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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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求めしは力、与えられしは仮面(スマイル)其二

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


エミリアとサスキアの間で、あっという間に自分たちの『教育方針』が決められてしまった。

夜組の少女たちは、その場の異様な空気と、二人の女性が放つ絶対的な圧力の前に、口を挟むことなど到底できず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

エミリアは満足そうに頷くと、「じゃあ、詳しい話はサスキアから聞いて。私は少し野暮用があるから」と言い残し、軽やかな足取りでオフィスを出ていってしまった。


後に残されたのは、完璧な微笑みを浮かべたサスキアと、緊張で固まったままの夜組の少女たち。

オフィスには、加湿器の静かな作動音と、窓から差し込む午後の穏やかな光だけが満ちている。

その、あまりにも場違いなほどの静謐さが、かえって少女たちの不安を煽った。


サスキアは、そんな少女たちの心情を見透かすように、ゆっくりと彼女たちに向き直ると、まるで教師が生徒に語りかけるかのように、諭すように、そして驚くほど分かりやすく話し始めた。

その声は、先ほどまでの有無を言わせぬ響きとは違い、穏やかで、理知的だった。


「さて、皆さん。これからあなたたちに就いていただくお仕事について、ご説明しますね」


サスキアは、カウンターの内側から数枚の書類を取り出した。


「まず、最も重要なことから。エミリア様は、海外の富裕層や投資ファンドといった、極めて機密性の高い情報を取り扱う、非常にデリケートなお客様とお取引をなさっています。あなたたちが働くことになる『下』のお店…ジャズ喫茶も、そういった方々が安心して利用できる空間として、運営されることになります」


彼女は、一人一人の目を真っ直ぐに見つめながら、言葉を続けた。


「ですので、あなたたちには厳格な守秘義務が課せられます。このオフィスや、お店で話された内容、見たもの、聞いたもの、触れたもの全て。そして、お客様がどのような方で、どんな飲み物や料理を好まれ、どんな会話をされていたか…そういった情報の一切を、たとえご家族や親しい友人であっても、絶対に口外してはいけません。…ご理解、いただけましたね?」


その静かな問いかけに、有無を言わせぬ力がこもっている。

夜組の少女たちは、こくりと唾を飲み込み、小さく頷いた。


(なんだ…てっきり、もっとヤバいブツとか扱うのかと思ったけど…金持ち相手の秘密の話か。それならまあ、仕方ないか…)

(高給には、そういう口止め料も含まれてるってことね…)


美咲や真奈は、それぞれ内心でそう解釈し、わずかに安堵した。


「よろしい」


サスキアは、満足そうに頷くと、話を続けた。


「次に、そのような大切なお客様と接するあなたたちには、当然ながら、基本的な接客態度、マナー、そして美しい所作を身につけていただく必要があります。言葉遣いから、お辞儀の角度、カップの持ち方一つに至るまで、です」


これも、少女たちにとっては比較的、納得しやすい内容だった。


(まあ、金持ちって、そういうのうるさそうだもんね…)

(笑顔は得意だし、なんとかなるっしょ!)


陽子や亜美は、内心少しだけ楽観的に考えていた。


「そして、最後に…これが最も時間を要するかもしれませんが」


サスキアの声のトーンが、わずかに低くなる。


「海外の富裕層やファンドの方々は、当然ながら、日本語だけでなく、多くの場合、ご自身の母国語、あるいは国際共通語である英語でコミュニケーションを取られます。ですから、あなたたちにも、お客様と円滑に意思疎通ができるレベルの語学力を習得していただきます」


(…やはり、そう来たか…!)


少女たちの間に、動揺が走る。


「本当のことを言えば、エミリア様のお客様のレベルを考えれば、英語はもちろん、フランス語、ドイツ語、場合によってはロシア語や中国語まで、数か国語をネイティブに近いレベルで読み書きし、会話できなければ、本来は不十分なのです。ですが…」


サスキアは、少女たちの不安げな表情を一瞥し、内心で小さく息をついた。


(…まあ、すぐには無理でしょうね。まずは英語から…基礎の基礎から叩き込まないと。ふふ、新兵の基礎訓練は久しぶりだわ。時間はかかるかもしれないけれど、エミリア様のご期待に応えるためにも、せめて最低限…ビジネスレベルで不自由なく会話できるくらいには鍛え上げないと)


彼女の基準における『最低限』が、世間一般のそれとはかけ離れていることなど、少女たちには知る由もない。


「…すぐには無理でしょう。ですので、当面は、英語の習得を最優先とします。読み書き、聞き取り、そして会話。全ての面で、高いレベルを目指していただきます」


「「「えええっ!?」」」


今度こそ、少女たちの間から、素に近い驚きと悲鳴が上がった。


(英語!? マジで!?)

(中学レベルも怪しいんですけど!)

(だから、あんなに給料高いのかよ…!)


陽子と亜美は顔面蒼白になり、詩織は完全に俯いてしまった。

美咲と真奈も、その要求のハードルの高さに、表情をこわばらせる。

高給の裏には、やはり相応の対価(努力)が求められるのだ。

口止め料だけではない、高いスキルへの投資。

それを、彼女たちはようやく理解した。


サスキアは、そんな少女たちの動揺ぶりを冷静に観察しながらも、表情一つ変えずに、完璧な微笑みを浮かべて締めくくった。


「…というわけで、皆さんの『教育』は、この私が責任を持って担当させていただきます。カリキュラムは、少々厳しいかもしれませんが、必ずや、あなたたちの将来にとって、かけがえのない糧となるはずです。期待していますよ、皆さん」


その、有無を言わせぬ、しかしどこか優雅ささえ漂う言葉と、静かな圧力。

少女たちは、もはや反論する気力も、その術も持たなかった。

ただ、目の前の、知的で、洗練されていて、そして底知れない何かを感じさせるこの美しい大人の女性に、圧倒されるしかなかった。


(…すごい…)

(…なんか、かっこいい…かも…)

(…あたしも、あんな風に、なれるのかな…?)


不安と、困難な課題への絶望感。

しかし、その一方で、ほんのわずかだが、目の前のサスキアという存在に対する、漠然とした憧れのような感情が、彼女たちの心の中に芽生え始めていたのかもしれない。

それが、これから始まる厳しい『教育』を乗り越えるための、ささやかな光となるのか、あるいは、さらに深い場所へと彼女たちを誘う罠となるのか…。


サスキアは、少女たちのそんな内心の変化すらも見透かすかのように、静かに微笑んでいた。


(まあ、素材としては…悪くないかもしれないわね。どこまで『使える』ようになるか、見ものだわ。エミリア様も、本当に、面白い玩具を見つけてくる…)


これから始まる、一流の接客術と、鉄壁の守秘義務、そして『墓場まで秘密を持っていく覚悟』を叩き込むための、サスキアによる特別な『教育』の日々。

それは、少女たちの運命を、静かに、そして劇的に変えていくことになる、まさにその始まりだった。


(この子たちは、まだ社会経験も浅く、危機管理意識も低い。不用意な発言一つで、エミリア様や我々の活動、そして何より彼女たち自身の安全が脅かされる可能性がある。嘘で固めるのは脆い。かといって真実を話すわけにはいかない。教えるべきは、情報のコントロールと断る技術ね…)


サスキアは、研修の一環として、夜組の少女たちを事務所の一室(あるいはジャズ喫茶の開店前)に集め、静かに、しかし有無を言わせぬ口調で切り出した。


「皆さん、これからあなたたちが就く仕事は、非常に高い報酬が約束されている代わりに、極めて高度な『守秘義務』が求められます。それは、お客様のプライバシーを守るためであり、ひいては、あなたたち自身の安全を守るためでもあります」


彼女は、一人一人の顔をゆっくりと見回しながら続ける。


「当然、あなたたちの親御さんやご友人は、あなたたちの変化…例えば、以前より羽振りが良くなったことや、生活リズムが変わったこと、あるいは雰囲気の変化に気づき、仕事について尋ねてくることがあるでしょう。その際に、どう答えるべきか。いくつかの状況を想定した『模範解答』をお教えします。よく聞いて、覚えてください」


サスキアは、想定される質問と、それに対する当たり障りのない、しかし核心をぼかした答え方を、理由と共に説明した。


『会員制のお店』

『接客』

『マナーや英語の勉強が大変だけどやりがいがある』

『高給の理由はスキルと守秘義務』

『詳しいことは契約で話せない』


…彼女は、これらの解答例を、ロールプレイング形式で、少女たち一人一人に、淀みなく、そして感情を顔に出さずに答えられるようになるまで、繰り返し練習させた。

最初は戸惑っていた少女たちも、サスキアの冷静で的確な指導(と、時折見せる氷のような視線によるプレッシャー)によって、次第にそれらしい受け答えができるようになっていく。


(ふふ、飲み込みは悪くないわね。恐怖や欲望は、時として最高の学習動機になるものだわ。少し時間はかかるでしょうけれど、磨けば光るかもしれない。まずは、外部からの詮索をかわし、情報を守るという『盾』の使い方から…エミリア様も、面白い素材を見つけてくるものだわ)


「――ですが」


基本的な応答練習が一通り終わったところで、サスキアは、さらに低い声で続けた。


「これでも、しつこく食い下がってくる相手もいるかもしれません。特に、あなたたちのことをよく知る、親しい人ほど、変化に気づき、心配や好奇心から、詮索を続けようとするでしょう。そういう場合の対処法も、いくつか覚えておく必要があります」


彼女は、まず、相手の感情に訴えかける方法を教えた。


「相手が親しい人であれば、この方法も有効です。少し困った顔をして、相手の目を見て、静かに、しかし真剣にこう言いなさい。『お願いだから、もう聞かないでほしいの。私にとって、本当に大切な仕事(場所)なんだ。(中略)私の気持ち、分かってくれる? 応援してほしいな』と。相手の良心に訴えかけるのです」


次に、話題を逸らす技術。


「相手の質問には直接答えず、逆に相手に関心を示す質問を返す、あるいは全く別の話題にスムーズに切り替える練習も必要です。相手に『あれ?何の話してたんだっけ?』と思わせるくらい、自然に会話の流れを変えるのです」


そして、最後に、サスキアは、完璧な、しかし温度のない笑顔を浮かべ、最も重要な『防御策』を教え込んだ。


「そして、最も確実で、いかなる相手にも使える最終手段がこれです」


彼女の声は、静かだが、絶対的な響きを持っていた。


「先ほどの模範解答、『申し訳ありません。守秘義務がありますので、お話しできません』あるいは『ごめんね、本当に言えない約束なんだ』。これを、相手が何を言おうと、どんなに食い下がってこようと、ただひたすら、同じ表情、同じトーンで、丁寧に、繰り返し言うのです。感情的にならず、説明も加えず、ただ、壊れたレコードのように繰り返す。普通の人間なら、いずれ必ず根負けします。これが、情報を守る上で最もシンプルかつ強力な防御です。ただし…」


彼女は、一瞬だけ目を細めた。


「この方法は、相手を苛立たせ、関係性を損なう可能性もあります。使う場面は、慎重に判断してください。…さあ、練習しましょうか」


サスキアは、再びロールプレイングを始めた。

今度は、しつこく食い下がる相手役を、彼女自身が演じる。

少女たちは、戸惑い、時に涙ぐみながらも、サスキアの指導の下、『笑顔での断固拒否』という、奇妙で、しかし有無を言わせぬ技術を、体に叩き込まれていった。


自分たちが今、何を学び、どこへ向かっているのか、その本当の意味も知らずに。

ただ、目の前の、圧倒的に知的で、洗練されていて、そして底知れない『かっこいい大人の女性』であるサスキアへの、畏敬と、わずかな憧れだけを道しるべにして。


それが、彼女たちを知らず知らずのうちに、秘密を抱え、仮面スマイルをつけ、それでも平然と人と接するという、特殊で、そして危険な世界の作法へと、深く、深く導いていることにも気づかずに――。


                    ***


一通りの質疑応答とロールプレイング練習を終え、夜組の少女たちの間には、安堵よりもむしろ、これから始まるであろう厳しい『教育』への漠然とした不安と、重苦しい疲労感が漂っていた。

サスキアの要求するレベルの高さと、守秘義務の重圧。

そして、何より、目の前の完璧すぎる女性に対する、畏敬と恐怖が入り混じった感情。


そんな少女たちの空気の変化を正確に読み取った上で、サスキアは、さらに畳みかけるように、しかし声のトーンはあくまで穏やかに、新たな提案を口にした。


「さて、皆さん。特に語学に関しては、短期間で集中的に学ぶことが、最も効率的です。そこで、提案なのですが…」


彼女は、優雅な仕草で、用意していたらしい数部のファイルを取り出した。

表紙には、どこかの教育機関のパンフレットのような、洗練されたデザインが施されている。


「『英語集中トレーニング合宿』を実施したいと考えています。期間は、まず二週間。この雑居ビル内の空いているスペースを研修・宿泊施設として利用しますので、通勤時間も不要です。食事もこちらで用意します。文字通り、英語漬けの環境で、集中的にスキルアップを図りましょう」


合宿、しかもこのビルで? 少女たちの間に、再び動揺が走る。


「え…」

「泊まり込みってこと…?」

「親とか、なんて言えば…」


ひそひそと不安の声が漏れる。


「もちろん、参加は任意です」


サスキアは、少女たちの反応を冷静に見据えながら続けた。


「ただし、この合宿は非常に実践的な内容を含みますので、参加には、保護者、あるいは現在あなた方の身元保証人となってくださっている保護司の方…定食屋のご夫妻ですね、その方々からの『参加同意書』の提出が必須となります」


同意書、という言葉に、少女たちの顔がさらに曇る。

ただでさえ、今の仕事(になる予定の)内容を、親や保護司にどう説明すればいいのか悩んでいたのに、さらに合宿への同意まで取り付けなければならないとは。

ハードルが高すぎる、と感じたのだろう。

特に、家庭に複雑な事情を抱える美咲や詩織の表情は硬い。


「…説得は、難しいかもしれませんね」


サスキアは、まるで彼女たちの心を読んだかのように、静かに言った。

そして、手にしていたファイルを、一人一人に手渡していく。

ずしり、とした重みのある、上質な紙で作られたファイルだった。


「ですが、あなたたちには『説得材料』があります」


ファイルを開くと、そこには、美しい写真とグラフを多用した、非常に『まとも』で『しっかりとした』研修プログラムの概要が、詳細に記されていた。


「これは、今回の『英語集中トレーニング合宿』の詳細なカリキュラム、期待される学習効果、そして、この経験が将来的にどのようなキャリアパスに繋がるかの可能性についてまとめた資料です。使用する教材の一部や、講師(もちろん、私が担当しますが)の経歴についても記載されています」


サスキアの説明は続く。

その内容は、どこかの有名企業の新人研修か、あるいは留学プログラムの案内に見紛うほど、具体的で、魅力的に構成されていた。


「そして、こちら」


彼女は、ファイルの最後のページを示した。


「合宿期間中の待遇についても明記してあります。安全で清潔な宿泊場所の提供、栄養バランスの考慮された食事、もちろん、通常の業務に対する高水準の給与に加えて…この合宿への参加、及び、保護者・保護司からの同意書を期日までに提出できた方には、『特別ボーナス』を支給することも、エミリア様から許可をいただきました」


「と、特別ボーナス…!?」


陽子と亜美の声が、わずかに上ずる。

他のメンバーの目も、資料の中の、具体的な金額が(おそらくは)記されているであろう箇所に、吸い寄せられるように集中した。

それは、今の彼女たちの生活レベルからすれば、無視するにはあまりにも魅力的な金額だったに違いない。


「この資料を、あなたたち自身の言葉で、誠意をもって、保護者や保護司の方にご説明してみてください」


サスキアは、諭すように、しかしその瞳の奥には冷たい光を宿して言った。


「これは、あなたたち自身が、自分の将来のために、自分の力で掴み取る、最初の具体的な『成果』です。『護身の努力と知恵と説得』…まさに、これからあなたたちが身につけるべき力の一部を、ここで試す良い機会となるでしょう」


彼女は、静かに付け加えた。


「繰り返しますが、強制ではありません。このチャンスを活かすも、逃すも、全てはあなたたち自身の判断です。…健闘を祈ります」


(ふふ、これで断る理由はなくなったはずね。恐怖と欲望…特に後者は、若く、そして何も持たない彼女たちにとっては、抗いがたい学習動機となるでしょう。あとは、彼女たちが、どれだけ必死になって、この最初の『課題』をクリアするか…見ものだわ)


サスキアの言葉は、重く、そして甘い響きを持って、少女たちの心に突き刺さった。

高給、ボーナス、将来への可能性、そして、『自分の力で掴み取る』という言葉。

それは、今の自分たちの閉塞した状況から抜け出すための、助け舟のように見えたのかもしれない。

確かに、親や保護司を説得するのは難しいだろう。

英語の勉強も大変そうだ。

監視されているようで、気も進まない。

だが――。

あの恐怖を二度と味わいたくない。

今の生活から抜け出したい。

そして、目の前の、この圧倒的に『かっこいい』サスキアさんのように、自分も変わりたい。


少女たちは、顔を見合わせ、それぞれの胸の中で、複雑な感情が渦巻くのを感じていた。

不安、疑念、打算、そして、ほんのわずかな希望と憧れ。

やがて、最初に口を開いたのは、美咲だった。


「……やります」


その声は、まだ少し震えていたが、確かな決意が込められていた。


「私、やってみます。同意書、必ず取ってきます」


その言葉に、他のメンバーも、次々と頷いた。


陽子は「あたしも!ボーナス欲しいし!」と無理に明るい声を出し、真奈は「(ローン返済の足しになるなら…)」と現実的な計算をし、詩織と亜美も、不安げながらも、こくりと頷いた。


彼女たちは、『自発的に』、この奇妙な合宿への参加を決めたのだ。

サスキアが差し出した、立派な資料のファイルを受け取る。

その紙の重さが、これから始まる新たな試練の重さのように感じられた。


サスキアは、そんな少女たちの様子を、満足げな、しかし全てを見通しているかのような、完璧な微笑みで見守っていた。

彼女の『教育』は、静かに、しかし確実に、次の段階へと進み始めていた。


少女たちが、それぞれの決意(あるいは打算)を胸に、サスキアから手渡された、立派な作りの資料ファイルを受け取った。

その紙の重さが、これから始まるであろう未知の『教育』と、『同意書獲得』という最初の試練の重さを物語っているようだった。

高給とボーナスへの期待、そしてサスキアへの憧れと恐怖が、彼女たちの心の中で複雑に交錯している。


そんな、不安とわずかな高揚感が入り混じった空気の中、サスキアは、まるで彼女たちの最後の懸念までも見透かしているかのように、穏やかな、しかし有無を言わせぬ響きを持つ声で、補足するように付け加えた。


「…それから、皆さんの親御さんや、定食屋のご夫妻も、合宿中の生活についてご心配されるでしょうから、いくつかルールについてお話ししておきますね」


彼女は、優しい教師のような、あるいは、細やかな配慮を示す有能な秘書のような表情で、微笑みかける。

その完璧な微笑みは、しかし、どこか温度を感じさせない。


「まず、トレーニングに集中していただくため、午前九時から午後五時までの間は、スマートフォンの電源は切って、こちらでお預かりします。 学習効果を高めるための措置ですので、ご理解ください」


スマホ禁止!? 少女たちの間に、再び動揺が走る。

一日中スマホが使えないなんて、考えられない。

陽子や亜美は、あからさまに「えー…」という表情を浮かべた。


「ですが、ご心配なく」


サスキアは、その反応を予測していたかのように、すぐに言葉を継いだ。


「それ以外の時間…朝や、夕食後、就寝前などは、ご自由にお使いいただいて結構です。 もちろん、私たちのお仕事の内容に関わること以外であれば、ご家族やご友人、保護司のご夫妻とも、自由に連絡を取っていただいて構いません。 あなたたちのプライベートな時間は尊重します」


その言葉に、少女たちの表情がわずかに和らぐ。

完全に隔離されるわけではない、連絡も取れる、となれば、少しは安心できる。


「それから」


サスキアは、さらに続けた。


「夕方の、午後五時から七時までの二時間は、自由時間とします。部屋で休んでいただいても結構ですし、自由に外出していただいても構いません。 気分転換も大切ですからね」


外出もできる!? しかも毎日? 少女たちの顔に、驚きと、安堵の色がさらに広がった。思ったよりも自由があるのかもしれない、と。


「…ただし」


サスキアの声のトーンが、ほんの少しだけ、しかし確実に変わった。

静かだが、抗うことのできない響き。


「自由な時間とはいえ、いくつか守っていただきたいルールがあります。一つは、門限。そして、これはセキュリティ上の、非常に重要な問題ですので、必ず守っていただきますが、ビルへの入退出時間は必ず記録させていただき、外出される際の訪問先についても、事前に、簡単で結構ですので、私に申告していただきます」


彼女は、そこで言葉を切り、一人一人の目を、射抜くように見つめた。


「これは、万が一、あなたたちの身に何かあった場合に、我々が迅速に対応できるようにするため、そして、我々が扱う情報の機密性を守るための、最低限の措置です。よろしいですね?」


笑顔は保たれたままだったが、その瞳の奥にある光は、一切の反論や誤魔化しを許さない、絶対的な意志を物語っていた。

スマホ制限という『鞭』の後に、連絡や外出の自由という『飴』を与え、そして最後に、行動管理という『見えない手綱』をしっかりと握る。

その、あまりにも巧みで、計算され尽くした説明。


少女たちは、もはや、そのサスキアの言葉に異を唱えることなどできなかった。


「自由時間があるなら…」

「ちゃんと連絡も取れるし…」

「安全のためなら仕方ないか…」


そんな風に、自分たちに言い聞かせるように、あるいは、もう考えることを放棄したかのように、こくり、こくりと頷いた。美咲や真奈が、その『報告義務』に一瞬、眉をひそめたような気もしたが、すぐに他のメンバーと同じように、静かに同意を示していた。


(これで、よし…と。不安要素を取り除き、適度な自由を与えることで、管理されているという意識を薄れさせる。しかし、行動は完全に把握できる。あとは、この子たちが、どれだけ素直に『教育』を受け入れてくれるか…存外、早く『使い物』になるかもしれないわね)


「それでは、皆さん。まずは、ご家族と保護司の方へのご説明、頑張ってくださいね。同意書、お待ちしていますよ」


その声は、どこまでも優しく聞こえる。

しかし、その響きの奥には、有無を言わせぬ絶対的な圧力が潜んでいた。

少女たちは、それぞれのファイルを受け取り、高給と特別ボーナスへの期待、サスキアへの複雑な憧れ、そして拭いきれない不安を胸に、重い足取りでオフィスを出ていこうとした。


その、まさにドアに手をかけようとした瞬間だった。


「――あ、それから、最後に一つだけ」


サスキアの、静かだが凛とした声が、彼女たちを呼び止めた。少女たちは、少し驚いて振り返る。

サスキアは、先ほどと同じ、穏やかな微笑みを浮かべていた。

そのブルーグレーの瞳には、厳しい光ではなく、心配するような、優しい色が浮かんでいるように見えた。


「皆さん、最近はSNSなど、とても便利なものがたくさんありますけれど」


彼女は、まるで親しい年上のお姉さんが妹に語りかけるかのように、柔らかい口調で続けた。


「不用意な書き込みが、時には、思わぬ誤解や、誰かを傷つけるトラブルを招いてしまうこともありますわ。特に、これから皆さんが関わるお仕事の内容や、お店で知ったことなどは、たとえ悪気がなくても、外部の方の目に触れないように、十分に注意してくださいね。それも、大切な『守秘義務』の一つですから。…皆さんのためを思って、念のため、お伝えしておきますね」


それは、厳しい警告ではなく、社会に出る彼女たちへの、心からのアドバイスのように聞こえた。


(…そっか。ネットとか、気をつけないとだよね)

(サスキアさん、あたしたちのこと、ちゃんと心配してくれてるんだ…)

(やっぱり、すごいな、この人…)


少女たちは、サスキアの細やかな配慮に、素直に「はい、気をつけます」「ありがとうございます」と頷いた。

先ほどまでの説明で感じていた緊張感は和らぎ、むしろ、彼女への尊敬と憧れの気持ちが、さらに強まったようだった。


「…結構です」


サスキアは、満足そうに頷くと、再び完璧な、そして今度は本当に優しく温かく見える微笑みを浮かべた。


「では、今日はこれで。同意書、楽しみにしていますわ」


今度こそ、少女たちは、不安よりも大きな期待と、サスキアへの憧れを胸いっぱいに抱きながら、明るい気持ちでオフィスを後にした。

残されたのは、静かに微笑みながら彼女たちを見送るサスキアと、加湿器の立てる穏やかな音だけだった。


(…ふふ、素直でよろしい。まあ、この程度の注意で理解してくれるなら、それに越したことはないわね。もし何かあれば、その時は…その時に、また別の『教育』をすればいいだけのこと)


サスキアは、内心の冷徹な計算を完璧に隠したまま、静かにデスクに戻り、再び自分の仕事へと意識を集中させた。

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