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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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空虚な椅子と、歪な礎石 其二

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


エミリアは、目の前で、上質なツイードのスーツの袖口で、そっと涙を拭う小野寺雅美の姿を、静かに、そして、一切の感情を読み取らせない、深い湖面のような碧眼で見つめていた。

彼女が語る物語――裕福な老夫、身に覚えのない隠し子、執拗な生前贈与の要求、そして、タイミングの良すぎる顧問弁護士のひき逃げ事件――は、荒唐無稽ではあったが、その声に含まれる恐怖と絶望は、紛れもなく本物だった。


(…なるほど。古典的だけど、厄介な手口ね。隠し子を名乗る男自身は、おそらくただの捨て駒。問題は、その背後で糸を引いている、チンピラレベルだが、悪知恵だけは働く連中か…)


エミリアの思考は、瞬時に状況の核心を分析する。

彼女にとって、この程度の、素人集団が仕掛けたであろう詐欺と脅迫を解決すること自体は、赤子の手をひねるよりも、おそらくは容易いだろう。

情報屋を使えば、男の正体も、背後のグループも、一日とかからずに割り出せる。

証拠を掴んで、彼らが二度と小野寺夫妻に近づけないように『説得』することも。


(…けれど、正直、面倒だわ…)


それが、彼女の偽らざる第一印象だった。

今の彼女の頭の中は、週末の福岡での出来事の後始末(井上と由紀への「お仕置き」の最終段階)と、そして、何よりも、隣のデスクで、今もおそらく、彼女の次の指示を待っているであろう、佐藤健のことで、ほぼ占められているのだ。

できれば、近々、健ちゃんと二人きりで、北海道の、あの美しい湖畔の別荘候補地の『調査』にでも行って、ゆっくりと、…そう、彼の『成長』を見守りたかった。

こんな、ありふれた、しかし、後処理に手間がかかりそうなトラブルに、貴重な時間とリソースを割いている場合ではない。


(でも、無視するわけにもいかない…か)


彼女は、内心で、冷ややかに状況を再評価する。

目の前で、か細く震えながらも、必死で助けを求めている、この教養も身分もある女性を、無下に突き放すのは、後味が悪い。

それに、もし自分が断れば、隣にいる、お人好しの健ちゃんは、きっと、後で「僕たちで、何かできることはなかったのかな…」などと、言い出しかねない。それもまた、面倒だ。


そして、何よりも――このビル。

エミリアの思考が、一点に収束し、その碧眼に、鋭い、計算の光が宿った。

今、自分たちが事務所を構える、この、古く、曰く付きで、だからこそ都合の良い、雑居ビル。

もし、小野寺夫妻が、今回の件で、精神的、あるいは経済的に、さらに追い詰められ、このビルを手放さざるを得なくなったら? その所有権が、もし、あの正体不明の、悪意ある連中の手に渡ってしまったら…? それは、自分たちの活動拠点としての安全性、秘匿性を、根本から揺るがす脅威となる。

健ちゃんとの、今の、ささやかな(と彼女は感じている)平穏な日常も、そして、これから自分が歩もうとしている、裏社会からの『引退』へと続く、長い、長い未来への設計図も、全てが、台無しになるかもしれない。


そう考えると、結論は、一瞬で出た。

この問題は、解決しなければならない。

それも、迅速に、そして、自分にとって、最大限の利益を伴う形で。


(…そうよ。どうせ、このビルは、いずれ、私が、完全に手に入れるつもりだったのだから)


エミリアの脳裏に、以前から、密かに、しかし着実に温めていた計画が、鮮明に蘇る。

この、曰く付きだが、戦略的価値は計り知れないビルを、完全に自分の支配下に置き、活動の『礎石』とする計画。

当初は、適当なタイミングで、ペーパーカンパニーを使って、市場価格(おそらく、二束三文だろう)で、あるいは、オーナーの別の弱み(相続税対策の必要性など)につけ込んで、『購入』するつもりだった。


(…でも、待って。この状況なら…もっと、スマートで、効率的な方法があるじゃない…?)


彼女の、コンピューターのように高速で回転する思考が、新たな、より有利な解を導き出した。


目の前の、小野寺雅美。


彼女は、ただの若く美しい後妻ではない。

夫から、非常時の対応を任されるほどの信頼を得ており、かつ、絶望的な状況下でも、冷静さを失わず、エミリアという『最後の切り札』に辿り着くほどの、したたかな知性と行動力を持つ女性だ。

そして、彼女(と、彼女の夫)は、今、喉から手が出るほど、この『隠し子騒動』の、迅速かつ秘密裏な解決を欲している。


(…そう、ただ「買う」必要はない。彼女に、この厄介事を、完璧に、そして秘密裏に解決する「代価」として、この、彼女たちにとってもはや「お荷物」でしかないビルを、『報酬』として、私に、喜んで、差し出させればいい…!)


エミリアの口元に、ほんのわずかに、しかし、確かな、怜悧な光を宿した笑みが浮かんだ。

それは、複雑に絡み合った方程式が一瞬で解けた時のような、あるいは、完璧なチェックメイトの手順を思いついた時のような、彼女の卓越した知性が、冷たく、しかし鮮やかに煌めく瞬間だった。

予期せぬ面倒な依頼が、一転して、自身の長年の計画を、より有利に、より迅速に、そして、よりエレガントに、達成するための、絶好の機会へと変わったのだ。


彼女は、目の前の、まだ助けを求めて縋るような目で見つめてくる若奥様に、最高の、そして、最も効果的な『提案』をする準備が、できた。


「――健ちゃん。サスキアと相談して、親子鑑定に必要なDNA鑑定のキットの手配をお願いしてくれる? 今、至急扱いで頼めば、一時間ほどで、専門のデリバリーが届けてくれると思うから。それと、念のため、他のお客様からの問い合わせが来ていないか、メールと留守電のチェックもお願いするわ。私は、小野寺様と、これから、もう少し『お仕事』の詳細について、すり合わせをする必要があるから」


エミリアは、柔らかだが、有無を言わせぬ口調で、佐藤に指示を与えた。

その声には、感情的な響きは微塵もない。

完全に、冷静なプロフェッショナルのそれだった。


佐藤は、エミリアに頼まれた内容――DNA鑑定キット――から、彼女が今回の『隠し子騒動』を、法医学という、極めて賢い(そして、彼にとっては予想外の)アプローチで解決しようとしているのだろう、と瞬時に判断した。


(さすが、エミリアだ…僕なんかじゃ、思いつきもしない…)


彼は、内心で感嘆しつつ、「わ、わかった。すぐに手配するよ」と頷くと、小野寺雅美に「申し訳ありません、少し席を外します」と丁寧に一礼し、サスキアのいる受付カウンターへと向かった。


パタン、と応接スペースを仕切る、すりガラスのドアが閉まる。

部屋には、エミリアと雅美、二人だけが残された。

先ほどまでの、張り詰めた空気の中に、新たな、より密度の濃い、共犯者同士のような、あるいは、尋問者と被疑者のような、奇妙な緊張感が漂い始める。


「それでは、小野寺様」


エミリアの雰囲気が、ふわり、と変わった。

先ほどまでの、怜悧なビジネスウーマンの仮面が、一枚、剥がれ落ちたかのようだ。

その代わりに現れたのは、どこか、悪戯を思いついて、目を輝かせている、無邪気な子供のような…しかし、その瞳の奥には、底知れない、冷徹な計算が宿っている、アンバランスな表情だった。

雅美は、その変貌に、言いようのない不安を感じ、思わず身構えた。


「ここから先のお話は、後々の、いかなる問題も避けるために、わたくしたち、二人だけの『秘密』ということで、お願いできますわね?」


エミリアは、美しい微笑みを浮かべている。

しかし、その言葉は、確認ではなく、決定事項の通告だった。

雅美は、ただ、こくりと頷くしかない。


「よろしい」


エミリアは満足げに頷くと、本題に入った。


「先ほど、佐藤に指示しました通り、親子鑑定に必要な、最新のDNA鑑定キットは、既に発注いたしました。おそらく、一時間以内に、信頼できる業者から届けられるでしょう。つきましては、大変、申し訳ありませんが、まずは、ご主人様のDNAサンプルを、採取していただく必要がございます」


彼女は、まるで、紅茶の淹れ方でも説明するかのように、淡々と続ける。


「といっても、簡単なことですわ。キットの中に、滅菌された綿棒のようなものが入っておりますので、それを、ご主人様の口腔内の粘膜…頬の内側ですね、そこに、数回、軽くこすりつけていただくだけです。痛みも、不快感も、ほとんどございません。すぐに終わります。詳しい手順は、キットに同封されている、分かりやすい説明書をお読みになれば、すぐに、ご理解いただけるかと存じます。採取後のサンプルは、厳重に封をして、指定の機関へ送る手筈になっております」


エミリアが、淀みなく、事務的に話す内容を、雅美は、必死に頭の中で整理し、理解した。

夫のDNAサンプル採取は、問題ないだろう。

夫自身も、この問題の解決を強く望んでいるのだから。しかし、問題は…。


「あの…」


雅美は、最も根本的な、そして、最も困難な疑問を、恐る恐る口にした。


「そのようなご相談は、エミリア様のようなプロの方にお聞きするのは、大変失礼かと存じますが、…一つ、確認させていただけますでしょうか?」


エミリアは、黙って、先を促すように、わずかに顎を上げた。


「その…隠し子だと名乗り出ている、『村田健二』という男ですが…。彼が、そのような、DNAでの親子鑑定に、素直に協力するとは、到底、思えないのですが…? おそらく、全力で拒否するか、あるいは、逃げてしまうのでは…?」


その、あまりにも当然な、そして核心を突いた疑問に、エミリアは、まるで「ああ、そのことをお忘れでしたか?」とでも言うかのように、肩をすくめ、涼やかな、しかし、絶対的な自信に満ちた声で告げた。


「ああ、そのことですか。ご心配には及びませんわ、小野寺様」


彼女の碧眼が、怜悧な光を宿して、細められる。


「彼のDNAサンプルは、私が、直接、採取いたしますので」


「え…?」


雅美は、息を呑んだ。


「例えば、そうですね…」


エミリアは、まるで、今日の天気でも話すかのように、こともなげに続ける。


「街中で、偶然、彼とすれ違う。あるいは、彼がよく行くであろう、安酒場か、パチンコ店あたりで、少しだけ『接触』する。その際にでも、…そう、ほんの数本で結構ですのよ、彼の毛髪を、…ええ、気づかれずに、引き抜きますので。最近の鑑定技術は素晴らしいですから、毛根さえあれば、それで、親子関係は、ほぼ、確実に判定できますわ」


その、あまりにも、あっけらかんとした、しかし、実行されるであろう、恐ろしいほど確実な『採取』方法の説明に、雅美は、言葉を失った。

目の前の、この若く美しい女性は、一体、何者なのだろうか…?


「もちろん、」


エミリアは、雅美の動揺を見透かすように、冷静に付け加えた。


「そのような方法で採取したDNA鑑定の結果は、日本の法廷では、証拠として採用されないでしょう。それは、わたくしも理解しております」

「では…!」


雅美は、わずかな希望が見えたと思った直後に、再び突き落とされたような気持ちになる。


「しかし、ご安心ください」


エミリアは、優雅に微笑んだ。


「裁判で使う必要など、ございませんのよ。その『科学的な真実』は、別の目的のために、使わせていただきます」


彼女の声が、再び、氷のように冷たくなる。


「その辺は、…そうですね、わたくしたちの世界には、お相手に、物事の道理を、深く、深く、ご理解いただくための、『説得のプロ』が、何人もおりますので」


彼女が言う『説得のプロ』が、通常の弁護士や交渉人でないことは、雅美にも、嫌というほど理解できた。


「あとは、その『説得のプロ』が、鑑定結果という『事実』を元に、彼…そして、おそらくは、彼の背後にいるであろう、質の悪い連中に、『お話』をしてくれますわ。結果として、二度と、小野寺様ご夫妻に関わらないという念書でも、あるいは、より確実な、公証役場での公正証書でも、…ご希望の形で、『形ある謝罪』と、『未来永劫の平穏』を、必ずや、手に入れられるはずですわ」


エミリアは、そこまで言うと、再び、完璧な、しかし、もはや雅美には悪魔の微笑みにしか見えない、美しい笑顔を向けた。彼女の提示した解決策は、あまりにも、常識からかけ離れ、暴力的で、しかし、…恐ろしいほどに、確実に見えた。


エミリアは、小野寺雅美の、涙ながらの、しかし計算された訴えを、静かに、そして表情一つ変えずに聞いていた。

彼女が語る物語の細部に、嘘や誇張がないかを、その碧眼は冷徹に見極めようとしている。

部屋には、空調の微かな作動音と、テーブルの上で冷めていく紅茶の香り、そして、雅美のかすかな嗚咽だけが響いていた。


やがて、雅美が言葉を切り、ハンカチで目元をそっと押さえるのを待って、エミリアは、まるで長年のビジネスパートナーに語りかけるかのように、静かに、しかし核心を突く口調で、話題を変えた。


「…さて、小野寺様。大変デリケートで、かつ、緊急性の高い問題であることは、よく理解いたしました。それで、今回の、この特殊な『トラブル解決』に対する、わたくしどもへの『解決料』…つまり、報酬についてですが」


その、あまりにも唐突な、しかし、ビジネスライクな切り替えに、雅美は一瞬、面食らった。

しかし、彼女もまた、ただの若く美しいだけの後妻ではない。

夫の資産管理の一部を任され、厳しい交渉も経験してきたであろう、したたかな女性だ。

彼女は、すぐに表情を引き締め、警戒心を露わにした。

裏社会にも顔が利くと噂されるこの若い女性が、どれほどの額を吹っ掛けてくるのか、と。

しかし、同時に、法外な要求であれば、断固として突っぱねるという、経営者一族の妻としてのプライドと覚悟も、その瞳の奥に宿していた。


エミリアは、そんな雅美の内心の葛藤を見透かすかのように、続けた。


「不動産賃貸業というのは、キャッシュフローは安定しているかもしれませんが、そのポートフォリオの大部分を占める資産の、換金性の低さが、時として、経営の足枷になることもある、とお聞きしております」


それは、一般的な経営論のようであり、しかし、明らかに、小野寺家の現状を正確に分析した上での言葉だった。


「おそらく、長年お付き合いのあるメインバンクに、今回の件の解決費用として、…例えば、高額な、『使途不明』な現金を、急に融資してほしい、などと頼んだとしても、…コンプライアンスが厳しくなった今の時代、銀行側も、その資金使途について、かなり面倒な説明を求めてくることになるでしょう。それは、避けたいはずですわね?」


エミリアは、説得というよりは、ただ、否定しようのない客観的な事実を、一つ一つ、テーブルの上に並べていく。

その声は、どこまでも冷静で、相手の反論を許さない。


「そこで、ご提案なのですが」


エミリアは、一呼吸置き、そして、決定的な一言を、静かに、しかし、重い響きを持って口にした。


「この、現在、わたくしどもの事務所が開設されております、この雑居ビル。…お話を伺う限り、多くのテナントが退去され、今後の収益性も見込めず、維持管理費だけがかさむ、…失礼ながら、小野寺様のポートフォリオにおいては、『不良債権』に近い区分に分類されてしまうであろう、この建物を、今回の依頼の報酬として、わたくしどもに譲渡していただく、というのは、いかがでしょうか?」


エミリアは、口外には出さなかったが、その瞳は明確に語っていた。


(私を、この『影の女王』を、この危険な火中の栗を拾わせるというのなら、その対価は、安くはないわよ。現金で払えないというなら、あなたの『お荷物』で、手を打ちましょう)と。


「そ、そんな…!」


雅美は、予想外の、しかし、ある意味で、最も恐れていた提案に、思わず声を上げた。


「このビルは、確かに古いですが、それでも、先代から受け継いだ、夫にとっては、思い入れのある、大切な…! 不動産業で、細々と糊口をしのいでいる私どもにとって、その、大切な『土地』と『建物』を、報酬としてよこせとは…。あまりにも、…無体な、ご要求ではございませんか!」


雅美は、今度は、本物の動揺と、屈辱に、袖口で涙を拭うふりをしながら、しかし、その声には確かな怒りを込めて、抗議した。


だが、彼女の内心は、複雑だった。

エミリアの指摘は、痛いほど正確だったのだ。

このビルは、もはや収益を生むどころか、固定資産税と、老朽化による将来的な修繕・解体費用を考えると、完全なお荷物。

隣接地区の再開発放棄による、周辺環境の悪化も著しい。

売ろうにも買い手がつかず、解体費用を考えれば、むしろマイナスになる可能性さえある。

それに比べれば、あの、忌々しい『隠し子』問題と、それに伴う計り知れないリスク(スキャンダル、夫の心労、弁護士への襲撃…)を、このビル一つで、完全に解決できるというのなら…それは、経営判断として、『安い買い物』なのかもしれない。


しかし、ここで、はいそうですか、と簡単に引き下がるのは、小野寺家の、そして、彼女自身のプライドが許さなかった。

彼女は、時間稼ぎと、わずかな値引き交渉の望みを託して、言葉を継いだ。


「あの、…とは申しましても、このビルを、わたくしの一存で、今すぐ、依頼料としてお渡しするなどということは、とてもとても…。夫とも、他の関係者とも、相談しませんことには…」


時間をかけて、交渉すれば、あるいは、別の条件を引き出せるかもしれない。

そう考えた、雅美の、浅はかな、あるいは、必死の抵抗を、エミリアは、たった一言で、冷徹に、そして完全に打ち砕いた。


「小野寺様。その『隠し子』を名乗る男…そして、その背後にいるであろう、質の悪い連中は、あなたが考えているほど、悠長に待ってはくれませんよ?」


エミリアの声は、静かだったが、その響きは、鋭利な氷の刃のように、雅美の心に突き刺さった。


「もし、彼らが、しびれを切らして、『自分は、小野寺幸三の子供だ』と言いふらしながら、…例えば、闇金や、もっとたちの悪いところから、あなたの旦那様の名前で、あるいは、あなたの名前で、多額の借金を重ねて、それを全て、あなた方に押し付けてきたら? …そうなれば、今回の報酬(ビル一棟)どころではない、大変な手間と、そして、桁違いの『解決費用』がかかることになりますよ? …それでも、あなたは、時間をかけますか?」


エミリアの、その、あまりにも具体的で、そして、十分に起こりうる可能性を示唆する言葉に、雅美は、完全に言葉を失った。

そうだ、相手は、まともな人間ではないのだ。

時間をかければかけるほど、リスクは増大する。


彼女は、目の前の、若く、美しい、しかし、底知れない知性と冷徹さを秘めた女性を見た。

この女性は、自分たちの弱みを完全に見抜き、そして、最善(彼女にとっての)の解決策を提示している。

答えは一つしかない。


「……承知、いたしました」


雅美は、絞り出すような声で、そう答えるのが、精一杯だった。

彼女は、自らのプライドと、そして、長年、夫と共に守ってきた(と思い込んでいた)資産の一部を、この、二十歳そこそこの、異国の少女に、差し出すことを、決断したのだ。

エミリアは、その言葉を聞くと、ようやく、ほんのわずかに、口元に満足げな笑みを浮かべた。


                    ***


エミリアの、静かだが、有無を言わせぬ最後通牒にも似た言葉に、小野寺雅美は、しばらくの間、ただ、黙って俯いていた。

彼女の肩が、わずかに震えている。

しかし、やがて、彼女は、意を決したように、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、もはや涙はなく、代わりに、全てを受け入れ、この難局を乗り切るという、経営者の妻としての、あるいは、一人の女性としての、強い覚悟の色が浮かんでいた。


「…承知、いたしました、エミリア様。あなたの、…ご提案を、お受けいたします。このビルで、よろしければ…」


方針が決まれば、話は驚くほど早かった。

雅美は、自身のスマートフォン(おそらく、仕事用の別のものだろう)を取り出すと、常日頃から懇意にしている専門家たちへ、矢継ぎ早に、しかし、その声は冷静さを取り戻し、的確な指示を出し始めた。

腕利きの不動産鑑定士へは、ビルの現状評価と、可及的速やかな名義変更のための書類作成準備を。顧問税理士へは、今回の特殊な取引(報酬としての不動産譲渡)における、最適な税務処理方法の検討を。

そして、入院中の古川弁護士の事務所へ連絡を取り、彼の信頼できる同僚弁護士に、今回の所有権移転に関する、法的な手続きの一切を、可及的速やかに、かつ、完璧に進めるよう、依頼した。

移転先は、エミリアがその場で指定した、タックスヘイブンに登記された、およそ実態があるとは思えない社名のペーパーカンパニー。

その複雑な手続きを、雅美は、淀みなく、指示していく。

その姿には、もはや先ほどの、助けを求める弱々しい女性の面影はなかった。


エミリアは、その様子を、静かに、しかし満足げに観察しながら、自身のスマートフォンを、再び手に取っていた。

彼女の指先が、暗号化されたメッセージアプリの画面上を、滑るように動く。

情報屋への、新たな、そして具体的な指示だ。


『ターゲット:ムラタ ケンジ。現在時刻より、三時間、位置情報をリアルタイムで報告。行動予測も付加せよ。報酬、トリプルレート承認』


送信して、わずか数十秒。

エミリアのスマートフォンに、応答を示す通知が、次々と表示され始めた。


『対象、現在、□□駅東口、ネットカフェ「〇〇」B3F、17番ブースに潜伏中』

『過去の行動データより分析。対象は、19時前後に空腹を覚え、近隣の豚骨ラーメン店「△△」へ向かう可能性、75%以上』

『現時点での接触リスク評価:レベル2(低)。ただし、周辺に、彼の仲間と思われる人物、数名が遊弋ゆうよくしている情報あり。注意されたし』


エミリアの元に、まるで衛星からのリアルタイム映像でも見るかのように、次々と集まってくる、村田健二という男の、詳細な現在地と、数時間後の未来予測。

その、あまりにも異質な情報収集能力を目の当たりにして、電話連絡を終えた雅美は、さすがに、驚きで目を丸くしていた。

言葉には出さないが、その表情は、「あなたはいったい、何者なのですか…?」と、雄弁に語っていた。


エミリアは、そんな雅美の視線に気づくと、ただ、悪戯っぽく、人差し指を自分の唇に当てて、静かに微笑んだ。

詳細は、もちろん、何も語らない。それが、彼女の流儀だった。


ちょうどその時、応接スペースの、閉じられたドアの外から、佐藤の、少し遠慮がちな声がかけられた。


「あ、あの、エミリアさん? 忙しいところ、ごめん。頼まれていた、DNAの鑑定キットが、急ぎで届いたんだけど…」

「ありがとう、健ちゃん!」


エミリアは、ぱっと立ち上がると、ドアを開け、佐藤から、厳重に封をされた、医療機関のものらしい、しっかりとした箱を受け取った。


「助かったわ」


彼女は、佐藤に労いの言葉をかけると、すぐに雅美に向き直り、その箱を、まるで重要な証拠品か、あるいは、未来への鍵であるかのように、丁重に、彼女の前に差し出した。


「小野寺様。こちらが、お約束のDNA鑑定キットです。ご主人様のサンプル採取、よろしくお願いいたします」


そして、安心させるように、しかし、その言葉には絶対的な自信を込めて、付け加えた。


「今回の件は、わたくしどもが責任を持って、数日以内に、必ずや、終わらせますので。今夜は、どうぞ、枕を高くして、ゆっくりお休みくださいませ」


エミリアにとって、もはや、小野寺家の『隠し子』騒動は、解決への道筋が見えた、『過去の話』になりつつあった。


彼女の思考は、既に、今夜、ラーメンを食べに出てくるであろう、哀れなターゲット…村田健二への、確実な『サンプル採取』作戦へと、移行していたのだから。


                    ***


小野寺雅美は、エミリアからの、絶対的な自信に満ちた(そして、それが故に、少しだけ恐ろしい)解決の約束と、手渡されたDNA鑑定キットを、震える手で、しかし、希望を託すように、確かに受け取った。

彼女は、改めて深々と頭を下げると、待機していたサスキアにエスコートされる形で、事務所を後にした。

彼女の、高価だが控えめな香水の香りが、リビングスペースに、わずかに残っている。


パタン、と重厚なオフィスドアが閉まり、外界の音を再び遮断すると、部屋には、エミリアと佐藤、そして、受付で静かに業務に戻ったサスキアの気配だけが残された。

先ほどまでの、依頼人とコンサルタントという、緊張感のある『表』の空気は消え去り、いつもの、奇妙な日常の空気が戻ってくる。


エミリアは、雅美が座っていたソファの、まだ温もりが残る場所に、まるで女王が玉座に座るかのように、ゆったりと腰を下ろした。

そして、先ほどの依頼人に見せていた、完璧にコントロールされた表情ではなく、もっと素に近い、…しかし、これから始まる『ゲーム』を前にして、どこか楽しげで、猫のように、瞳の奥をキラキラと輝かせた表情で、まだ少し呆然としている佐藤を手招きした。


「さて、健ちゃん。面倒な『お客様』対応は、ご苦労様。次は、私たちの、楽しい『実務』の時間よ」


彼女は、大型モニターに、情報屋から送らせておいた(あるいは、今この瞬間も、リアルタイムで更新されている)、村田健二に関する詳細な行動分析レポート…彼の立ち寄り先、移動ルート、そして、今現在の居場所を示すマップ…を、再び表示させた。


「ターゲット…村田健二の、今夜の予測ルートと、最適な『接触』ポイントは、ほぼ確定したわね」


エミリアは、モニターに表示された、おそらくは都内の、雑然とした裏通りの地図上の一点を、細い指先で、トン、と示した。


「問題は、どうやって、彼から、確実に、そしてスマートに、『物証ぶっしょう』…まあ、『記念品』でもいいわ、今回の依頼達成に不可欠な、アレをいただくか、ね」


彼女の口元には、これから始まる、彼女にとっては簡単な『ゲーム』の詳細を語る、悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。


「今回の作戦は、至ってシンプルよ」


エミリアは、続ける。

その声は、まるで、子供に、簡単な遊びのルールでも説明するかのように、軽やかで、楽しそうだ。


「健ちゃんの協力が、ほんの少しだけ必要だけど、あなたが危険な目に遭う可能性は、限りなくゼロに近いわ。大丈夫、私が保証する。むしろ、健ちゃんにとっては、こういう、教科書には載っていない『交渉術』(?)…いえ、『問題解決スキル』もあるんだって、社会経験として学ぶ、良い『教材』になるかもしれないわね?」


彼女は、モニターの横に置かれたホワイトボード(いつの間に用意したのだろう?)に、簡単な見取り図を、マーカーで、さらさらと描き始めた。

二本の平行線(道路)、小さな四角(ターゲットが潜伏中のネットカフェ)、少し離れた場所の別の四角(彼が好物だという、豚骨ラーメン屋)、そして、その間を結ぶ、人通りの少ない、最短ルートを示す点線。


「いいこと、健ちゃん」


エミリアは、佐藤に向き直り、悪戯っぽく、人差し指を立てた。


「ターゲット…村田が、今夜、予測通り、おそらく19時過ぎに、いつもの薄暗いネットカフェを出て、あの、油と豚骨の匂いが染みついたラーメン屋に向かうはずよ。その、明かりも少ない、人通りの少ない裏道を、おそらくは、イヤホンで音楽でも聴きながら、警戒心ゼロで歩いている時が、絶好のチャンスよ」


彼女は、ホワイトボードの点線上に、小さな、少し猫背気味の人型の絵を描き加えた。


「私が、彼の真後ろに、足音も、気配も、完全に消して、ぴったりと付く。まるで、彼の影の一部になったみたいにね」


エミリアの瞳が、狩人のように細められる。


「健ちゃんは、少し離れた、この、見通しの良い角のところに、私の、あの可愛い白いコンパクトカーを、エンジンをかけたまま、ライトを消して、停めて、待機していてほしいの」


彼女は、人型の少し手前の、道路の角に、車の絵を描く。


「そして、私が、ターゲットの真後ろ、最適な距離…そうね、手を伸ばせば、彼の髪に触れられるくらいの距離…に入った瞬間…こうやって、後ろ手に組んだ、私の右手を、…そうね、分かりやすく、三回、軽く、くいっ、くいっ、くいっ、て上げるわ。それが、合図よ」


エミリアは、その場で、しなやかに、そして優雅な仕草で、後ろ手に組んだ右手を、小さく三度、上げて見せた。

暗闇の中でも、その白い手は、はっきりと見えるだろう。


「その合図を見たら、健ちゃんは、躊躇なく、コンマ一秒も遅れずに、車のクラクションを、一回だけ、短く、しかし、夜の静寂を切り裂くくらい、鋭く、鳴らすの。プッ!てね。わかる?」

「え、ええっ!? クラクション!? こんな時間に!?」


佐藤は、思わず素っ頓狂な声を上げた。

ただでさえ目立たないように行動するべきなのに、なぜわざわざ音を立てるのか、彼には全く理解できない。


「そう、クラクションよ」


エミリアは、にっこりと、まるで良いことを教えてあげる先生のように、頷く。


「あの手の、プライドだけが高くて、常に自分が世界の中心だと思い込んでいるような、短絡的なタイプの人っていうのはね、予期せぬ、大きな音…特に、自分に向けられた(と、彼らが勝手に思い込む)車のクラクションみたいな、直接的で、侮辱的な音を聞くと、瞬間的に、反射的に、頭に血が上って、思考が完全に停止し、全ての意識が、音のした方向(つまり、健ちゃんの車の方)に、条件反射で向くのよ。『なんだ、テメェ!』って感じでね。カッー!っとなってね。その、ほんの一瞬だけど、彼らにとっては永遠のような瞬間は、他の感覚…例えば、後ろから、髪を数本、そっと、風に舞う羽のように、引き抜かれるくらいの、ほんのわずかな、チクッとする痛みなんて、全く、これっぽっちも、感じなくなるものなのよ」


彼女は、まるで、熟練の心理学者が、被験者の行動パターンでも解説するかのように、こともなげに言った。

その自信に満ちた口調に、佐藤は、そんなものなのだろうか、と、半信半疑ながらも、反論する言葉を失った。


「私が、無事に『記念品』(ターゲットの毛髪ね)を採取したら、すぐに、健ちゃんが持っている、あのDNA鑑定キットに付属している、専用の滅菌済みビニールパケに、特殊なピンセットで、指紋一つつけずに、入れて、完璧に封をする。もちろん、ターゲットにも、彼の周りにいるかもしれない、つまらない仲間にも、気づかれずにね」


彼女の声は、楽しそうだ。


「そして、私は、そのまま、夜の闇に溶け込むように、音もなく、現場から離脱するわ。佐藤も、私が完全に離れたのを、ルームミラーで確認したら、すぐに車を発進させて、何事もなかったかのように、その場を離れる。合流地点は、また後で、安全な場所を指示する。…どう? 完璧で、エレガントで、そして、実にシンプルな作戦でしょう?」


エミリアは、完璧な計画を披露し終えた芸術家のように、満足げに微笑んだ。


「そ、それに…」


エミリアは、さらに、安心させるように付け加えた。


「もし、村田が、彼の取り巻き連中と一緒にいたとしても、心配ないわ。あの手の連中は、似た者同士、思考も行動も、驚くほど単純で、同じようなパターンをとるから。リーダー格(?)の村田が、クラクションに気を取られれば、他の連中も、条件反射で、つられて、そっちに意識が向くはずよ。予想外の行動で、作戦を邪魔される心配は、まず、ないわ」


あっけらかんと言うエミリアに、しかし、佐藤は、どうしても拭いきれない、現実的な不安を感じて、恐る恐る、確認を求めた。


「で、でも、エミリア。もし、その…村田とか、その取り巻きが、僕たちが乗ってる、エミリアの、あの、白いコンパクトカーのナンバープレートを覚えていて、…それで、エミリアが使ってるみたいな、その…情報屋とかに頼んで、車の持ち主を調べたりしたら…やっぱり、それは、危険なんじゃないの?」


エミリアは、その、佐藤の、あまりにも常識的で、真っ当で、そして、彼女からすれば、少しだけ『可愛い』心配を聞いて、今度は、悪戯っ子のように、声を立てて、くすくすと笑った。


「あっはは! 健ちゃん、あなた、本当に、そういうところ、真面目で、可愛いわねぇ!」


彼女は、笑いながら、まるで猫にするように、佐藤の頭を、わしゃわしゃと、少し乱暴に撫でた。


「いいこと、健ちゃん」


彼女は、笑いながらも、その瞳の奥に、再び、冷たい光を宿して言った。


「もし、万が一、あの、頭の軽い、程度の低い連中が、情報屋を使うほどの知恵と、僅かばかりのコネクションを持っていたとしても、…そして、私の、この可愛い愛車のナンバーを、彼らが調べようとしたとしてもよ? まともな情報屋なら、その依頼を受けた瞬間に、『これは、あの、エミリア・シュナイダー絡みの案件だ』って、即座に気づいて、震え上がるわ」


彼女の瞳が、絶対的な自信と共に、再び、冷たく光る。


「そして、彼らは、村田たちには、適当な嘘の情報(例えば、『該当車両は盗難届が出ています』とか、『システムエラーで所有者情報は照会できませんでした』とか)でも掴ませて、丁重に、しかし、きっぱりと、その依頼を断るか、あるいは、危険を承知で、逆に私に情報を売ってくるわよ。だって、そうでしょう?」


彼女は、諭すように言った。


「私の車の情報を、あんな、利用価値も低い、チンピラ以下の連中に売るなんて、その情報屋は、私に、あるいは、私の背後にいるかもしれない、もっと大きな存在に、『喧嘩を売る』のと同じことだもの。そんな、自分の破滅に繋がるような、愚かな行為をする馬鹿な情報屋が、この東京にいると思う? …彼らにとって、自分の身の安全を守ることこそが、何よりも優先されるべき、危機管理の基本中の基本として、最初に学ぶことよ」


佐藤は、エミリアの言う事は、おそらく、そうなのだろう、と思った。

彼女が動く、裏社会のルールは、彼の常識や倫理観とは、全く違う次元にあるのだ。

しかし、それを、今、ここで、これ以上、詳しく知りたいとは、どうしても思えなかった。

聞いても、本当のところは、きっと、自分には分からないだろうし、何より、もし、万が一、何かトラブルになったとしても、エミリアなら、きっと、いつものように、涼しい顔で、全てを簡単に『返り討ち』にしてしまうのだろう、と、彼は、もはや諦めに近い、妙な確信を持っていたからだ。

彼は、ただ、小さく、そして深く、頷いた。

エミリアの、自信に満ちた、そして、少しだけ楽しそうな笑顔が、やけに眩しく感じられた。

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