフィスには、アロマの香りと、加湿器の音、そして、二人のプロフェッショナルの間に流れる、深い信頼と、どこか不穏な共犯者のような空気だけが、静かに満ちていた。
***
週明けから数日が過ぎた、冬晴れの昼下がり。
ジャズ喫茶の店内は、大きな窓から差し込む陽光で明るく、クラシックな調度品が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
BGMには、軽やかで知的なモダンジャズが流れ、淹れたてのコーヒーの良い香りが漂っていた。
相変わらず客の姿はなく、静かな時間が流れている。
佐藤健は、カウンターの一番端の席で、ノートパソコンを開き、事務所から持ってきた資料の整理を行っていた。
階下のこの空間は、事務所よりもいくらか気分転換になる…というのは建前で、実のところ、エミリアとサスキアからの「『下』のお店もちゃんと利用して、あの子たちの『練習相手』になってあげなさい」という無言の(あるいは、あからさまな)プレッシャーに屈した結果だった。
(…はぁ。まあ、誰もいないし、静かで仕事は捗るけど…)
彼がそう思った矢先だった。
背後から、ふわり、と甘いフローラルの香りが近づいてきた。
「佐藤さーん、お疲れ様です♪ 新しいコーヒー、淹れてみたんですけど、よかったら味見していただけませんか?」
振り返ると、そこには、クラシカルなメイド服に身を包んだ桃里めるさんが、キラキラした笑顔で、小さなデミタスカップを差し出していた。
その表情、声色、そして佐藤さんの隣にごく自然に寄り添うような立ち位置。
以前のような分かりやすい『あざとさ』ではなく、より計算され、洗練された「親しみやすさ」が演出されている。
(…来たか、訓練パート3…!)佐藤は内心で身構えた。愛咲心というカウンセラーの『指導』が入ってから、夜組(+なぜか訓練に駆り出されるコスプレイヤー)の少女たちの、佐藤に対するアプローチは、明らかに変化していた。
以前のような、分かりやすいパニックや、的外れなアピールではなく、より巧妙で、一見すると自然な、しかしどこか狙いすましたような言動が増えたのだ。
「あ、ありがとう、めるさん。いただくよ」
佐藤は、内心の警戒心を隠し、努めて穏やかな笑顔でカップを受け取った。
(これも訓練、これも訓練…平常心、平常心…)
「どうですか? この豆、ちょっと酸味が強いかなって思ったんですけど…佐藤さんのお口に合えば嬉しいなっ♪」
めるは、上目遣いで佐藤の顔を覗き込む。
その距離感は、やはり近い。
佐藤は、動揺を顔に出さないよう(銀行員時代のスキルを総動員して)コーヒーを一口味わう。
「うん、美味しいよ。酸味も、僕はこれくらいの方が好きだな。ありがとう」
「本当ですか!? よかったー!」
めるは、心底嬉しそうな(ように見える)笑顔を見せた。
そこへ、今度はカウンターの中から、高橋美咲さんが声をかけてきた。
「佐藤さん、もし今、お手すきでしたら、先日お話しされていた、北海道のレポートに関する追加資料、少しだけ目を通していただけませんか? 私なりに、関連しそうな情報をまとめてみたのですが…」
彼女の言葉遣いは完璧に丁寧で、その真剣な表情からは、純粋に仕事を手伝いたいという意欲が感じられる。
しかし、佐藤には分かっていた。
(これも訓練の一環…僕の仕事内容を把握し、サポートすることで、信頼関係を築こうというアプローチだな…愛咲先生あたりが入れ知恵したに違いない…)
「ああ、ありがとう、美咲さん。助かるよ。後で必ず目を通しておくね」
佐藤は、あくまでビジネスライクに、しかし感謝の意は伝わるように答えた。
さらに、バックヤードから出てきた詩織さんが、おずおずと、しかし以前よりはしっかりとした足取りで近づいてきて、小さな包みを差し出した。
「さ、佐藤さん…あの、これ…いつも、お世話になっているので…よかったら…」
包みの中身は、手作りのクッキーのようだった。彼女の顔は真っ赤だが、その瞳には、勇気を振り絞ったであろう、健気な光が宿っている。
(うわぁ…! 一番断りにくいやつ…! でも、これも訓練…!)
「わ、ありがとう、詩織さん! 手作り? すごいね、美味しそうだ。大切にいただくよ」
佐藤は、最大限の優しい笑顔で受け取った。
彼女たちの、それぞれのやり方での、明らかに以前とは違う『洗練された』アプローチ。
それは、愛咲心という『恋愛至上主義』カウンセラーの指導と、彼女たち自身の(勘違いに基づいた)『佐藤ハーレム(大家族)計画』への真剣な取り組みの成果なのだろう。
しかし、残念ながら、佐藤健は、もはや彼女たちのその手の『好意』を、額面通りに受け取るほど純粋ではなかった。(いや、純粋すぎるが故に、逆に疑心暗鬼になっているのかもしれない)
(…みんな、頑張ってるなぁ、訓練…)
彼は、内心で、どこか遠い目をしていた。彼女たちの健気な(そして的外れな)努力を、哀れむような、それでいて、自分も同じようにエミリアたちの手のひらで踊らされているのだと思うと、妙な仲間意識すら感じてしまう。
(…まあ、僕にできるのは、この『訓練』に、当たり障りなく付き合ってあげることくらいか…)
そう割り切ると、不思議と、以前のようなパニックは起こらなかった。
彼は、『少し慣れた』感じで、それぞれの少女たちの言葉に、適度な距離感を保ちながら、穏やかに、そして当たり障りなく応じていく。それは、銀行員時代に培った『お客様対応スキル』の応用であり、同時に、彼の新たな『自己防衛術』でもあった。
夜組の少女たちは、そんな佐藤さんの(以前よりは格段にスムーズな)対応に、「(やった! 手応えあり!?)」「(私たちの魅力、伝わってる!?)」「(この調子なら、ハーレムの未来も明るい!)」と、さらに勘違いを深めていくのだが、佐藤さんは、そんな彼女たちの内心など知る由もない。
彼はただ、(早く今日のノルマ(エミリアからの『下でコーヒー一杯飲んでくること』命令)を終えて、事務所に戻って、こっそりハーレム漫画の続きを読みたい…)と、心の中で願うばかりだった。
ジャズ喫茶の、午後の穏やかな時間。そこでは、一人の男性の『コミュニケーション訓練』を舞台に、トレーナー(サスキア/玲奈)、協力者、そして見守り役(夜組)…それぞれの思惑と勘違いが、今日もまた、複雑で、コミカルな不協和音を奏で続けていた。




