羅針盤は彼女たちの手に、彼はただ揺れる 其十五
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
「それで健ちゃん。手伝うのは良いけど、どんなのを書きたいの?」
エミリアは、佐藤の熱意にやや目を丸くしつつも、ソファに隣り合って座り直し、興味深そうに尋ねた。
彼女の碧眼が、期待にキラキラと輝く佐藤の顔を映している。
部屋には、先ほどの興奮の余韻と、窓を打つ雨音が静かに混ざり合っていた。
エミリアからの問いかけに、佐藤は途端に現実に引き戻されたように、困った顔になった。先ほどの熱弁が嘘のように、声が小さくなる。
「そ、それが…そもそも、図上演習って、どんな風に書けばいいのか、全く分からなくて…」
彼は、まるで宿題のやり方が分からない小学生のように、恥ずかしそうに俯いた。
エミリアは、そんな佐藤の様子に、くすくすと喉を鳴らした。
その笑い声は、馬鹿にする響きではなく、むしろ、どこか微笑ましいものを見つけたような、温かい響きがあった。
「んー、図上演習の書き方? 難しく考えすぎよ、健ちゃん」
彼女は、人差し指を佐藤の額に、トン、と軽く当てた。
「健ちゃんが好きな、そうね…テーブルトークRPGのシナリオブックとか、すごく複雑なボードゲームのルールブックみたいなもの、って考えればいいわ。まあ、もうちょっと専門用語が多くて、結果が生々しい可能性があるけど」
エミリアは、悪戯っぽく片目を瞑る。
「基本はね」
と彼女は指を折りながら説明を始めた。
その手つきは、まるで複雑な機械を分解するように、理路整然としている。
「まず、『私たち(味方)』がどういう状況で、何を目指すのか、はっきりさせること。今回なら、『補給なしで異世界に飛ばされた欧州の有志国で編成された艦隊が、覇権国家を倒して元の世界に帰る』、これが大前提で目的ね。そして、私たちが使える『戦力』…どの船がいて、どんな航空機があって、弾薬はどれくらい残ってて、とか。そういうのを、まず整理するの」
佐藤は、真剣な表情でエミリアの説明に頷いている。
「次に、『敵』。健ちゃんがさっき、熱く『愛がない!』って語ってた、あの『覇権国家』のこと。彼らが何者で、何を考えていて(ここが重要ね!)、どんな軍隊…健ちゃんの好きな、ドラゴンとか、魔法使いとか、そういうの…を持ってて、どういう風に攻撃してきそうか。これを、健ちゃんが『愛を込めて』設定するわけ」
エミリアは、楽しそうに佐藤の顔を覗き込む。
「それから、『演習のルール』。何をやったらダメで、どうなったら『勝ち』もしくは『演習終了』になるか。今回の最大のルールは『補給なし』ってこと。他にも、例えば『民間人(異世界の住民?)への被害は最小限に』とか、そういう制限を加えることもあるわ」
彼女は、まるで物語を紡ぐように、言葉を続ける。
「あとは、途中で起こりそうな『イベント』をいくつか考える。例えば、敵の奇襲とか、味方の裏切り(!)、あるいは、天変地異とかね。参加者を飽きさせない、スパイスみたいなものよ」
エミリアは、説明を終えると、にっこりと微笑んだ。
「データを無味乾燥に並べるだけじゃなくて、しっかり『状況』と『目的』と『魅力的な敵』、そして『ルール』を設定する。健ちゃんなら、きっと面白いシナリオが書けるわよ。だって、あれだけ熱く語れる『愛』があるんだもの」
彼女の言葉には、佐藤への信頼と、そして、彼が見せた意外な一面への、純粋な興味が溢れていた。
佐藤は、エミリアの分かりやすい説明と、励ましに、少しだけ自信を取り戻し、目の前のファイルの山に、新たな決意を持って向き直ろうとしていた。
窓の外では、雨脚が少し強まり、海の色を深く染め、ガラスを叩く音が、部屋の静寂を際立たせている。
ヴァネッサは、窓の外の、雨に打たれる暗い海から視線を戻し、目の前で始まった奇妙な共同作業――日本語で、熱心に何やら議論を始めたエミリアと、それに真剣な眼差しで応える佐藤――を、しばらくの間、静かに観察していた。
その口元には、読み取ることの難しい、微かな笑みが浮かんでいる。(Hmm... Avec Emilia pour le surveiller, il restera sage, je suppose. D'ailleurs, cette situation présente une opportunité à saisir...(ふむ…エミリアが見張っていれば、彼はおとなしくしているでしょう、多分ね。それに、この状況は掴むべき好機を示している…))
彼女は、手元のタブレット端末を数回、滑らかな指先でタップし、緊急度の高い通信や、即時対応が必要な案件がないことを、瞬時に確認する。
そして、いくつかの簡潔な指示を、暗号化されたメッセージで、艦内のギヨーム、そしておそらく空母にいるであろう他の部下や連携する組織へと、送信した。
まるで、熟練の指揮者が、オーケストラの各パートに、静かに、しかし的確な合図を送るかのように。全ての割り振りを終えるのに、一分とかからなかった。
ヴァネッサは、ふう、と小さく、しかし深い息をつくと、ソファに座る二人に声をかけた。
「Emilia, Sato-san. I'm going to take a brief nap. It will likely be some time before we receive any reaction from the Japanese side, or until the next 'event' commences.(エミリア、佐藤さん。私は少し仮眠を取ります。日本側から何らかの反応を受け取るか、あるいは次の『イベント』が開始されるまで、しばらく時間がかかるでしょうから)」
その声には、わずかな疲労の色も感じられたが、それ以上に、全てを把握し、コントロールしているという、絶対的な自信が滲んでいた。
「Don't push yourselves too hard, you two. Especially you, Sato-san, you're still not fully recovered.(二人とも、無理をしすぎないように。特にあなた、佐藤さん、まだ完全に回復してはいないのだから)」
そう言い終えるや否や、ヴァネッサは、椅子に深く腰掛けたまま、まるでスイッチを切った精密機械のように、あるいは、熟練の兵士が戦場で取る仮眠のように、すう、と静かな寝息を立て始めた。
ほんの数秒前の、あの冷徹な司令官の面影はどこにもない。
その、あまりにも急な、そして無防備な寝顔に、佐藤は、文字通り、目を丸くして驚いた。
(うそだろ…!? 座ったまま、こんな一瞬で…!? これは、どういう状況なんだ…?)
「健ちゃん。寝てる人の顔をじろじろ見るのは、失礼よ」
エミリアが、楽しそうに、しかし小声で囁いた。
その声で、佐藤は、はっと我に返り、顔を赤らめながら慌てて視線を逸らす。
エミリアは、くすくすと笑いながら、自分のノートパソコンを開き、柔らかなキーボードの打鍵音を響かせ始めた。
部屋には、窓を叩く雨音と、ヴァネッサの静かな寝息、そしてエミリアのタイピング音だけが、まるで秘密の協奏曲のように響いている。
「さ、私たちの『お仕事』を始めましょうか。最高のシナリオ、作るんでしょ?」
エミリアの言葉に、佐藤はこくりと頷き、改めて彼女に向き直った。
「うん! それで、エミリアがさっき言ってた、『まず、『私たち(味方)』がどういう状況で、何を目指すのか』ってところ…これは、どうすればいいの? 僕、艦隊のことなんて、全然詳しくないんだけど…」
彼の声には、まだ少し不安が滲んでいる。
エミリアは、滑るような指使いでキーボードを叩きながら答えた。
画面には、複雑な艦隊編成表や兵站データらしきものが、瞬時に表示されていく。
その処理速度は、佐藤の目には魔法のように映った。
「そこはね、健ちゃんがさっき『素晴らしい』って褒めてた、あの分析レポートの設定を、ありがたく、そのまま使わせてもらうわ。使えるデータは、効率よく利用しないとね。時間は有限なんだから」
彼女は、悪戯っぽく片目を瞑る。
「なるほど…」
佐藤は感心して頷き、身を乗り出した。
ここからは彼の専門分野だ。
「じゃあ、次は『敵』! 『覇権国家』の設定ですね! ここは、僕の出番です!」
彼の目は、好きな物語の核心に触れる時の、あの独特の熱を帯びていた。
「例えば、敵は、生まれつき強大な魔力を持つ、選民思想のエリート集団というのはどうでしょう?」
エミリアの指が再び踊る。
「ふむふむ。『敵性国家は、魔術的適性に優れた選民思想を持つエリート階級により支配されている』…と。それで、彼らの目的は?」
「はい! で、彼らの目的ですが…もっとシンプルに、支配階級の飽くなき欲望のため、というのはどうでしょう? 豊かな土地、希少な資源、そして…まあ、そういった価値あるものを独占するために、周辺国を侵略している。悪役としては、非常に古典的ですが、行動原理が分かりやすい方が、かえって不気味さも出るかと」
(美しい女性、とはさすがにエミリアの前では言えなかった)佐藤は内心で付け加えた。
「…なるほど。『国家目標:支配階級の私的利益(資源・領土・その他価値あるもの)の最大化を目的とした、対外侵略及び植民地支配』ね。確かに、シンプルで古典的な悪だわ」
エミリアは淡々と入力していく。
「それで軍隊ですが!」
佐藤はさらに熱を帯びる。
「魔法エリートですから、個々の戦闘力は『一騎当千』レベルでしょう。しかし、そういう集団は、得てしてプライドが高く、個人主義に陥りやすい。『自分が一番優れている』と思っているから、効果的な連携行動は取れないはずです。組織的な集団戦闘は、明確な弱点になるのでは?」
「『主力は少数精鋭の魔術師。個々の戦闘能力は極めて高いが、過度の個人主義により、部隊間の連携及び大規模な組織的運用能力に重大な欠陥を持つ』…ふむ、弱点としては面白いわね」
「そうです! だから、個々の魔術師は強力でも、結局は人間(あるいはそれに準ずる知的生命体)です。何百キロも離れた目標を常にリアルタイムで探知したり、そこへ直接魔法攻撃を加えたりするのは、難しいはず。つまり、近代兵器…長距離センサーと誘導兵器を使えば、アウトレンジから一方的に攻撃できる可能性があるのでは? ドラゴンみたいな飛行生物がいても、レーダーで早期に探知して、長射程の対空ミサイルで迎撃すれば、有効射程に入る前に、かなりの数を減らせると思います」
「『敵は、限定的なC4ISR能力しか持たないと推定。長距離探知・精密誘導兵器によるアウトレンジ戦法、及び航空優勢の確保が極めて有効』…健ちゃん、なかなか鋭いじゃない」
エミリアは、少し感心したように呟き、佐藤の頭を、まるで労うように優しく撫でた。
佐藤は、その不意の、温かい感触に、顔を真っ赤にして固まってしまう。
「そ、それで、『演習のルール』ですが…」
佐藤は、照れを隠すように咳払いし、話を強引に続ける。
「味方の兵器は、さっきの話だと通常兵器限定ですよね? なら敵は…」
佐藤は、目を輝かせ、悪戯っぽく笑った。
「なんでもアリ! でいきましょう! 魔法でも、巨大なゴーレムでも、伝説の古代兵器でも、想像できる限りの脅威を!」
「…はいはい。『敵性国家の使用可能戦力は、魔法、非人間型兵器(ゴーレム、竜種等)、古代文明の遺失技術兵器、その他、想定されるあらゆる超常的・非対称的手段を含むものとする』。…ずいぶん、私たちに不利なルールね」
エミリアは、呆れたように付け加えたが、その指は楽しそうにキーボードを叩いていた。
「それから、『勝ち』と『演習終了』の条件! 『勝ち』は、もちろん、帝国を打倒して、全員で無事に元の世界に帰還すること! で、『演習終了』は、当然、艦隊が壊滅したり、帰還手段が完全に失われた場合ですよね!」
「ふむ。『勝利条件:敵性国家の継戦能力の完全喪失、及び母港への安全な帰還手段の確保・確立』。『演習終了条件:友軍艦隊の戦力損失率が規定値(例:30%)に到達、または作戦目標達成・帰還が不可能と指揮官が判断した時点』。こんな感じかしら」
「あと、『イベント』は外せません!」
佐藤の声が、また一段と大きくなる。彼の目が、完全に夢見る少年のそれに戻っていた。
「当然、艦隊を召喚した、美しく気高いお姫様との運命的な出会い! それから、覇権国家の圧政に苦しむ人々…例えば、森の奥深くに隠れ住む、一途な美人の妖精とかを助けて、深い信頼関係を結んだり! あとは、敵方の、信念を持つ美貌の女騎士が、我々の示す、より良い世界の可能性に触れて、最終的には味方になってくれる、とか!」
エミリアは、大きなため息をつきながらも、その佐藤の願望(という名の妄想)を、冷静に軍事・外交用語へと翻訳していく。
「『イベント要素:現地勢力の指導者(王族、有力者等)との関係構築による協力体制確立。被支配地域住民への人道支援・保護活動を通じた人心掌握及び抵抗勢力の組織化。敵対勢力内に対する浸透・扇動工作による内応者の獲得。プロパガンダ、分断工作による敵戦力の士気低下及び内部分裂の誘発…』と。…健ちゃんの理想の展開は、本当に分かりやすいわね」
最後の呟きは、佐藤には聞こえなかったようだ。
佐藤は、首を振った。
「天変地異みたいな、都合のいいのは、いりません。あっても、航行が困難になるほどの、大嵐とか、猛吹雪とか、その程度で」
「了解。『気象条件のランダムな悪化(航行・航空機運用、センサー能力への影響を考慮)』…と」
佐藤の、時に荒唐無稽で、時に妙に的を射た物語的発想と、エミリアの、それを冷静に分析し、図上演習のパラメータへと落とし込む、卓越した翻訳能力。
二人の奇妙な共同作業は、窓の外で雨が降りしきる、深夜のフィリピン海を航行する強襲揚陸艦の、豪華な一室で、熱気を帯びて続けられた。
静かに眠るヴァネッサの、規則正しい寝息だけが、その異様な創作活動の、静かなBGMとなっていた。
***
深夜の強襲揚陸艦、その最上級個室に、エミリアのノートパソコンのキーボードを叩くリズミカルな音だけが響いていた。
窓の外では雨が降り続き、ガラスを叩く音が単調なリズムを刻む。
ソファではヴァネッサが、まるで精密な機械が一時的に停止したかのように、静かな寝息を立てていた。
佐藤の熱弁から始まった奇妙な共同作業は、佳境を迎えていた。
エミリアの白い指が、最後の数行を打ち込み、エンターキーを静かに、しかし確かな手応えで押した。
画面には、無味乾燥な軍事文書のフォーマットに、佐藤が熱く語った荒唐無稽なファンタジー世界の要素が、奇妙な、しかし妙に整合性の取れた形で落とし込まれていた。
「…できたわ、健ちゃん」
エミリアは、満足げな、しかしプロの仕事人としての厳しい目つきで、ノートパソコンの画面を佐藤に向けた。
画面の青白い光が、彼女の美しい顔立ちを照らし出す。
「健ちゃんのアイデアを元に、図上演習シナリオの草案として、体裁を整えてみた。これで、健ちゃんの言ってた『愛のある』物語になってるか、最終確認をお願いできる?」
佐藤は、身を乗り出して画面を食い入るように見つめた。
そこには、彼が語った要素が、エミリアによって再構成され、箇条書きで整理されている。
シナリオ草案:コードネーム『プロジェクト・リバースゲート』
基本状況: 欧州連合艦隊、未知の要因(高エネルギー現象、魔術的可能性)により異世界へ転移。現有戦力以外、補給・増援は一切なし。母港への帰還手段不明。
友軍戦力: 現有の欧州連合艦隊データ(兵站状況含む)を基に設定。(エミリア注:既存データ流用)
目的:
敵性国家『鉄血魔導帝国』(仮称)の脅威排除・無力化。
元の世界への帰還手段の確保・確立。
敵性国家『鉄血魔導帝国』概要:
統治形態: 魔術的適性に優れた選民思想を持つエリート階級による独裁支配。
国家目標: 支配階級の私的利益(資源・領土・人的資源等)の最大化を目的とした、対外侵略及び植民地支配。
主力戦力:
少数精鋭の魔術師部隊(個々の戦闘能力は極めて高い)。
飛行生物騎兵隊(例:黒竜騎士団 - 詳細スペックは健ちゃんの熱弁参照)。
魔法生成兵器群(例:古代ゴーレム軍団 - 健ちゃんの情熱的解説より抜粋)。
使役型兵力(例:アンデッド兵 - 健ちゃんの力説に基づき設定)。
弱点: 過度の個人主義による連携能力の欠如。限定的なC4ISR能力。支配階級の腐敗による内部対立の可能性。
推奨対抗策: 長距離探知・精密誘導兵器によるアウトレンジ戦法。航空優勢の絶対的確保。敵指揮系統及び魔力供給源への精密打撃。
交戦規定(ROE):
友軍: 現有通常兵器及び搭載航空機のみ使用可。補給なし。
敵性国家: 魔法、非人間型兵器、古代兵器、その他あらゆる超常的・非対称的手段の使用を想定。
演習終了条件:
勝利: 敵性国家の継戦能力完全喪失、及び母港への安全な帰還手段の確保・確立。
敗北: 友軍艦隊の戦力損失率が規定値(例:30%)に到達、または作戦目標達成・帰還が不可能と指揮官が判断した時点。
想定イベント要素(抜粋):
現地勢力の指導者(例:召喚に関与した王族)との接触・関係構築。
被支配地域住民への人道支援・保護活動を通じた人心掌握及び抵抗勢力の組織化。
敵対勢力内(例:信念を持つ騎士団長)に対する浸透・扇動工作による内応者の獲得。
プロパガンダ、分断工作による敵戦力の士気低下及び内部分裂の誘発。
ランダムな悪天候(航行・航空機運用、センサー能力への影響)。
佐藤は、自分が熱く語った荒唐無稽なアイデアが、エミリアの手によって、それらしい軍事文書の形になっているのを、食い入るように見つめた。
不思議な感覚だったが、確かに、そこには自分が込めたかった「物語」の骨格と、それを実現するための(エミリアによる)現実的な道筋が示されているように感じられた。
「…うん! すごいよ、エミリア! まさにこれだ! 僕が言いたかったのは、こういうことなんだ! これなら、きっと面白い演習になる!」
彼は、心からの笑顔で答えた。その顔は、先ほどの熱弁の時よりも、さらに輝いて見えた。
エミリアは、その屈託のない笑顔を見て、満足そうに頷いた。
佐藤の純粋な称賛の言葉に、エミリアは満足そうに頷き、彼の「プロジェクト・リバースゲート」の草案を、細心の注意を払って保存した。
まるで、貴重な古代の巻物を、厳重な書庫に納めるかのように。
しかし、彼女の指は、休むことなく、再びキーボードの上を軽やかに、しかし今度はどこか獰猛な速度で踊り始める。
真っ白な新規ドキュメント画面に、新たな、そして明らかに不穏なタイトルが打ち込まれていく。
その横顔は、先ほどの共同作業の時の温かさとは違う、何か極上の悪戯を思いついた子供のような、あるいは、巧妙な復讐計画を練る冷徹な策士のような、鋭く、妖しい輝きを帯びていた。
佐藤は、その様子を、不思議そうに覗き込んだ。
エミリアの創造への熱意が、まだ別の方向に向かっていることに、彼は少し驚いていた。
「エミリア…? 今度は、何を書いてるの?」
エミリアは、キーボードから顔を上げず、しかし、その声には隠しきれない楽しそうな響きが乗っていた。
「その前に、健ちゃん。さっきの大量のファイル…健ちゃんが読み始める前、ヴァネッサがどんな顔してたか、覚えてる?」
彼女は、ちらりと静かに眠るヴァネッサに視線を送る。
その寝息は、規則正しく、部屋の静寂に溶け込んでいる。
佐藤は、少し考えて、記憶を辿った。
ヴァネッサの、あのあからさまな辟易とした表情を。
「えっと…僕が読みたいって言う前は、ヴァネッサさん、すごく露骨に、嫌そうな顔をしてたよ。なんていうか、僕が銀行にいた頃、朝一番で、分厚い稟議書の束がドサッと机に置かれた時の、あの『うげっ』ていう感じの…絶望的な顔を思い出したよ」
エミリアは、その的確な(そして元銀行員らしい悲哀に満ちた)表現に、くすくすと喉を鳴らした。
「なるほどね、稟議書の束か。言い得て妙だわ。健ちゃん、たまに鋭いこと言うのね」
彼女は、再びキーボードに向き直る。
その瞳には、悪戯っぽい、しかし冷徹な光が宿っていた。
「じゃあ、健ちゃん。それだけの『稟議書の束』…それも、中身は出来の悪いファンタジーの企画書みたいな代物を、わざわざ送り付けてきた日本の『専門家』さんたちには、それ相応の、心のこもった『御礼』をすべきだと思わない?」
その言葉には、明らかに「報復」の甘美な響きが込められていた。
佐藤は、エミリアが何を考えているのか、何をしようとしているのか、全く分からなかった。
ただ、彼女の瞳の奥に、先ほどとは違う種類の、キラキラとした、しかし少し危険な光が宿っているのを感じて、ごくりと唾を飲んだ。
エミリアの指が、再び猛烈なスピードで動き出す。
画面には、新たなシナリオの骨子が、みるみるうちに形作られていく。
それは、先ほどの異世界ファンタジーとは似ても似つかない、しかしある意味で、それ以上に過酷で、絶望的な設定だった。
「これはね、」
エミリアは、まるで極上の罠を仕込むかのように、声を潜めて言った。
その声は、興奮でわずかに震えている。
「海上自衛隊向け、特別高難易度図上演習シナリオ、コードネーム『金曜日の惨劇』」
彼女は、悪戯が成功した子供のように、得意げに画面を佐藤に向けた。
シナリオ概要:コードネーム『金曜日の惨劇』
基本状況: 海上自衛隊練習艦隊(旗艦を含む複数隻編成)、長期の遠洋練習航海に出発。世界一周コース、寄港地多数。士気は極めて良好(特に出航前のカレー補給により)。
発端事象: 出航後数日して、艦内の主計科倉庫にて重大な事実が発覚――搭載予定だった、全航海期間分(数ヶ月分)の**カレールウ及びカレー粉(多種多様なスパイス含む)**が、出港前の書類上の不備(あるいは、カレー嫌いの補給担当幹部による、意図的なサボタージュ?)により、一切積み込まれていなかったことが判明。
制約条件:
艦隊は当初の任務計画を変更せず、世界一周航海を完遂せねばならない。
寄港地でのカレー関連物資(カレールウ、カレー粉、関連スパイス等)の補給は、絶対に不可能とする。理由:この「カレー不足事態」という、あまりにも情けない(?)不祥事が外部に漏洩し、艦隊及び海上自衛隊全体の威信に関わることを極度に恐れた上層部より、「寄港地での購入記録(帳簿)が残るような、カレー関連物資の調達は一切禁止する」との厳命が、極秘裏に下達されたため(※エミリアによる悪魔的設定)。
母港に帰港するまで、乗組員に対し、慣れ親しんだ「金曜日のカレーライス」は一切提供できない。他の曜日の食事で代替するしかない。
演習目的: この、日本人(特に海上勤務者)にとって精神的に極めて過酷な状況下において、艦隊司令部及び各艦の指揮官は、予測される乗組員の深刻な士気低下、栄養バランスの偏り(による戦闘能力低下)、潜在的な下剋上・暴動(!!?)にいかに対処し、数ヶ月に及ぶ長期任務を完遂できるか、その卓越した指揮能力及び前代未聞の危機管理能力を検証する。
エミリアは、そこまで打ち込むと、達成感に満ちた、そして最高の悪戯を仕掛けた子供のような、満面の笑みで佐藤を見た。
「どう、健ちゃん? なかなかリアルで、心理的にじわじわと追い詰められる、過酷な状況設定でしょう? これに対する最適な回答、彼らに本気で考えてもらうの。私たちの、心のこもった『感謝』の印としてね」
その笑顔は、天使のように無邪気でありながら、悪魔のような残酷さを秘めていた。
佐藤は、そのあまりにも馬鹿馬鹿しい、しかし妙にリアリティのある(特に日本人にとっての金曜カレーの重要性を考えれば)シナリオに、ただただ、呆然とするしかなかった。
背筋に、冷たいものが走るのを感じる。
(これを、あの真面目そうな自衛官たちが受け取ったら、一体どんな顔をするんだ…? いや、それ以前に、この発想は…)
想像するだけで、胃がキリキリと痛む思いだった。
エミリアの『御礼』は、いつも、想像の斜め上を、音速で飛んでいく。
***
眠っていたヴァネッサの瞼が、音もなく、すっと持ち上がった。
まるで、内部タイマーで制御されているかのように、寸分の狂いもなく。
数分前まで、静かな寝息を立てていたのが嘘のように、その美しい瞳には、瞬時に、鋭い理性の光が戻っていた。
艦内の照明が落とされ、部屋はさらに薄暗くなっている。
窓の外では、雨が横殴りにガラスを叩きつけ、風の唸りが聞こえる。
艦は、わずかに、しかし確実に、揺れを感じさせていた。
彼女は、まず周囲の状況を一瞥し、エミリアと佐藤がノートパソコンを囲んで、何やらまだ熱心に話し込んでいるのを認めた。
「Ah, you're up, Vanessa.(ああ、起きたのね、ヴァネッサ)」
エミリアが、悪戯が成功した子供のような、上機嫌な声で話しかける。
「Excellent timing! Our little... 'reciprocal gesture'... for those terribly clever Japanese 'experts' is all set. Introducing: Codename 'Friday Tragedy'!(最高のタイミングね! あの、とーっても賢い日本の『専門家』さんたちへの、私たちのささやかな…『返礼』の準備ができたところよ。ご紹介するわ:コードネーム『金曜日の惨劇』!)」
彼女は、誇らしげに、そしてどこか挑戦的に、ノートパソコンの画面をヴァネッサに向けた。
その画面の明るさが、エミリアの興奮した顔を照らし出している。
ヴァネッサは、無表情のまま、エミリアから手短に説明されるシナリオの概要に目を通した…いや、耳を傾けた。
遠洋練習航海…搭載ミスのカレー粉…補給禁止(それも、上層部の見栄が理由で)…士気低下、暴動の可能性…そして、その危機管理能力の検証…?
(Elle est sérieuse...? Cette sœur... elle veut vraiment leur refiler cette chose comme 'remerciement'...?(正気なの…? この姉は…本当にこの『代物』を『お礼』として彼らに押し付けるつもり…?))
ヴァネッサは、深々と、心の底から、音にならない長い溜息をついた。
もはや呆れ果てて、言葉も出ない。
その完璧に整えられた表情が、わずかに痙攣したのを、部屋の隅で成り行きを見守っていた佐藤は見逃さなかった。
(やばい、ヴァネッサさんが本気でキレるんじゃ…)彼は、まるで嵐に怯える子犬のように、さらに体を小さくした。
しかし、ヴァネッサは激高しなかった。
彼女は、エミリアの、期待に満ちた(そして、断れば百倍面倒なことになるであろう)顔を、じっと見つめた。
経験則が、冷たく囁いている。
ここで彼女の「善意(?)」を無下にすれば、今後の任務に、どれだけ予測不能な支障が出るか分からない。
ヴァネッサは、もう一度、今度は音に出して、重い、諦観に満ちた溜息をついた。
まるで、効果のない劇薬を、それでも飲むしかないと覚悟を決めたかのように。
彼女は、艦内通信機のボタンを押した。
「Guillaume, un instant.(ギヨーム、少々(こちらへ))」
音もなく現れた副官に、ヴァネッサは、努めて平静な、しかし隠しきれない疲労を滲ませた声で指示を出した。
「Envoyez une réponse au commandement de l'escorte japonaise. Premièrement, exprimez notre plus grande gratitude et notre profond respect pour leur réponse rapide et détaillée à notre 'demande de coopération'. Ajoutez que les nombreux scénarios fournis constitueront une référence extrêmement précieuse pour la planification de nos exercices futurs.(日本の護衛艦司令部へ返信を送りなさい。第一に、我々の『協力要請』に対する、迅速かつ詳細な回答へ、最大限の感謝と敬意を表明すること。提供された多数のシナリオは、我々の今後の演習計画立案において、極めて貴重な参考資料となる、とも付け加えて)」
彼女は、そこで一呼吸置き、ちらりとエミリアを見た。
エミリアは、満足げに頷いている。
「...Ensuite, informez-les qu'en 'signe de gratitude', nous leur transmettrons également, de manière non officielle mais 'spéciale', un scénario d'exercice dans trente minutes. Transmettez-le ainsi.(…その上で、『感謝の印』として、こちらからも、非公式ながら『特別』な演習シナリオを、三十分後に送信する、とそのように伝えなさい)」
彼女は、エミリアが「Voilà.(さあ、どうぞ)」と差し出すデータスティックを、まるで汚物でも扱うかのように、しかし優雅な仕草で受け取ると、ギヨームに手渡した。
ギヨームは、そのデータスティックの内容を知る由もない。
ただ、完璧な礼と共に音もなく退室していく。
後に残された部屋で、ヴァネッサは、再び、深く、深く、椅子に身を沈めた。
窓の外では、雨と風が、さらに強まっているようだった。
この姉は、これほどの才能を持ちながら、なぜ、いつもこうも、その卓越した思考能力を、壮大な悪戯か、個人的な執着のためにしか使わないのか。
彼女は、心底から、その才能の壮大な無駄遣いを嘆き、ただただ、繰り返される溜息を、止めることができなかった。
***
早朝の光が、大型護衛艦の窓から、雨に煙るフィリピンの海を鈍く照らし出していた。
まだ夜が明けきらないかのような薄暗さだ。
艦内の、電磁シールドが施された作戦準備室は、モニター類が放つ青白い光と、夜通しの作業で淹れられたのであろう、やや煮詰まったコーヒーの香りで満たされている。
神崎、青山、川島、そして数名の専門分析官や士官たちが、欧州の有志国で編成された艦隊の実弾演習で得られた膨大なデータと、欧州の有志国で編成された艦隊に関する断片的な情報――その多くはヴァネッサという存在の深い霧に包まれている――の分析を、黙々と続けていた。
空気は、高い集中力と、わずかな疲労、そして未だ解けぬ謎への静かな緊張感で、張り詰めていた。
「一佐、」
通信を担当していた若い三等海佐が、明らかに困惑しきった表情で、神崎に報告した。
「欧州艦隊旗艦…強襲揚陸艦司令部より、暗号通信です。『先の演習協力への感謝の印』として、『非公式の特別図上演習シナリオ』が、予告通り、たった今、送信されてきました」
その声は、「信じられないものを受け取ってしまった」とでも言いたげに、わずかに震えている。
神崎は、訝しげに眉をひそめながら、「…開いて、メインスクリーンに表示しろ」と、低い声で指示した。
川島が、まるで未知のウイルスファイルでも扱うかのように、慎重な手つきでファイルを解凍し、その内容を巨大なディスプレイに映し出す。
タイトルは――『特別高難易度図上演習シナリオ:コードネーム「金曜日の惨劇」』。
部屋に、一瞬、完全な沈黙が訪れた。
誰もが、画面に表示されたテキストの冒頭――『基本状況:海上自衛隊練習艦隊、長期遠洋練習航海に出発。士気良好』――に目を通し、ごく普通のシナリオかと思った、次の瞬間だった。
『発端事象:搭載予定だった、全航海期間分のカレールウ及びカレー粉、関連スパイスが、書類不備(あるいはサボタージュ?)により、一切積み込まれていなかったことが判明』
「……は?」
誰かが、間の抜けた声を漏らした。
次の瞬間、部屋のあちこちから、失笑とも、呆れともつかない、ざわめきが起こる。
「カレー…だと?」「冗談だろ、これは…」「いや、待て、制約条件を読め…補給禁止!?」「理由が『上層部が威信を気にして記録残る購入禁止』!?」「『潜在的な下剋上・暴動(!!?)にいかに対処し…』だと!?」
神崎は、無言で腕を組み、スクリーンに映し出された、あまりにも馬鹿馬鹿しい、しかし妙に悪意に満ちたシナリオを、冷徹な目で見つめていた。
青山は、冷静に、しかしその口元は微かに引きつっていた。
「…シナリオ構造自体は、極限状況下での指揮官の意思決定と、部隊の士気維持に関する、高度なストレス・シミュレーションとして、分析可能です。しかし、この…『カレー』というトリガーの設定は、あまりにも…」彼女は言葉を濁した。
「…我々の文化、特に海上勤務者の心理に対する、深い(あるいは、悪意ある)理解に基づいているとしか思えません。送信元は、我々を、相当、研究していますね」
川島は、頭を抱えたいのを必死にこらえているようだった。
「技術的には、暗号化も経路も正規のものです。ですが、この内容…、こちらが送った『覇権国家』設定への、意趣返し、…いや、それ以上の何かを感じます。これは、単なる嫌がらせか、それとも、我々の対応能力…特に、このような『非論理的』な危機への対応を見るための、高度な心理テストなのか…」
神崎は、他の者たちの動揺をよそに、思考を巡らせていた。
(…異世界転移シナリオへの、返答。こちらの『ノイズ飽和攻撃』に対する、相手なりの『カウンター』か。しかし、質が違う。これは、無意味な情報ではない。我々の文化、組織心理の、最も柔らかい部分を、的確に、そして悪意を持って突いてきている…。何度も映像を確認した、あの黒ずくめの護衛か? それとも、ヴァネッサ自身の、歪んだユーモアセンスか…?)
彼は、深く息を吸い込み、混乱しかけている部屋の空気を、一喝するように、静かに、しかし強い口調で言った。
「…諸君、落ち着け。内容の馬鹿馬鹿しさに惑わされるな」
神崎の声に、室内のざわめきが、ピタリと止む。
「これは、相手からの、極めて洗練された『メッセージ』だ。我々を、感情的に揺さぶり、思考を混乱させ、あるいは、我々の対応パターンそのものを分析しようとしている。…まんまと、その手に乗るわけにはいかない」
彼は、立ち上がり、部屋全体を見渡した。
その瞳には、情報将校としての、冷徹な光が戻っていた。
「この『金曜日の惨劇』シナリオは、最重要分析対象として保管。青山、川島、送信データ、通信記録、関連するあらゆる情報を、徹底的に洗い直せ。何か、別の意図が隠されている可能性がある。…だが、」
神崎は、そこで一呼吸置いた。
「我々の本来の任務は変わらない。ヴァネッサ・ウィリアムズと、オプスキュリテの実態解明だ。感情に流されず、分析を続けろ。…彼らが、どんな手で来ようとも、我々は、冷静に対応する。それだけだ」
神崎の言葉は、混乱しかけていたチームの空気を、再び引き締めた。
しかし、彼の内心には、この奇妙奇天烈な『一手』を、おそらくは楽しみながら打ってきたであろう相手への、新たな警戒心と、底知れない不気味さが、雨音と共に、深く刻み込まれていた。




