影の女王の逆鱗 其十三
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
日曜日の午前。
福岡県警の刑事たちが、彼女の周到な『物語』の前に、一旦、引き下がっていった後。
エミリアの行動は、即座に、しかし、水が流れるように静かに、次の段階へと移行していた。
まず、彼女はセキュアな通信で、福岡市内に潜伏させていた『専門業者』に、『道具』を預ける。
彼女の身体の一部とも言える拳銃とその付属品…の、東京への返送(もちろん、通常とは異なる、追跡不可能なルートでの)を指示した。
今回は、幸いにして、それを使う必要はなかったが、備えを怠ることは、彼女の流儀に反する。
指示は、数秒の音声認証と、短いコードの交換だけで完了した。
全ての『裏』の準備が、淡々と、しかし確実に進められていく。
佐藤が、ようやく、長い眠りから覚めたのは、ホテルのスイートルームの大きな窓から、冬の明るい日差しが、部屋の奥まで差し込んでいる、昼に近い時間だった。
彼は、昨夜の出来事の断片――同窓会の喧騒、井上の侮蔑的な目、エミリアの温かい手、そして、あの恐ろしいカードの年会費――が、まだ頭の中で混濁しているのか、しばらく、所在なげにベッドの上に座っていた。
「あら、おはよう、健ちゃん。よく眠れた?」
いつの間にか、彼の傍らに立っていたエミリアが、柔らかな声で尋ねる。
彼女は、既に身支度を整え、昨日、佐藤のために選んだものとはまた違う、シンプルだが上質な、動きやすそうなニットワンピースを着ていた。
「え…あ、うん…おはよう、エミリア。…あれ? もう、帰る時間なの?」
佐藤は、まだ少し寝ぼけた声で、壁の時計を見上げた。
「ふふ、もう健ちゃん、お昼ご飯を食べる時間よ」
エミリアは、まるで小さな子供をあやすように、くすくすと笑いながら、佐藤の頭に手を伸ばし、跳ねている彼の寝癖を、優しく指で梳いて直した。
「さ、顔を洗って、着替えて。お昼は、博多駅で、美味しいものでも食べましょう。新幹線の時間まで、少しあるから」
彼女は、昨日購入した、しかし、まだ佐藤には馴染まないであろう、高級ブランドの服(おそらく、カジュアルなジャケットとパンツだろう)を、ハンガーから外し、彼に手渡した。
それは、有無を言わせぬ、しかし、抗いがたい優しさだった。
佐藤は、されるがままに、着替えを手伝われる。
二人が、全ての荷物をまとめ、ホテルのフロントで、エミリアが(ヴァネッサから与えられたカードではなく、彼女自身の、あの謎めいたクレジットカードで)スマートにチェックアウトを済ませたのは、太陽が、空の最も高い位置に輝く、正午過ぎだった。
待たせていたタクシーの後部座席に乗り込む。
歩道側に佐藤、運転席の後ろにエミリア。
ドアが閉まると、外の、冬晴れの、明るく平和な日曜日の街の喧騒が、遠い世界の出来事のように感じられた。
タクシーは、滑るように走り出す。窓の外には、穏やかな福岡の街並みが広がっていた。
平和で、何の変哲もない、日曜日の昼下がりの光景。
「…それで、健ちゃん」
車内の静寂を破ったのは、エミリアだった。
「次の仕事のことだけど。例の、北海道の別荘を探しているお客様の調査依頼、そろそろ本格的に動き出さないとね。冬の北海道、寒そうだけど、…逆に、不動産の『粗』が見えやすいかもしれないわ。健ちゃんはどう思う?」
彼女は、手に持ったスマートフォン(おそらくは、クライアントとの連絡用に使っているものだろう)の画面を、佐藤に見せる。
佐藤は、その画面を覗き込んだ。
「うーん、そうだね…。でも、どうせ北海道まで行くなら、他にも、道内での調査依頼がないか、サスキアさんに確認してもらってからの方が、効率的じゃないかな? 何回も行き来するのは、時間も経費も、もったいないし…」
彼の思考は、既に、次の『表の仕事』へと切り替わりつつあった。
元銀行員としての、コスト意識が顔を出す。
「そうね。確かに、その方が合理的だわ。サスキアに、すぐ確認させる」
エミリアが、佐藤の提案を受け入れ、スマートフォンを操作しようとした、まさにその時だった。
ウーーーーーーーッ!
後方から、けたたましいサイレンの音が、急速に近づいてきた。
そして、車内に響く、警察車両からの、スピーカーを通した、鋭い指示の声。
「緊急車両が通過します! 進路を開けてください! 左に寄って停車!」
佐藤が、「え、何だろう?」と、声がする方…つまり、車道側を見ようとしたが、隣に座るエミリアの肩が、ちょうど彼の視界を遮る形になった。
彼が見えたのは、一瞬だけ、タクシーの横を猛スピードで走り抜けていく、赤色灯を屋根に乗せた、地味なセダンタイプの覆面パトカーの後部と、それが巻き上げる、乾いた街路樹の枯れ葉だけだった。
「…パトカー、いえ、覆面車が走って行ったわね。何か、大きな事件でもあったのかしら? 物騒ねぇ、福岡も」
エミリアは、ほんの一瞬だけ、スマートフォンの画面から、走り去る覆面車の後方を、ちらりと、本当に、ただ、ちらりとだけ、視線を送ると、すぐに興味を失ったように、再び画面に目を落とし、佐藤に、軽く、他人事のように、そう伝えた。
だが、その一瞬で、エミリアの、人間離れした動体視力と状況認識能力は、全てを正確に捉えていた。
覆面パトカーの後部座席。
その中央に押し込まれ、両脇を屈強な刑事に固められた、井上 剛の、憔悴しきった、生気のない顔。
虚ろな目で、うつむきながら、おそらくは、手錠をかけられた手を、膝の上で固く握りしめている姿を。
(…ああ、連れていかれたのね。まあ、当然の結果だわ)
エミリアにとって、それは、もはや、それだけの事だった。
自分の計画通りに、排除されるべき駒が、盤上から取り除かれた。
ただ、それだけ。
もう、佐藤とは、決して交わることのない、遠い世界の、関係ない人間の、当然の転落など、彼女の心を、一ミリたりとも、動かすことはなかった。
彼女の関心は、既に、隣に座る、愛しい男のことと、そして、次に排除すべきターゲットのことへと、完全に向いていたのだから。
タクシーは、何事もなかったかのように、博多駅へと向かう道を、走り続けていた。
***
日曜日のお昼前・東京――湾岸エリア、某トンネル工事現場。
冬晴れの空の下、現場は、静かな絶望に支配されていた。
警視庁、消防庁、国土交通省、そして施工主である大手ゼネコン…集まった関係機関の車両と、そのスーツ姿の職員たちは、坑口から溢れ続ける濁流を前に、ただ立ち尽くすばかりだった。
誰もが、あの、全てを飲み込むかのような漆黒のトンネル内部へと、一歩も踏み出せずにいたのだ。
理由は、複数あった。
まず、責任者の不在。
この現場を直接指揮していた藤本由紀とは、昨夜から完全に連絡が取れない。
次に、意思決定者の不在。
日曜日の午前中という時間帯が、多くの組織のトップや幹部たちの対応を遅らせていた。
現場レベルでは、誰も、この前代未聞の事態に対する責任を負いたくない。
結果として、始まったのは、原因究明や対策立案ではなく、部署間での責任の押し付け合いと、保身のための言い訳探しだった。
そして何より、あの闇の奥底で何が起こっているのか、その危険性が全く判断できないという、根源的な恐怖が、現場にいる全ての者の行動を、強く抑止していた。
停電し、換気も排水も止まった坑内。
有毒ガス、酸欠、そして、今も湧き出し、あるいは流れ込んでいるであろう、膨大な水の奔流。
その全てが、立ち入る者を確実に死へと誘う、見えない牙のように感じられた。
桜井刑事自身も、あの暗黒へと続く坑口を睨みつけながら、(もし、今、上司に「内部を調査してこい」と命令されたとして、私は「はい、分かりました」と、即答できるだろうか…?)と自問し、即座に「否」と結論付けざるを得なかった。
そんな自身の臆病さへの苛立ちと、この膠着状態への憤りが、彼女の中で渦巻く。
(…松田さんがいたら…あの人は、きっと、こんな状況でも、平然と消防に潜水装備でも要求して、酸素ボンベ背負って、一人で突入しかねないんだろうな…)
そんな、あまりにも無茶苦茶な、しかし、あの人なら本当にやりかねない、馬鹿げた発想が頭に浮かび、桜井は、ヘルメットの下で、思わず、自嘲的な苦笑いを浮かべてしまっていた。
このまま、日曜日のゴルフや家族サービスに勤しんでいるであろう、関係機関の本当の意思決定者たちが、重い腰を上げて『休日出勤』し、部下からの報告を(おそらくは数時間かけて)確認し、そして、省庁間、あるいは企業間での、責任回避と利害調整という名の、醜い『根回し』が終わるまで、この現場は、一歩も動かないのではないか――そんな諦めの空気が、寒風の中で待機する人々の中に、じわりと広がり始めていた、その時だった。
事態は、現場の混乱とは全く別の場所から、そして、予想もしない形で、一気に動き出した。
消防の司令センターに、一本の通報が入ったのだ。
それは、近くの河川敷の堤防で、犬の散歩をしていたという、高齢の男性からの、ひどく遠慮がちな、震える声での通報だった。
「あ、あのぅ…こんなことで、お電話していいのか、分からんのですが…川の、その、真ん中あたりにですな、…なんだか、小さな渦巻きが、できとるような気がしまして…ええ、いつもは見ないもんですから…気味が悪くて…」
トンネル現場の騒ぎで、既に多くの消防車両が出払っていた。
近隣の消防署からは、すぐに対応できる車両がいなかった。
通報の重要性を判断しかねながらも、消防は、少し離れた分署から、確認のためのポンプ車を、時間をかけて派遣した。
そして、その消防隊員が、双眼鏡で、通報のあった川面の渦を確認した時には、事態は、既に、取り返しのつかない段階へと進んでいた。
「隊長! こ、これは…! 小さな渦どころじゃない! 車でも、飲み込みそうな、巨大な渦です!!」
隊員の、無線越しの切迫した声。
慌てて、消防本部、そして現場の警察、関係機関が、渦巻きの正確な発生位置と、何枚もの工事設計図、河川図、地質調査データなどを、必死に照合する。
コンピューターが、該当座標を特定する。
――その渦巻きの真下は、今、桜井たちが見つめている、あの、水没しつつあるトンネル工事現場の、最も川に近い区間と、寸分たがわず一致していた。
それは、まさに、考えうる限り、最悪のシナリオだった。
単なる湧水ではない。
川の下を横断するトンネルの天井が、何らかの原因で崩落し、川の水そのものが、凄まじい勢いで、坑内へと流れ込んでいる証拠だったのだ。
「天井が抜けたぞ!」
「川の水だ!」
「逃げろーっ!!」
誰かの絶叫を皮切りに、それまで坑口近くで、ただ呆然と、あるいは無責任な議論を続けていた関係者たちが、今度は、パニックに陥り、我先にと、安全な場所へと逃げ惑い始めた。
そして、その頃には、既に、規制線の外に、どこから情報を聞きつけたのか、おびただしい数の野次馬が集まり始めていた。
彼らは、スマートフォンを高く掲げ、この現実離れしたスペクタクルを、興奮した様子で撮影し、SNSで実況し、中には、ライブ配信を始める者までいる。
さらに、テレビ局の報道ヘリが、けたたましいローター音を響かせながら、上空を旋回し始め、地上からは、複数のテレビクルーが、規制線ギリギリまで押し寄せ、現場の混乱ぶりと、右往左往するばかりの関係者たちの『無能』ぶりを、容赦なく全国へと中継し始めていた。
現場の警察官や消防隊員が、避難誘導や、二次被害の防止に、懸命に対応しようとする。
しかし、全体の意思決定は、依然として麻痺したままだ。
誰が最終的な責任者なのか、今、何を最優先すべきなのか、明確な指示が出ない。
ただ、目の前で、都市のインフラが、崩壊していく。
真っ暗なトンネルの坑口を覗き込んでいた人々も、濁流の勢いが明らかに増していくのを見て、慌てて後ずさる。
そして、ついに、地響きのような、あるいは、巨大な獣の断末魔のような、低く、重い轟音が、トンネルの奥から響き渡った。
それと共に、坑口から溢れ出す水の量が、一気に増大し、あっという間に、周辺一帯を、深々と飲み込んでいく。
専門家による後の分析を待つまでもなく、それは明らかだった。
このトンネルが、再び、人間が活動できる状態に戻るには、最低でも半年以上…いや、もしかしたら、二度と、水が抜かれることはないかもしれない。
莫大な費用と時間をかけて掘られた地下空間は、ただの、巨大な水の墓標と化したのだ。
そして、それは、この事件を追う警察にとって、坑内に残されていたであろう、犯行の手口や、犯人に繋がるかもしれない、あらゆる物証が、永遠に、冷たい水の底へと失われたことと、同義語だった。
桜井は、その、あまりにもあっけない、そして絶望的な結末を、ただ、立ち尽くして見つめることしかできなかった。
冬の、冷たい風が、彼女の頬を、強く、強く、打ちつけていた。
***
日曜日の昼過ぎ・羽田空港 第2ターミナル到着ロビー
藤本由紀は、福岡からの飛行機から、重い足取りで、羽田空港の到着ロビーへと降り立った。
週末の活気はまだ残っており、出迎える家族や恋人たちの笑顔、旅行帰りの人々の解放感が、ターミナルビル全体に満ちている。
しかし、由紀の心は、昨夜から続く、鉛色の焦燥感と、連絡が取れないことへの、言いようのない不安で、完全に支配されていた。
壊れたスマートフォンは、もはやただの文鎮だ。
公衆電話から会社や関係者に連絡しようにも、肝心の番号が、全てスマホの中だったことに気づき、彼女は軽い絶望を覚えていた。
(とにかく、早く会社に戻らないと…! 現場がどうなっているのか…!)
彼女は、預け荷物(最小限の着替えしか入っていない)を受け取ると、足早に、タクシー乗り場へと向かった。
一刻も早く状況を把握し、この遅れを取り戻さなければ、自分のキャリアが…。
その時だった。タクシー乗り場へ向かう彼女の進路を、まるで予期していたかのように、二人のスーツ姿の男性が、静かに塞いだ。
一人は恰幅の良い中年の男、もう一人は、眼鏡をかけた、鋭い目つきの若い男。
どちらも、見覚えのない顔だったが、その隙のない立ち居振る舞いと、彼らが放つ、どこか冷たい空気は、ただの社員ではないことを示していた。
「藤本 由紀さん、ですね?」
中年の男が、穏やかだが、有無を言わせぬ口調で、声をかけてきた。
「本社、コンプライアンス統括部の者です。…急なことで恐縮ですが、少々、お話を伺いたく。車を用意してありますので、こちらへ」
コンプライアンス…? なぜ、彼らが、空港で私を? 由紀の背筋に、冷たい汗が流れた。
「いえ、私は、すぐに本社へ戻って、状況を確認しないと…」
彼女が、かろうじて反論しようとすると、若い方の男が、冷ややかに言葉を継いだ。
「その必要は、今のところありません。状況については、我々が把握しております。あなたにはまず、我々の質問に、誠実に、お答えいただく必要があります。…会社の決定です」
断れば、どうなるか? この場で騒ぎ立てれば? 余計に怪しまれ、立場が悪くなるだけだ。
由紀は、一瞬で状況を判断し、内心の激しい動揺を、完璧なポーカーフェイスの下に押し隠した。
「…承知いたしました。ご案内ください」
彼女は、努めて冷静に、そう答えるしかなかった。
二人の男に前後を挟まれるようにして、彼女は、空港の喧騒から離れた、地下駐車場へと案内された。
そこに停まっていたのは、黒塗りの、ウィンドウに濃いスモークが貼られた、社有車登録ではない、ハイヤーと思しき高級セダンだった。
車内では、誰一人、言葉を発しなかった。
運転手も、同乗したコンプライアンス部の男たちも、ただ前を向いている。
由紀は、窓の外を流れる、見慣れたはずの首都高速の景色を眺めながら、これから自分に何が起こるのか、必死に思考を巡らせていた。
トンネルの湧水は? 工期は? 隠蔽していた事故は? まさか、バレた…? 不安と恐怖が、冷たい霧のように、彼女の心を蝕んでいく。
車は、都心の、高層ビルが林立するビジネス街へと入った。
しかし、向かった先は、彼女が勤める建設会社の本社ビルではなかった。
車が停まったのは、巨大な石造りの、重厚で、威圧感のある、…国内最大手の法律事務所が入るビルヂングの前だった。
「こちらです。どうぞ」
コンプライアンス部の男に促され、彼女は、まるで夢遊病者のように、車を降り、法律事務所の、静まり返った、しかし、どこか張り詰めた空気の漂う、豪華な応接フロアへと通された。
案内されたのは、防音壁が施された、窓のない、広い会議室だった。
部屋の中央には、大きなマホガニーのテーブルが置かれ、その向こう側に、数人の男女が、既に座って、彼女を待っていた。
会社の顧問弁護士団、法務部長、そして、おそらくは、リスク管理担当の役員…。
彼らの表情は、一様に硬く、その目は、これから始まる『監査』という名の、厳しい追及の色を、隠そうともしていなかった。
***
同時刻・大手建設会社 本社・役員会議室
一方、都内にある建設会社の本社、役員会議室は、日曜日とは思えない、怒号と、焦りと、そして責任のなすりつけ合いが渦巻く、戦場と化していた。
「…現場責任者の藤本とは、まだ連絡がつかんのか! いったい何をやっているんだ、あいつは!」
「昨夜から、全く…。携帯も、会社の緊急連絡網も、全て不通です…」
「トンネルは、完全に水没…。復旧は、早くても半年、下手をすれば、プロジェクト自体が…」
「損害額は、現時点で見積もり不能! あるいは…」
「株主への説明はどうする!? 週明けの市場が開く前に、何らかの手を打たねば…!」
役員たちが、蒼白な顔で、次々と報告される絶望的な情報に、右往左往している。
そこへ、社長秘書が、さらに悪い知らせを持って、慌てて飛び込んできた。
「社長! 先ほど、筆頭株主の一つである、海外投資ファンドから、緊急の問い合わせメールが! 内容は…」
秘書が読み上げる。
『…現在進行中の貴社トンネルプロジェクトに関して、工期の遅延、深刻な技術的問題、及び、下請け業者選定における不透明な慣行を示唆する、憂慮すべき情報に接した。非公式情報ながら、看過できない内容であるため、投資家への説明責任の観点から、早急に、貴社としての公式な見解と、リスク管理体制についての報告を求める…』
会議室が、水を打ったように静まり返った。
ファンドからの問い合わせ。
それは、単なる情報確認ではない。
経営権にさえ口を出す、『物言う株主』からの、事実上の、最後通牒に近い圧力だ。
トンネルの事故だけでなく、下請け業者選定の『不透明な慣行』…つまり、由紀が行っていた(あるいは、会社が黙認していた)不正行為まで、彼らは、既に嗅ぎつけている…!
「…藤本だ…」
誰かが、呻くように言った。
「全ての情報は、藤本が握っている…! 何としても、警察より先に、彼女から全てを聞き出し、対策を…いや、彼女に全ての責任を負わせてでも、会社を守るぞ!」
役員たちの間で、暗黙の了解が成立した。
彼らは、株主と、世論と、そして司法からの追及という、迫りくる巨大な嵐から、自らの保身を図るため、一人の、かつては「期待の星」ともてはやした女性社員を、生贄として差し出すことを、決定したのだ。法務部とコンプライアンス統括部に対して、顧問弁護士同席の上、藤本由紀から、「全ての事実」を聞き出すよう、厳命が下された。
その頃、由紀は、法律事務所の、冷たく、硬い椅子の上で、次々と浴びせられる、鋭い尋問の言葉に、ただ、震えることしかできなかった。
そこは、都内に聳え立つ、重厚な石造りのビルヂングの一室。
国内最大手の法律事務所が、そのフロアの大部分を占めている。
案内されたのは、窓もなく、壁一面が書籍棚(のように見えるが、おそらくは防音・防諜仕様だろう)に覆われた、広いが、どこか息の詰まるような会議室だった。
冷たい空調の音だけが、不気味なほど静かな室内に響いている。
部屋の中央には、磨き上げられた巨大なマホガニーのテーブル。
その向こう側に、数人の男女が、まるで査問委員会のように、硬い表情で座っていた。
会社の顧問弁護士団のトップ、神経質そうな法務部長、そして、顔には温和な笑みを浮かべているが、その目だけが全く笑っていない、リスク管理担当の役員…。
彼らの前に、たった一人、藤本由紀は、硬い椅子に、浅く腰掛けさせられていた。
「――それで、藤本さん」
最初に口を開いたのは、老獪そうな顧問弁護士だった。
その声は、穏やかだが、蛇のように、じわりと相手を絡めとるような響きを持っている。
「昨夜、あなたが、ご自身の個人的な携帯電話が使用不能になった経緯について、もう少し、詳しくご説明いただけますかな? 同窓会の席での、個人的なトラブルが原因、とのことでしたが…」
由紀は、内心の激しい動揺を、完璧なポーカーフェイスの下に押し隠し、努めて冷静に、昨夜の井上との諍いについて説明した。
アルコールによる井上の粗暴な言動、無理にスマホを奪われそうになり、揉み合いの末に破損してしまったこと。
それは、紛れもない事実だった。
彼女は、自分も被害者である、と暗に主張した。
弁護士たちは、顔色一つ変えずに、その説明を聞いていた。
相槌も、疑義も挟まない。
ただ、メモを取る音が、静かな部屋に響く。
その、感情を排した反応が、由紀の神経を、さらに苛立たせた。
やがて、弁護士が、全く別の質問を、唐突に投げかけてきた。
まるで、先ほどの話など、取るに足らないことだ、とでも言うかのように。
「ところで、藤本さん。貴女が責任者を務める、トンネル工事の件ですが」
その言葉が出た瞬間、由紀の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
「先ほど、筆頭株主の一つである、海外投資ファンドから、本社宛に、緊急の問い合わせがありましてね。…曰く、『下請け業者選定に関する不透明な慣行を示唆する、憂慮すべき情報に接した』、と。…これについて、何か、心当たりはありますかな?」
来た…! 由紀は、全身の血が、急速に冷えていくのを感じた。
スマホが壊れ、連絡が取れなかった、この十数時間に、本社は、既に、ファンドからの通報を受け、動き出していたのだ。
そして、その疑いの目は、真っ直ぐに、自分に向けられている。
(…トカゲのしっぽ切り…!)
その言葉が、彼女の脳裏をよぎった。
会社は、この未曾有の危機(トンネル水没と、それに伴う株主からの追及)を乗り切るために、全ての責任を、現場責任者である自分一人に被せて、切り捨てようとしているのだ。
あの、必死で隠蔽してきた、無理な突貫工事のための、グレーな下請け業者の利用、そして、それに伴う数々のトラブル…。全てが、暴かれようとしている。
恐怖と、絶望が、彼女の心を支配しかけた。
しかし、次の瞬間、その恐怖を、激しい怒りが、まるで業火のように、焼き尽くした。
(…ふざけないで…!)
彼女は、元々、負けず嫌いだった。
そして、不当なこと、理不尽なことには、決して屈しない、強いプライドを持っていた。
たとえ、相手が、自分を育て、引き上げてくれたはずの、巨大な企業組織であろうとも。
由紀は、それまでの、怯えたような、あるいは、取り繕うような表情を一変させた。
彼女は、椅子に深く座り直し、テーブルの向こうに座る男たち――弁護士、法務部長、役員――を、一人一人、強い意志を宿した、燃えるような瞳で、真っ直ぐに見据えた。
その姿には、もはや、組織に怯える若手社員の面影はない。
それは、自らの誇りをかけて、巨大な権力に立ち向かおうとする、一人の人間の、覚悟の表情だった。
「――下請け業者ですって?」
彼女の声は、震えていなかった。
むしろ、驚くほど、冷静で、そして、刃物のように鋭かった。
「それが、今回の事故(彼女は、まだ水没の原因が『事故』ではないことを知らない)と、一体、何の関係があるというのですか!? それとも、あなた方は、既に、私を犯人だと決めつけて、その『証拠』を探しているだけなのですか!?」
彼女は、たたみかけるように続けた。
「それよりも、申し上げるべきことがあるのではないでしょうか!? このプロジェクト自体に、最初から、どれだけの『無理』があったのか! あの、実現不可能な納期! 繰り返される予算削減! そして、現場の実情を全く無視した、上層部からの、一方的な圧力! それでも、私は、この会社のために、この国のインフラのために、文字通り、身を粉にして、このプロジェクトを成功させようと、必死で…!」
彼女の声は、次第に熱を帯びていく。
それは、単なる責任転嫁ではない。
彼女自身の、偽らざる心の叫びでもあった。
「その結果が、これだというのに…! いざ問題が起これば、全ての責任を、現場の一担当者である、私一人に押し付けようというのですか!? この期に及んで、保身に走ることしか、あなた方にはできないのですか! ふざけないでいただきたい!!」
由紀は、テーブルを、バン、と強く叩いた。
その音は、静まり返った会議室に、鋭く響き渡った。
彼女の瞳は、怒りと、悔しさと、そして、決して屈しないという、強い意志…博多の女の、意地と根性とも言える光で、燃えていた。
弁護士も、役員も、その、予想外の、そしてあまりにも激しい反撃に、一瞬、言葉を失い、顔を見合わせる。
彼らは、彼女が、ただ、おとなしく罪を認めるか、あるいは、泣き崩れるか、その程度だと、高を括っていたのかもしれない。
会議室の、冷たく、重苦しい空気が、由紀が放つ、激しい怒りの熱によって、歪み始めていた。




